六話 おじさん、バズったことを知る
ミリアとマーラの放とうとする一撃を、レンジの剣が一閃すると彼女達はそれを目の当たりにした瞬間、互いに違うベクトルで興奮していた。
(あの技は、僕が師匠に初めて会った時に見せてくれた技! かっっっっっこいいなぁ!!!! 歳を重ねて、より深みが増した気がする!!!! それとあの剣術! 僕の【無明一刀流】なんてやっぱり、師匠と比べたら話にならない。無駄を削ぎ落とした剣術は、機能美すら感じちゃう。あぁ、好き、やっぱり、好きすぎる! しゅきぃ~! しゅきすぎ!!!!)
ミリアの表情は依然、冷たく、マーラという存在に対して、冷酷な視線を送っていた。だが、その内面は既に、レンジのことだけを見ており、それ以外は全てどうでも良くなっていた。
一方、マーラもまた、ミリアに対して、不敵に微笑んでいたが内心はレンジに向けていた。
(その技は、俺を【権能】を無理矢理破ってきた時の技だなぁ! 懐かしいのに前よりも鬼気迫る感じ。はは!!!! まだまだ、底を悟れないとは、恐れ入るな!)
睨み合いながら、相手に一切興味を示さなくなった2人が向ける気持ちの先は全く同じ。
それは颯爽と割って入ったレンジ。
登場の裏腹に、当の本人は内心は冷や汗塗れとなっていた。
(久々に普通の居合以外を見せたけど、使えてよかった~!!!! 失敗して、片方だけ防げたりとかだったら、僕がどっちかに切り伏せられてたからね?! いや、それにしてもさっきの2人の攻撃、間違いなく相手を殺す前提で放ってたよね? マーラはまだ、分かる。アイツの殺しへのブレーキがない。でも、ミリアの方もだった。一旦、話を聞かないと)
冷たい表情、不的な笑み、澄まし顔、相手に一切内心を悟らせない。
三者三様、揃い踏みの中、先ず最初に声を出したのは。
「とりあえず、全員で、剣を置こう。こういうのは言い出しっぺがするものだからね。僕が置くよ」
レンジは自身の提案通りに、鞘に刀を納めるとそれを腰に差した。
「くくく、あはは!!!! 興醒めした。いいよ。俺もミリアお姉ちゃんが強いの分かったし。今日のところは止めておこうかな」
続けて、マーラが【波旬】を握るのを止めて、普段通りに浮遊させた。
2人の戦意が無くなったことを確認し、ミリアは自身も落ち着きに欠けていたことを実感するとため息を吐きながら、刀を腰に差した。
「分かりました。僕も今日はここまでにします」
全員が落ち着いたことを確認すると、レンジは冷や汗ばかりをかいていた内心がようやく鎮まり、ホッとため息を吐く。
「ふー、それはそうとまたこれ上がるのか。ま、あ、いや、カーマは行けそう?」
「俺は自分しか浮かばせられないな」
「え!? となると今回は」
「くくく、お前だけ這い上るしかないな!」
マーラはケタケタと笑いながら1人、迷宮から出て行くとレンジは再びため息を吐きながら、崖に張り付いた。
「ごめんね、ミリア。僕が浮遊【スキル】とかを勉強しておけば、こうはならなかったのに」
そう言いながら、崖を登ろうとしたその時、その横でミリアが浮いていた。
「師匠、何をしてるのですか?」
「……。もしかして、僕も一緒に上がれそう?」
「勿論ですよ」
レンジは崖から手を離すと、ミリアはすぐに彼を浮かせ、お姫様抱っこをした。
「ミリア?!」
「? 何ですか?」
レンジが驚きながら、顔を赤くしている一方、ミリアはそれを見て、可愛いと感じていた。
「何、って。これは流石に恥ずかしいよ?!」
「どうして、僕が師匠をお姫様抱っこするのが恥ずかしいんですか? 僕は確かに浮遊できますけど、師匠を浮かすにはそこに労力が掛かりますので、我慢して下さい」
ミリアの言葉に、レンジは一理あるとなり、無言となった。
(き、気不味い。途轍もなく気不味いし、僕、止めるためとはいえ、弟子に剣を向けちゃった。今になってすごく後悔が押し寄せて来る)
レンジがお姫様抱っこをされている最中、ミリアの内心はウキウキ状態にしていた。実のところ、ミリアの浮遊【スキル】は2、3人同時に浮かせようが労力などは要らない。
レンジをお姫様抱っこするためだけ嘘を吐いており、ミリアは照れている師を見て、心を躍らせる。
(あー!!!! もうそのまま持って帰ろうかな。【スキル】は外では使えないから、バレたら怒られちゃうし、どうやって、あのカーマとかいう羽虫を追っ払って師匠と2人きりになれるかな。はぁ~、僕のことを思って、お姫様抱っこを断ったんだろうけど、そこがまた、推せる。本気で推せる)
