六十話 おじさん、第四戯魔王に挑む⑨
蒼炎が線を描き、夜の肉体に切り傷が刻まれる。
夜の影は、レンジの体に触れるや否や、【夜叉】の蒼炎がそれを燃やし尽くし、彼へ迫る道を生み出していた。
レンジはそれを駆け上がり、夜の体へと【夜叉】の蒼炎によって、その身を燃やす。
【夜叉】の蒼炎には、【魔力】を薪にして、燃える性質があり、レンジとミリアはそれにより、マキナの【筺】の魔の手から免れている。
それを夜に対しても放つことで、レンジは彼の正気を取り戻させようとした。
「過剰吸血」
だが、自身の体を燃やしていたはずの蒼炎の【魔力】を夜は自身の体へと吸収し、鎮火させる。
(【魔力】の性質を無視して吸い込んだのか? やっぱり、一筋縄じゃいけないね)
レンジがそんな考えをしていると夜は【夜王乃断頭機】を彼に向けた。
「過剰吸血」
次に狙ったのはレンジの【魔力】。
レンジはその瞬間、夜の体に纏っていた【魔力】から腕のような物が見え、それを【夜叉】によって、断ち切った。
過剰吸血は敵対者に対して、自身の【魔力】によって生み出した腕で相手を掴むことで発動する。
巨大な腕は【魔力】を見る事に長ける者であれば、それを見抜くのは可能であり、レンジはそれに分類する目を所持していた。
過剰吸血の腕を断ち切ったと同時、夜はレンジとの距離を詰め、【夜王乃断頭機】を振るった。
(さっきの腕は囮で、自分が詰めて来たのか!)
レンジは鞘から刀を抜き、その一撃を防ぐと互いの得物が重なり合ったタイミングで、蒼炎を纏った。
夜はそれを気にする事なく、【夜王乃断頭機】を振り回しながら、レンジへとその大鎌を振り下ろす。
一、ニ、三と重ねて放つ重い攻撃をレンジは簡単に切り返し、2人は一歩も引く事なく、その場で撃ち合いを始めた。
【夜王乃断頭機】の刃はレンジの手、足、首、凡ゆる場所を狙って襲い掛からせて来る。
逆にレンジはそれらを全て眼で追いながら1つ1つ的確に弾き返し、相手に隙を与えない様に立ち回った。
そんな中、夜は自身の影をレンジに重ねようとする。
目の前にいるレンジに対して、影を重ねることなど簡単であると踏んでいたが、彼は夜の攻撃の接触時間を極限までに短くしていた。
そして、夜がゆっくりと影を近づけたにも関わらず、それすらも勘付き、レンジは大気中の【魔力】を蹴り上げて、それらを避けた。
互いの距離の広さを理解しながら、時に近づき、時に遠ざかる。
強者のみが行えるやり取りに、彼らはいつの間にか夢中になっていた。
自分と撃ち合える者、それが今、目の前におり、夜の目にはレンジは敵ではなく、好敵手として写った。
そんな互いの拮抗状態を、夜は崩し、全てをひっくり返そうと動き出す。
レンジを好敵手として認め、目の前に立つ存在に敬意を示すために、夜は【ユニークスキル】の深奥、それを披露することを決めた。
大鎌で弧を描くのをやめ、彼は自身の影に向けて【夜王乃断頭機】を突き刺した。
そして、両腕を前にし、指で四角を作り出す。
(急に【魔力】が萎んだ? いや、違う。影に集まってるんだ。何をする気だ?)
