五十六話 おじさん、第四戯魔王に挑む⑤
【第四戯魔王マキナ】と相対するのはS級【冒険者】夜島夜とマーラの2人。
マキナは糸を絡繰り、2体の機械人形である偉大な父と最愛の母を動かしながら、夜とマーラの攻撃を捌いていた。
2人を相手に、マキナは一切、攻撃を届かせることもなく、鉄壁とも呼べるまでの防御力を見せる。
隙を突いて、攻撃にも転じて来ると彼らを適度に追い詰めた。
そこに集う者達の攻防は熾烈を極めながらも誰1人として三者共にまだまだ底を見せていない。
「お父様、お母様、私を守って」
指に繋がる糸を一気に引っ張り、偉大な父と最愛の母はマキナを守る様に行動し、攻め寄るマーラと夜を拳で吹き飛ばした。
「カーマ! コイツの防御、崩せるか?!」
「今のままじゃ無理だな! あの機械人形は多分だが、【魔王】のお手製。最高の【魔導】兵器って言っても過言ねえ!」
「おいおい! 打つ手なしか!?」
2人は会話を交え、笑いながらマキナへと追撃し、途絶えることなく攻撃を仕掛けた。
何度も行われる挟撃、それらをマキナは全て否定する様に弾き落とす。
マキナの手繰る機械人形の動きに誤差はない。夜とマーラの攻撃を2体の機械人形が別々の動きをしながら、防ぎ切っており、それらはマキナ本人が培って来たセンスとその動きを可能としているのが、彼女の【権能】であった。
【第四戯魔王マキナ】の【権能】、人間戯劇。それは【魔力】を帯びた糸を自分の認識する範囲に垂らすことが出来、垂らした糸にくっ付いた物を自分の操り人形にする事が出来ると言う物。
強者で無ければ垂らした時点で糸が対象者に絡み付き、それをマキナは操ることが可能である。その能力から凡ゆるモノを支配し、自らの手駒に置くことから彼女は【支配のマキナ】と呼ばれた。
敵対者の容赦のない攻めに一切動じずに対応していたマキナであったが、彼女の手が一瞬、ほんの一瞬だけ止まった。
マキナは広範囲の【魔力感知】を得意としており、その中にあった1つの【魔力】が消えたことに気付いた。
「ショヴァン?」
それはレンジとショヴァン、彼らの戦いに決着がついたタイミング。
消えた【魔力】の持ち主は、自分のもう1人の父であり、信じてくれた優しき愛国者。
手が止まったことで、生まれた隙をマーラは逃すことはなく、【我射髑髏】を地面に刺し、自分の周囲に飛ばしていた【波旬】を握った。
「そりゃあ、俺の前で見せたら死ぬぜ、マキナ」
そう呟くとマーラは【波旬】へと今持てる【権能】の力、全てを載せ、その刃をマキナへと向けた。
「覇流門苦」
空の【権能】が集めた大気中にある【魔力】、それを1つに集約し、弾丸として放つ。
かつて、マーラが数多の【勇者】を殺して来た不可避の速攻。
マーラは自身の肉体の一部、片足を取り戻したおかげで、完全体へと近付いた。
今の彼女は全盛の25%ほどの出力であり、まだまだ【魔王】としては、不完全であるが、それでも自身の持つ才能は未だに健在。
人間の肉体の持つ潜在能力と【魔力】を重ね合わせることで、かつての7割程の威力で、弾丸は放たれる。
ショヴァンの消失に、気を取られたマキナであったが、空間に満ちていた彼女の【権能】の糸が、【魔力】の畝りを感知すると両腕の糸を一気に引っ張った。
すると、偉大な父と最愛の母の2体が最愛の娘を守る様に、弾丸を弾こうと動き出す。
2体の機械人形がマキナを守るのが先か、マーラの弾丸が彼女を穿つのが先か。
その答え。
それはマキナの手繰る機械人形が手を彼女の体に翳すことで、決定される。
しかし、マーラは笑った。
その決定した未来、確定なる景色を最初から知っており、それが覆ることを予期していたかの様に。
