六十二話 result③
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「んだ? ここ」
マーラはそう呟くと彼女の目の前には真っ白な空間が広がっており、その真ん中には両眼を真っ白なアイマスクで覆った少女が立っていた。
「お前、マキナか」
マキナはマーラを待っていたのか、彼女に喋りかけられると、こちらを向き、口を開く。
「ええ、久しいわね、マーラ」
「久しいも何も俺はさっきまで戦ってたじゃねえか」
「そうね。あなたからしてみればそうかもね」
マキナはそう言いながらマーラに近寄った。
(ここはマキナの【魔力】と俺の【魔力】が混じった結果、生まれたアイツの心象風景みたいなもんか。何されるんだか、分からんが攻撃して来たら、叩き落とす)
それを警戒し、マーラは拳を前に構えたが、マキナは無視して彼女の手を握る。
「んだよ」
「一曲、踊ってくれない? マーラ」
「あ? なんでだよ、ってオイ!?」
マーラの拒否を無視して、マキナは彼女の体をリードしながら無理矢理踊り始めた。
「London Bridge is broken down~♪ Broken down~♪broken down ~♪London Bridge is broken down ~♪My fair lady ~♪」
美しくもか細い声で歌を歌う姿は、【魔王】など呼ぶには、あまりにも折れてしまいそうな、至って普通の女の子。
くるりくるりと廻り、真っ白な会場でマーラとマキナは踊る。
「ねえ、マーラ」
踊りながら、マキナはマーラに喋りかけた。
「んだよ」
「あなた、踊りが出来たのね」
「当たり前だろ、【魔王】だぞ。踊りなんて嗜むに決まってる」
「ふーん、【魔王】殺しの【魔王】が踊りね」
マキナの言葉に、マーラは神経をほんの逆撫でされたのか怒りの感情を滲ませる。
そんなマーラを無視して、マキナは淡々と喋り出した。
「【魔王】殺しの【魔王】、【第六天魔王】などの肩書きなどは偽り。それは【殲滅のアカシャ】の物。あなたは【魔王】に嫌われた番外位【魔王殺戮者】」
「オイ、それ以上は黙れよ」
「ええ、もう言わないわ。私はあなたみたいな野蛮な【魔王】に睨まれて、震えあがっちゃうもの。だからね、そんなあなたに問いたい。私は【魔王】として、上手く踊れたかしら」
マキナがマーラを煽ったのは、彼女の過去を知っているから。そして、その過去のマーラへと問いたかった。
今の自分が【魔王】としてよく出来たのか、自分は殺すに相応しい存在であったのか、マキナはそれをマーラに尋ねた。
「そんなん決まってるだろ。俺はお前を殺す相手に認識した。それが答えでそれ以上も以下もない」
マーラからしたら、その殺害宣言は敵を認めたことであり、それほどにマキナは【魔王】として、世界にその意味を示した。
「意外、そんなに褒めてくれるなんて、私も少しだけあなたがどんな奴か分かった気がする」
その言葉と同時に、マキナ達の踊りのリードを急にマーラが握った。彼女が見せたゆっくりとしたリズムでの舞踏でなく、激しく、それでいて、アップテンポな踊りに切り替わる。
「ふん、俺から言わせればかつてのお前には隠し切れないほどの野心も、燃える様な怒りも、全てを壊す様な憎悪も無かった。だが、今は違う。全てを見せて来た。機械の様な合理的判断、そればかりに拘ったお前が全てを壊すために動き、自分の怒りをぶつけるために俺に挑んだ。それでいて、最悪の【筺】まで開けた。賞賛するよ、【第四戯魔王、支配のマキナ】、お前は俺が殺すに相応しい相手だ」
「そう。そんな風に誰かに褒められたこと、ほとんど無かったから、何だか嬉しい」
グルグル廻り、タンッと地面を蹴り上げ、跳ねてはまた、繰り返し。
