五十四話 おじさん、第四戯魔王に挑む③
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「リヴァーレ、お父様は? お母様は?」
小さな少女が放った言葉を聞き、燃え盛る城内で彼女の体をギュッと抱きしめてしまう。
彼女の目の前で魔王は毒で苦しみ死んだ。
彼女の目の前で王妃は幼い娘を護ろうと覆い被さるように殺された。
両親は目の前で殺されたにも関わらず、その事実を幼い少女は理解出来ず、リヴァーレと呼んだ鹿の怪物に尋ねてしまった。
「セイレンス様、魔王様と、王妃はお亡くなりになりました」
「おなく、なり?」
「はい、貴方をお守りして立派な最後でした」
嘘である。
【魔王】として、死ぬにしては余りにも惨く、功績と誇りをも踏み躙られた血に塗られた最後。
人類との和平、【勇者】との和解、それら全てを成し遂げた偉大な【魔王】、その末路がこれ。
信じた人類に裏切られ、信頼した【勇者】も殺された。
(あんまりだ、【魔王】よ。あなたの終わりはあまりにも酷すぎる)
最後に残った彼らの娘であるこの子だけでも何としても逃がそうとリヴァーレは燃え盛る場内を駆け回る。
「逃すな! アイツを殺せ!」
追っ手は全て人であり、得物を握り締め、リヴァーレ達を追ってくる。
一度は気を許した自分が馬鹿であった。
だが、それでも彼らの中にも自分達を信用してくれた者達がいた。
2つの心の狭間の中、振るう戦斧が少しだけ迷いが生じてしまつ。
(ああ、私はまだ、【勇者】、いや、グランとの友情に浮かされているのだろう。親愛した【魔王】を殺されたにも関わらず、私は人類に彼を重ねてしまう)
リヴァーレは、自分の身は既にどうなろうと良いと考え、抱き抱えたセイレンスを背後に下ろした。
「セイレンス様、お逃げ下さい。私がここを防ぎます。あなたは何処か遠くに逃げて、今日の夜、起きたことを忘れて暮らしてください」
リヴァーレは自身の手に握る盾と戦斧を構え、追っ手を追い払おうとする。
だが、そこには誤算があった。
それは少女はとっくに壊れてしまっていたこと。
「絡繰れ、人間戯劇」
少女の両腕の細い指、それより【魔力】の練られた糸が幾つも伸びる。
「セイレンス様!? 何を?!」
リヴァーレは少女が突如として、【権能】を使用としたことで戸惑い声を上げるも彼女はそれを気にせず、糸を手繰った。
その瞬間、空間全ては少女の物となる。
追っ手は突如として、互いに殺し合い、血に塗られた光景が広がるとセイレンスは、壊れてしまった少女は微笑んだ。
「ねえ、リヴァーレ。私のお父様は死んでいない」
「な、にを」
「あなたがお父様でしょ?」
壊れた器の穴を塞ぐために、少女は代替を求める。
リヴァーレはそれに対して、断ることが出来た。
だが、少女を見捨てることなど出来ず、リヴァーレは彼女を抱き抱えた。
「ああ、そう、です。いや、そうだ。セイレンス、私はあなたの、お前の父だ。セイレンスよ、これは【契約】だ。私達は父と子としてこれから過ごす。お前の身に何があろうと何をしようと私がお前の盾となり、剣となろう。マキナ・セイレンス。我が娘、よ。私は偏狂なる愛国者として、お前の行く末に必ずや、着いていこう。それが破滅であろうとも」
リヴァーレはこの時の【契約】を後悔していない。
例え、その世界の人類を殺し尽くす羽目になろうとも。
少女に、幼き【魔王】に仕えたことは、自分にとってかけがえのない物になっていたから。
***
ショヴァンの【魔力】は未だに尽きることはない。
【夜叉】の蒼炎より、肉体に纏わせていた【魔力】の壁は燃やされたが、それでいてもショヴァンの【魔力】の底は見えずにいた。
だが、首に受けた傷は深く、血は流れ続けた。本来であれば【魔力】を回すことで魔族は再生を行えるが、それを行うと切り傷から蒼炎が燃え上がり始めてしまうため、行うことが出来ず、もう一度同じ傷を受ければ、その体を動かすことは出来ないほどであった。
一方、レンジは過集中が途切れるまでに1分を切っていた。
ショヴァンの肉体を灼き、【魔力】の壁を打ち消すと彼の首に深い切り傷を刻むことに成功したが、その直後、ショヴァンの反撃を受けてしまう。