「忘れてもらっちゃ困るなぁ!」
2体の【魔王】の中に叫びながら割り込むのは夜島夜。
異分子、いや、特異点と呼ぶのが正しい存在が混ざることで、選択されたはずの未来を、覆ることのない淘汰は、一気にひっくり返る。
夜は自身の両腕で巧みに操っていた大鎌を真っ直ぐに止め、マキナに対して、それが持つ力を見せつけ様と声を上げた。
「涜神の残響!」
S級【冒険者】に持たされる【人器】、三日月の形の黒い刃を携えた、夜の握る大鎌、その名を斬首鎌・【夜王乃断頭機】。
主刃の柄には、機械的な可動部を思わせる黒鉄のフレームが組み込まれており、それをマキナへと向けた。
夜の掛け声に合わせて、その黒鉄のフレームの内部に搭載されている砲身が"ドォォン"と巨大な音を立てて、マキナを守るために腕を翳していた機械人形へと砲撃を放つ。
夜の【魔力】を砲弾に変換させ、威力を上げる術式が組み込まれている【夜王乃断頭機】より、放たれた砲弾はマキナの機械人形の鉄塊を打ち砕き、彼女を守っていた砦を打ち壊した。
「な!?」
マキナは出したこともない声を漏らすもその瞬間、彼女の目の前には目にも止まらぬ速度で、放たれていたマーラの弾丸がその額を貫いた。
刹那の動揺、合理主義の【魔王】が見せてしまった最初で最後の合理性の欠如。
腕の壊された2体の機械人形は絡繰る糸が途絶えた事で、役目を終えたかの様にマキナが倒れるよりも早く、"ガラン"と鈍い音を立てて、宙より、落ちた。
それが敗因であり、それがマキナという【魔王】の終末。
人という存在を嫌悪した【魔王】の末路であり、その最後は実に呆気ない幕引きであった。
少女は額を貫いた弾丸を放ったマーラへ、倒れる最中、その意識の目玉を動かして、睨み付ける。
殺したいマキナを嘲笑うかの様な笑みを浮かべ、余裕綽々といった表情をマキナは見た。
(私、お前が嫌いだ、マーラ。私はお前の様な分かり合えない奴が嫌いだ。嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ! 大嫌いだ!)
そこに合理性などは一切ない。
激情にだけ駆られた感情が爆発し、じっとりとした嫌な【魔力】がマキナの倒れる肉体より、溢れ出る。
「それで」
否定する。
「終わる訳」
否定し、非ずと言い張り、少女は悪夢から感情任せに目を覚ます。
「無いだろう!」
【魔王】であれど、脳天を貫かれ生きている筈はない。
その事をマーラは理解しており、マキナの周囲より、溢れる【魔力】を見た。
死に至る自分の肉体を【魔力】で生み出した糸を纏いながらグギリグギリと無理矢理動かして、人形の様に歪な関節の動作を見せる。
死後に筋肉が強張るのを無理矢理動かしているのかその動きはぎこちなく、只事ではない何かが起きる前触れをマーラと夜は感じ取った。
「カーマ! 今のうちに攻め落とすか!」
「いや! それよか夜! お前、まだ【ユニークスキル】隠してるだろう。使えるなら使っておけここからが本番だ」
マーラの言葉の通りになったのか、マキナの体と機械人形はいつの間にか、幾十にも【魔力】の糸で覆われ、見えなくなってしまった。
「来るぞ。【第四戯魔王】、その本領だ」
【魔力】で覆った糸が突き破り、死した【魔王】、マキナは再びその地に姿を現した。
新たな姿、それに自身を作り替えて。
【第四戯魔王マキナ】、その真なる強みは、【魔力】による自己変化。
それは自分の肉体をも完全に掌握し、敵を殺すためだけに自己を変化させる。
【支配のマキナ】の異名通りに。
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