六十一話 おじさん、第四戯魔王に挑む⑩
レンジに守られて夜から離れたマーラは【池袋】の遊園地内を飛び回っていた。
(何が原因だ? 大気中にある【魔力】じゃ無い。あの【筺】の能力の正体。これを明かさない限りは【魔王】を殺せていない。考えろ、考えろ! 何が正解だ!?)
マーラは飛び回りながら、マキナの置き土産である【筺】の能力の正体について、考える。
そんな中、【冒険者】と魔物達の舞踏会が繰り広げられていた広場に目が行った。
先程まで人間同士、魔物同士が殺し合いをしていた会場であったのだが、今は魔物全ての真っ二つに切られており、人々は気を失って倒れていた。
「あれは、ミリアか! アイツあそこにいた大量の人間と魔物を止めたのか!」
広場の真ん中には、気を張り巡らせ、誰1人傷つける事なく、その場にいる全員の気と魔物全てを倒しており、ミリアは大きく呼吸を深呼吸をした。
「おーい! ミリアー!」
マーラはそんなミリアへと声をかけながら近付くとその瞬間、彼女は容赦無く刃を向けた。
「っ?! オイ!」
マーラはそれを自身の得物で対応し、ギリギリで弾くとそのおかげで、ミリアの目に光が宿る。
「カーマ、ですか」
「ですか、じゃねえわ! 俺に刃を向けるなんていい度胸だな!」
マーラの言葉により、ミリアは刀を納めると再び深呼吸をし、自分を落ち着けた。
「すみません、さっきまで僕に襲いかかって来る人ばかりで集中していました」
「集中って、お前なー。ありゃ、人を殺す眼だったろ」
「? いいえ? 僕を殺人鬼呼ばわりとは、いい度胸ですね、カーマ」
ミリアはキョトンとした表情を浮かべ、首を傾げる。
マーラはそれに対して、ミリア自身がその今の自分がどんな顔をしていたのか、どんな表情を浮かべていたのか無自覚であることを理解するとため息を吐いた。
「む、何ですか? その反応は」
「いや、別に。お前も難儀だなって思っただけだ。それよりも、ここに居る人間全員気絶させたのか?」
辺りにいた【冒険者】全ては気を失っており、起きる気配はなく、マーラはそれを見ながらミリアに問いかけた。
「そうですね。皆、僕である事を知らないかの様に襲い掛かって来たので全員、峰打ちしました」
「なるほどな。ミリア、知ってると思うが、今、この迷宮には、マキナの【筺】が発動してる。そう言えば、お前とレンジは何ともなかったのか?」
「僕達も一瞬、それに飲まれましたよ。ただ、師匠の刀のおかげで何とかなりましたけど」
「何だそれ? レンジの刀って、【夜叉】のことか?」
マーラはレンジの持つ【夜叉】の能力を知っておらず、ハテナマークを頭上に浮かべた。
「ええ、あれは【魔力】を焼く炎を持ってます。なので、師匠をあなたの元に向かって貰ったのですが、何故、肝心の貴方がここに?」
「さっきまで、夜が【筺】に呑まれてな。それをレンジが止めてくれて、俺は【筺】の能力の正体を明かすために色々飛び回ってた訳だ。なぁ、ミリア、お前、【筺】の影響を受けた時、どんな感じだったんだ?」
「能力を受けた時です、か? たしか、白いベールみたいなのが突然、目の前を覆って、その先には人型の怪物が立っていたんですよね。それで僕は師匠を攻撃して、何処かに送った、脳が勝手にそう認識して、刀を抜きました。そしたら、目の前に師匠がいて、【夜叉】の炎が体に纏っていた【魔力】を燃やしてくれたそうです」
ミリアの説明を一通り聞き、マーラは自分が気付いていなかった場所に目が付いた。
(多分、影響を受けている奴らは全員【魔力】を纏っている。ということは、この場にいる人間達全員にマキナの【魔力】がついていて、それによって認知が歪んだってことか。何が条件なのか分かったが、それでいて誰を介してるんだ? 【魔力】を纏っているなら、その発信源があるはずだ。考えろ、俺。マキナならどうする? いや、【魔王】なら、どうする? こっちの方が答えに近付けるな。俺なら自分が嫌な事を一番にする。嫌な事、嫌な事? そうか、俺を苦しめたなら、俺に対して、最大限の嫌がらせをする。となると、はは! なるほどな、マキナ、お前、ようやく【魔王】らしくなったじゃないか。賞賛するぜ)