激しい舞踏であるにも関わらず、マキナは喰らい付き、一切、マーラのリズムを崩さない。
「ねえ、最後の1つだけ聞いていい?」
「いい、許可する」
「あなたは先王を腑抜けた【魔王】と思ってた?」
最後の問いは自らの物ではなく、かつて、人類を信じ、殺された【魔王】に対しての問い。
マキナにとって、人類に裏切られた父はあまりにも滑稽で、無様であると笑ってしまいたかった。
だが、彼女はそれが出来なかった。
【勇者グラン】と【魔王エクス】、彼ら2人が求めた夢はあまりにも理想ばかりであったが、それでもマキナにとって、その理想が眩しく忘れられずにいた。
だからこそ、【魔王】を殺す異端者に尋ねた。
「そんなのが最後の質問かよ。お前はつくづく馬鹿だな。俺からしたらアイツも立派なターゲットだ。人類との和平を成した【魔王】、そりゃ、立派な奴だ。俺とおんなじ異端の【魔王】。腑抜けた? 嘘言うな。実のところ、俺はアイツを殺しに行ったんだよ。和平が成立する前日にな。だが、アイツは俺を退けた。正確に言うと俺から生存を掴み取ったんだ。生殺与奪はもちろん俺が握ったぞ。勝ちは俺だ。それでもアイツは生きる意志を見せた。俺はそれに折れたし、アイツが見せる世界を見たかった。これで良いか?」
そう言うと激しい舞踏は突如として終わりを告げ、彼らは互いに体を重ねたまま、見つめ合う。
「その言葉を聞けただけで、私は満足した。マーラ、私、あなたが心底嫌いで、他の【魔王】達もケルヌンノス以外全員大嫌いだった。でも、少しだけ、あなたのことを嫌いじゃなくなった」
「そりゃどうも。俺もそろそろ、この空間から出てたいんだが」
「もう【魔力】が燃えて消える。精々、あの地獄の様な現実で踠き苦しんでね、マーラ」
少女は吐き捨てる様にマーラに告げるが、その表情は何処か柔らかく、慈しみの様な視線が向けられた。
それと同時に、真っ白な空間の地面にヒビが入り、ボロボロと崩れ始める。
(お前に言わなくてもそうするよ。俺は俺でやる事があるんでな)
***
「オイ! カーマ! 起きろ!」
目を開くとそこには何度も自分の体を揺らす、レンジの姿があり、マーラはパチパチと瞬きをする。
「カーマ、そろそろ、起きてください。師匠に抱いてもらうなんてあなただけの特権じゃないです」
「んだよ、ミリアお姉ちゃんはそんなことでも嫉妬すんのか?」
軽口を叩きながら、立ち上がろうとするが、軽い目眩の様なものが襲い掛かり、足の力が入らずにマーラは地面に倒れてしまう。
それをレンジが抱えるよりも早く、ミリアが抱き抱える。
「オヤオヤ、優しいじゃないの」
「優しいのではありません。今、一番力が残ってるのは、僕です。合理的にそうしたまでです」
マーラはミリアの肩を借りながら、立ち上がるとレンジへと喋りかけた。
「レンジ、俺の【魔力】は全部燃やしたのか?」
「ああ、【夜叉】の蒼炎が燃やし尽くしたよ、お前ともう1つあった【魔王】の【魔力】をね。そういえば、カーマ、この前みたいに自分の体は取り戻さなくて良いのかい? いや、まぁ、さっき【魔王】の体見たいのあったけど、あれもう黒焦げで何かを取り出すとか出来ないっぽいけど」
「それはもう良い。アイツが俺を対象に【筺】を使用した際に、俺の体に戻って来てたらしい。もう、俺の中にある。急いでて気付かなかったけどな」
マーラが言い終えると同時に、辺りが輝き始め、それによって、【魔王】を殺した事が確定する。
「【魔王】を殺した報酬だ。受け取れ、人類。お前達はまた1つ、進化する。報酬、開放」
そして、再び世界は光に包まれる。
【第四戯魔王】を討伐した事で支払われる報酬、それは人々に何を齎すのか。
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