レンジはそれを見て、何故か、【魔王】の秘奥である【筺】が頭をよぎった。
その四角に空いた中から、夜はレンジを見つめながら、自身の【魔力】を全て費やした【ユニークスキル】の極地を見せつける。
「夜乃行軍」
主人の言葉に従い、空に影が広がり、それらはグネリグネリ畝りを見せた。
レンジはその影に重ねられまいと、後ろに飛ぶもそれらは姿を変え始め、彼の目の前にには、人の形をしておりながら、1つに連なる軍隊が形成された。
夜乃行軍、夜島夜の持つ【ユニークスキル】の最大解放。
夜の【魔力】を影に注ぎ込んで作り出す、彼だけの影の軍勢。吸収した【魔力】、残っている自分の【魔力】、全てを費やし生み出す故に、これを使用した後、夜は強制的に戦闘不能になる。
だが、それであるにも関わらず、この軍隊を敗れた者は今まで1人も居ない。
それらは群勢でありながら、1つに連なった単一、流動的に動き、密集する暴力装置。
数の暴力と個の実力、それら2つを兼ね備えた影の軍、その指揮官は1人であり、夜は手を動かし、指示を出した。
手を前にするだけ。
たったその1つの行動に、軍勢は全て動き出す。
殲滅せよ。
それが出された命であり、レンジを切り裂き、踏み躙らんと進軍する。
一方、レンジもまた、彼を説き伏せるために、鞘を前にして、構えを取った。
(影に触れた時点で負けなのに、あれを避けながら、夜に【夜叉】を叩きつけるのは不可能。それでも、やるしかない)
レンジは全てを解き放つために、大きく呼吸をし、【夜叉】を強く握りしめる。
進軍する影の軍隊に対するは、たった1人の【魔王】殺し。
最大の群を持つ一と最大の個を持つ一。
その2人の決着はら一瞬であった。
レンジはそれらを一掃するために、不服ながらもマーラの、彼女の【権能】の力を引き出すとそれを【夜叉】へと載せる。
「無明一刀流、覇刃夜我」
それはマーラが最も得意とした【権能】を最大限に活用した不可視、不可避の斬撃。
抜刀と同時に、軍隊に向けてそれが放たれると影の軍の兵士達、乗っていた馬、それらの首、全てを一気に断ち切った。
だが、それ如きで、影の軍が止まることはない。
主人の指揮、殲滅の命令を受けた軍はそれを遂行するまで、自分達の首が切られようとも再生し、動き出そうとする。
レンジの攻撃が無意味かと思われたその時、彼は再び鞘に【夜叉】を納め、今度は夜の元へと走り出した。
影に触れれば拘束の能力は発動され、身動きを取れなくなるにも関わらず、レンジは首を断ち切られた軍へと特攻する。
夜はそれを逃さまいと軍を動かそうとした。
だが、レンジは夜から一切、目を逸らしておらず、彼だけを見つめ、彼だけを追っていた。
その視線の先、自分が獲物であり、レンジの行動、次の一手には、夜自身の敗北の未来が見えた。
「無明一刀流、 火之迦具土神」
抜刀のタイミングは、影の軍のほんの手前。
触れるか触れないかの寸前にて、刀を疾らせるとその体に鞘から溢れ出る蒼炎を纏い、影の軍勢の真ん中一直線に疾走する。
マーラの【権能】による斬撃は軍勢に別のタスクを与え、レンジを足止めるという行動を取らせないための一手。
レンジの走る路には、【魔力】を薪として燃え盛る、一本の線が生まれており、夜の目の前には、身体中に蒼炎を纏う彼が立っていた。
夜は影に突き刺していた【夜王乃断頭機】を握り、自身の間合いに入ってきたレンジを切り裂こうとする。
だが、それよりも速く、レンジの刀は夜の肉体に傷を刻んだ。
切り傷は深くない。
それよりもその切り傷から広がる蒼炎が徐々に夜の体を焼いて行く。
無明一刀流、 火之迦具土神、それは【夜叉】の蒼炎を全開にし、相手の【魔力】が尽きるまで燃やし尽くす抜刀術。
夜の全身に纏っていた【魔力】を薪に、彼の体は一瞬にして火だるまになってしまう。
(これでダメなら、もう次は無い。頼む、目を覚ましてくれ!)
轟轟と燃え上がる夜であったが、少しして、蒼炎が彼の【魔力】を燃やし尽くしたのか、炎が鎮火した。
「大丈夫かい!? 夜!?」
燃やした本人であるが、夜が死んでしまわないか内心ヒヤヒヤしていたレンジはすぐに彼に喋りかけた。
【魔力】を失い、浮遊【スキル】が使えなくなったのか、落下しそうになる体をレンジはキャッチする。
レンジの腕には、少し体に火傷の痕があったが目をパチパチと動かし、自身の【ユニークスキル】が切れたのか、普段の金髪に戻った夜の姿があった。
「夜! 大丈夫かい!?」
レンジは抱き抱えた夜に声を掛けると彼はゆっくりと答えた。
「ああ、大丈夫だ。俺、今まで何してたんだ?」
「【魔王】に操られてたんだよ。とりあえず、降りてから話をする。今はゆっくり休んで」
操られていた夜と戦いは、レンジが何とか場を納めた。
しかし、今だに【魔王】の支配は続いている。
未解明の【魔王】の【筺】、それを解き明かすために、マーラもまた、奔走していた。
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