マーラが気が付いた事、それは影響を受けた【冒険者】、魔物、それら全てにマキナの【魔力】が付着しており、その【魔力】を通じて、認知を歪めていたという物。
マキナの死の間際に完成させた、【筺】、戯。
それはマキナがその身が焼かれる中で、編み出した【筺】であり、対象者を設定することでそれを発信源として、範囲にいる人間に【魔力】を与えるという物。
発信源から与えられた【魔力】は、認知が歪み、味方を敵に、敵を味方へと摺り替え、混沌を生み出す事ができる。
「そりゃそうか。俺が根本なら俺自身がこの【筺】の影響を受けないのは当たり前だよな」
今のマキナは既に死んでいるが、その【筺】の能力のみが存在しており、実態のない怪奇現象の様になっていた。
マーラはそれ全てに気付くとミリアへと声を上げた。
「ミリア、レンジの場所に急ぐぞ!」
「何か分かったんですか?」
「ああ! 全部わかった! 原因は俺だ! あははは! 実に【魔王】らしい、嫌がらせだな! マキナ! お前がここまで【魔王】として、俺と敵対してくれて、嬉しいよ! それじゃあ、決着と行こうか! お前との戦いに!」
***
レンジは【魔力】を燃やし尽くし、気を失っている夜を休ませるために、空から地上へと戻っていた。
そして、レンジは観覧車の前の休憩スペースの様な場所に着地すると近くにあったベンチに夜を寝かせ、マーラと合流しようとした。
「レンジ!!!! 動くなよー!!!!」
丁度のタイミングで、マーラの声が聞こえ、その方向を向くとその背後にはミリアもおり、3人はその場で再開を果たすことになった。
「マー、いや、カーマ! それにミリアも! 合流してたんだね!」
「オウ! それはそうとマキナとの決着を付けるぞ! レンジ!」
「【筺】の解き方が分かったのかい! なら、早くやろう!」
「いいね! それじゃあ、レンジ! 俺を【夜叉】の蒼炎で燃やせ!」
嬉々とした表情を浮かべながら物騒な事を言ってきたマーラに対して、レンジは戸惑いを隠せなかった。
「師匠! カーマの話は問題を端折り過ぎてるので僕が端的に説明します。今、カーマの体にはマキナの【筺】の呪いがかかっていると思ってください。なので、それを解くために遠慮なくコイツを燃やしちゃってください」
「言い方悪いな! ミリア! でも、ほとんど正解だ! 俺から【魔力】を全部、燃やし尽くせ! そうしなければ【筺】は消えないし、【魔王】を殺せない」
ミリアのおかげでレンジは状況を把握したのか、鞘を握りしめて、マーラの目の前に立った。
「何となくだけど理解した。だけど、カーマ、良いのかい? 僕はお前を殺してしまうかもしれないよ」
レンジの物騒な発言に対して、マーラは彼が冗談でそんな事を言っているのではなく、本心での物だと感じ取った。
かつて、【魔王】を殺した相手に対して、燃やしてくれなどという言葉は相手を信頼しているのか、それとも舐めてるのか。
はたまた、その両方か。
それを知っているのはマーラのみ。
だが、その発言は本心からであってもマーラはレンジに対して、笑顔で応えた。
「お前は、俺を殺さないよ、レンジ」
年相応の少女の笑顔をマーラはレンジに向け、彼はそれに対して、毒気を抜かれたのかため息を吐き、そして、大きく深呼吸をする。
「そうかい。なら、たまにはそれに応えてやるよ」
その呟きと共に、レンジは【夜叉】の刃を鞘から疾らせた。
「無明一刀流、 火之迦具土神」
レンジの逆手抜刀より、振るわれた【夜叉】の刃は彼女の小さな体に小さな切り傷を刻むと刃より溢れんばかりの蒼炎がレンジとマーラの2人を包み込んだ。
蒼い炎は【魔力】を薪に燃え盛る。
ゆらりゆらりと畝りを見せながら、蒼炎はその【魔力】全てを燃やし尽くすまで、止まることは無かった。
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