ギリギリのところで得物を挟んだことで直撃を免れるが、突如として大きな衝撃が肉体を襲ったことで、普段の過集中よりも1分ほど短くなった。
互いに満身創痍であるにも関わらず、彼らは休むことなく、同時に己の意地をぶつけ合う。
「鹿王の雷撃」
ショヴァンは【魔力】によって生んだ盾と戦斧は投げ捨て、その身に宿る【権能】のみを頼りに、雷を身体に纏わせた。
暗闇に雷が散るとレンジ目掛けてショヴァンは拳を振るい、彼はそれをぶつかる寸前のところで避ける。
そして、次は自分の番と言わんばかりに、レンジは残りの全ての時間を賭して放つ抜刀術をショヴァンへと披露した。
「無明一刀流、飛龍星・群」
ショヴァンは鹿王の雷撃によって、反応速度を極限までに跳ね上げており、レンジの動きを一挙手一投足見逃さない様にしていた。
だが、それすらも上回る。
高速の逆手抜刀が、ショヴァンへと襲い掛かる。
一度目は右肩、二度目は左足、三度目は左腕。
四度、五度、六度と重なり、その後は数えることすら出来ない。
ショヴァンを一方的に刻み、その絶対的な肉体の角を断つ。
無明一刀流、飛龍星・群、それは対ショヴァンに編み出した、【夜叉】の蒼炎を攻撃と移動に用いた怒涛の連続抜刀である。
抜刀と同時に、蒼炎を刃より溢れ出させ、それを踏むことで爆発的に移動速度を伸ばす。
重ねれば重なるほどに速度が上がり、暗闇の中にはレンジの動く線だけが何十にも重なった。
今のレンジは音に切り掛かる。
蓮撃はショヴァンですら追うことが不可能な攻撃であり、身体中に切り跡が生まれ、削ぎ落とされた箇所のせいで、動きが徐々に鈍くなって行く。
(これほどの技をまだ隠していたか。だが、見極めろ。私はあの子が死ぬまで、必ず生き延びる。でなければ、私は!)
既に30以上の切り傷が刻まれ、辺りにはショヴァンの血で溢れていた。
ただの魔物、魔族であれば死に至る。
【魔王】であっても敗北の二文字が過ぎる程の傷であるにも関わらず、ショヴァンは勝利を諦めない。
そんなショヴァンに最後の好機が訪れる。
レンジが自分の真正面に現れ、彼もまた限界を迎える直前であり、最後の一撃をショヴァンにぶつけようとした。
ショヴァンはその瞬間を、見逃さなかった。
真っ直ぐ、巨大な拳が伸び、それはレンジの目の前に現れた。
その全てを費やした巨大な一撃を受けて立たないと言う無粋なことはなく、レンジは【夜叉】へと載せる蒼炎と共に鞘から漆黒の刃を抜く。
拳と刃、雷と炎が混ざり合い、爆発する。
"ドカン"と言う爆発音と共に暗闇だけが広がっていたお化け屋敷という空間の天井が破壊され、迷宮より、昇る擬似太陽の光が彼らを照らした。
勝負の行方、それはレンジの刃がショヴァンの腕を縦に真っ二つに切り裂くことで決着し、かの肉体は限界を迎えたのか、徐々に結晶になっていった。
「まだ、だ! まだ!」
勝負はついた筈なのに、ショヴァンは踠いた。
切り裂かれたのとは別の腕でレンジへと手を伸ばし、彼の顔を捻り潰そうとする。
レンジは限界を超えたのか、大きく深呼吸をしながら肺と脳に酸素を送るのに精一杯となっており、ショヴァンの攻撃に反応はできない。
(く、そ、万事休すか!?)
レンジの頭に巨大な手が翳されたその時、ショヴァンの執念よりも早く、彼の肉体の限界が訪れた。
もう一歩、動けば死を早めるという状況であるのに、その一歩を、無駄であると知りながらもショヴァンは踏み出す。
最後の瞬間に、ショヴァンはレンジと目が合った。
それはあまりにもかつて自分が唯一、友と呼んだ【勇者】に似た眼をしており、それを目の当たりにしてショヴァンは動かなくなる。
(セイレンス、おま、えを孤独にして、しまう。【契約】を、守れなくて、す、まない)
最後に思い浮かんだのは娘と呼んだ【魔王】の子。
本当の娘の様に愛した彼女への懺悔を胸に、愛国者の肉体は砕け散った。
ショヴァンの砕け散る結晶と共にレンジも同様にバタリとその場に倒れてしまう。
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