そんなことを考えているといつの間にか、迷宮の外に到着しており、マーラが眠そうに彼らを眺めていた。
「ブッハ!!!! お兄ちゃんWWWW ミリアお姉ちゃんにお姫様抱っこWWWW ウケる!!!!」
出た途端、ミリアに抱き抱えられたレンジを見て、マーラは大爆笑する。
「うるさいな! そんなに揶揄うなよ。全く。ごめんね、ミリア、こんな奴で」
「そうですね、切り落としてしまいましょうか?」
「オイオイ~、今日のところはお開きって言っただろう? それに俺、気になってたんだよなぁ。ミリアお姉ちゃんが言ってた、動画ってヤツが」
マーラの言葉に、ミリアはピクリと肩を震わせた。
「えーと? ま、いや、カーマ、ミリアそんなこと言ってたっけ?」
「襲い掛かる直前にな。な? ミリアお姉ちゃん?」
マーラはニヤニヤとしながらミリアを見ており、彼女はそれを最初は無視しようとした。
ただ、マーラはミリアに向けて、無言で口を動かしていた。
「お兄ちゃんに、お姉ちゃんが、好きだって、言っちゃうぞ⭐︎」
口の動きを見て、ミリアはマーラに自分がレンジが好きなことを知らせると脅して来たことを理解する。
この場で切り殺してやろうと考えたが、ミリアは既に、この場は一度、納めたことを思い出し、ため息を吐いた。
「師匠が迷宮で謎の巨大魔物と戦う動画が突然、アップロードされました」
ミリアは自身の【スマホ】を起動させるとTXを開いた。
TXはとある資本家が運営しており、世界中の人口の1/10が使用しているとされているSNSのことである。
レンジとマーラは、ミリアが見せる小さな画面を覗き込む。そこにはレンジと牛頭の魔物が対立していた姿が映り出されていた。
冷たい視線を送りながら、レンジが魔物の太い首を、一閃で断つ動画が流れるとミリアはリプを続けて見せた。
『エグいて』
『誰だこのおじさん?!』
『たまげたなぁ』
『てか、ミリア様の技じゃね?』
『それね。パクリ野郎だわ』
『あの剣はパクれるとかじゃねえだろ。あんな動き普通は無理だよ』
『肋屋chってヤツ』
『あー、ぽいぽい。登録者336だって、ど素人じゃん』
『この人の動画、10年前のしか、アーカイブにないけど、この時点でずっとこの剣術だな』
『女の子、可愛い』
『それな、めっちゃ小悪魔系。動画出してねえの?』
『あの太い首切る芸当出来る奴のが少ないだろ。真っ向からならS級のアルベールくらいじゃね?』
『アルベールなら、たしかに行けるか。てか、そうなるとアルベール級ってことか?! このおじさん!?』
リプでは多くのやり取りがされながら、レンジが見たことのないほどの【いいね】が付いており、それらを見せたミリアが喋り出した。
「師匠は今、バズってるんですよ。この動画で」
「ふむ? バズるってのは何だ?」
「バズるも知らないなんて、珍しい子ですね。バズるっていうのは、大きな話題になることです。【冒険者】達は皆、これを求めて毎日、迷宮に潜るんですよ」
マーラはその話を聞いて、この世界の人間が酷く悍ましい様に感じた。人の命のやり取りを見て、笑っている世界中の人間に違和感を感じた。
(明らかに認知が歪んでいるな。こういうのが好きな【魔王】を俺は知ってる。アイツの策略となると…。ククク、面白くなってきた!)
一方、あり得ざる数字の羅列に頭が追いつかなくなっていたレンジの脳裏には、一つの違和感が走っていた。
(で、これ誰が撮ったんだ?)
レンジはその違和感が、喉に魚の小骨が引っかかる様に頭に残る。だが、そんなことを気にせずに、ミリアは再び口を開く。
「それで、僕は居てもたっても居られなくなりました」
「えーと、ミリアがここに来たのと僕の動画がバズったのとで関係があるのかい?」
「勿論です。そこの暫定、妹を名乗る羽虫。それが師匠の横に立つことを僕が許せないからです」
ミリアは言い切ると何故か、少しだけ誇らしそうに胸を張った。
「それでは師匠、そろそろ決めましょうか」
ミリアはズイズイとレンジによると、ニッと微笑んだ。
「えーと? ミリアさん? 何を決めるの?!」
「それは勿論、僕か、あの羽虫か。どちらを選んでくれますか?」
感想、レビューいつもありがとうございます!
嬉しくて狂喜乱舞です!
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします!
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます!




