五十三話 おじさん、第四戯魔王に挑む②
ショヴァンはレンジにかけた自身の【魔力】を追って、遊園地の中を歩いた。
「ここは。ふむ、何だ?」
目の前にあるのはお化け屋敷と看板に書かれた建物であり、そこの真ん中にレンジがいることを確認した。
「建物の中で私と決着をつけようと言うのか。良かろう。壊して進むのも良いが、レンジ、お前との戦いでそれは無粋だ。全身全霊を持って打つかってやろう」
ショヴァンはそう言うとその建物の中に、頭を低く下げ、足を踏み入れた。
暗闇が広がる一本道をショヴァンはゆっくりと歩きながら、レンジのことを探知しており、彼がある一定の場所から動かなくなっていることを感じていた。
(何かの準備をしているのか? 私を迎え撃と言うのであれば、見せてみろ。お前の技を)
脅かすために作られた形式ばかりの作り物を全て無視して、ショヴァンはひたすらに進む。
そんなショヴァンの前に、暗闇の中から、蒼い光の玉がボンヤリと見えた。
何かと思いきや、そこはレンジがいる場所であり、ショヴァンは右手に戦斧、左手に盾を握り締め、彼がどう出るかを待ち構える。
一方、レンジも同様にショヴァンの存在に気付いたのか、大きく呼吸をし、お互いの間合いに入り込む距離となった彼へと視線を向けた。
(調整はボチボチ。調整間違えれば、こっちが灼ける。それでも僕は進まなきゃならない。ショヴァンを倒さない限り、僕は【魔王】に挑めない。傷も付かずに、この場を切り抜けるには全力を出し切る。集中しろ、肋屋レンジ、集中、集中、集中)
その思考と共に、レンジの過集中のスイッチが入る。
一瞬にして、戦闘のみに思考を特化させたレンジはショヴァンという怪物の間合いへと、自ら足を踏み入れた。
「無明一刀流、飛龍」
抜刀と同時に、暗闇に蒼い炎が灯る。
妖艶且つ雅な炎が揺れ、その動きに見惚れしまう、そんな感覚に陥りそうになるも、それは一気にショヴァンの目の前に現れた。
ショヴァンの目の前に揺らぐ蒼炎、それが載せられた一撃を防ぐために【魔力】にて生み出した戦斧を、迫り来る【夜叉】の刃へとぶつけた。
かの英雄、【勇者王ベオウルフ】が持っていた【権能】、炎獄と氷獄。
それらの真なる能力は熱の操作であり、大気中に【魔力】を飛ばすことでその【魔力】より、熱を操作して、発火を起こさせたり、冷却させることが出来る物。
レンジはその氷獄の冷却能力のみを使用しており、もう1つの深奥たる攻撃的【権能】である炎獄を使用していなかった。
理由としてしては、【第五獣魔王ケルヌンノス】、彼女との戦闘時までに調整が出来なかったこととレンジ自身がベオウルフが見せた焼却の力に少しばかり恐怖を感じていたから。
あまりにも強力な炎の熱線、それを前にして、ミリアが足を切り裂かれ、死の直前まで追い込んでしまったことを未だに引き摺っており、負い目と畏れの2つが合わさることで、無意識のうちに使用を避けていた。
ただ、今、【夜叉】の黒雷が奪われたことで、このまま火力不足でショヴァンに追い詰められて倒される可能性と彼に全力をぶつけられない自分の未熟さを考慮し、弱気な思考を捨て去る。
結果、レンジの調整次第であるが、その【権能】は彼の手に納まり、蒼炎として、【夜叉】の漆黒の刃へと載せる事が可能となった。
蒼炎纏し刃は疾り、ショヴァンの戦斧をスパリと簡単に裂くや否や、彼の首元にその一振りはぶつけられる。
しかし、黒雷を纏いし刃ですら傷つく事が出来なかったその肉体は、蒼炎ですらも最も簡単に喰らった。
ショヴァンの首は分厚く太く、全身を【魔力】で包み込んでおり、鉄壁と評する他に無いほどの強度を誇っている。
レンジは二度目でありながら、その余りにも硬い壁を再認識させられた。
"ガィン"という聞き馴染みのない音が、お化け屋敷中に鳴り響く。
炎を纏った逆手抜刀はショヴァンの首元で止まり、彼は切られた戦斧を【魔力】で再生させ、レンジへと振り下ろそうとした。
(? 何だ? 戦斧が再生しない?)
【魔力】での戦斧の再生、それを行おうとしたショヴァンはとある違和感が気が付く。
そして、戦斧の先を見るために視線を向けると戦斧から蒼炎が燃え広がり始めていた。
「何が起きている?」
ショヴァンですらも経験のしたことない現象に思わず声を漏らすもそれと同時に、彼の肉体も蒼炎が点火した。
轟轟と燃え盛る自分の体、熱は感じることはないが、何が燃えているのかショヴァンは全く不明であった。
「これは、まさか、私の【魔力】か?」
暗闇を照らす様に蒼い炎を宿して燃えるショヴァン。
彼はその蒼炎の正体、その能力にいち早く気付くもそれは既に、遅かった。
【夜叉】に宿る【権能】はその能力の性質が変わる。
紅蓮の雷が、黒く染まり、斬撃の属性が付与され、それがベオウルフの【権能】にも作用した。
ベオウルフの炎は、蒼炎に変化し、それは【魔力】を薪に焚べて、燃やし尽くすことに特化していた。
【魔王】及び魔族はその全身に【魔力】を纏わせている。
彼らにとって、【魔力】とは、いつ何処でも常に共にする物であり、強い魔族になればなるほど、全身に纏わす【魔力】の硬度は強硬になる。
ショヴァンほどの魔族であれば、その量も、質も、厚さも途方もなくなっており、普通の攻撃で傷をつけることなど不可。
だが、それを【夜叉】の蒼炎は簡単に燃やし、彼の純粋なまでの肉体を炙り出させた。
体に纏っていた【魔力】が燃え尽き、ショヴァンは生まれ変わったその日より、久しく感じていなかった大気の壁の様なものを感じ取った。
それと同時に、レンジは彼の首元へと再び刃を走らせた。
「無明一刀流、飛龍・番」
無明一刀流の双刃の剣術に、蒼炎を載せた斬撃は両側より、ショヴァンの首を切り落とそうと襲い掛かる。
普段のショヴァンであれば、その様な攻撃を受けようが致命に至ることはない。
だが、今は違う。
肉体を守る【魔力】を焼かれ、万が一の可能性が生まれた。
ショヴァンは重くなった肉体を動かし、その一撃を避けると両側から迫る蒼炎同士が打つかり合い、目の前で爆ぜる。
それと同時に、鞘に剣を納めていたレンジが追撃の準備を整えていた。
「無明一刀流、飛龍星」
蒼炎の高速抜刀、それは避けることすら不可能な一撃であり、ショヴァンはそれを首元に放たれ、切り裂かれた。
改造された肉体であっても、レンジの抜刀術より放たれる剣からの一撃は、簡単に切り跡をつけ、以前よりも深い傷を刻んだ。
(レンジよ、お前は強いな)
血を流すショヴァンに対して、レンジは容赦無く次の攻撃を放つための行動に移っており、決着は間近、その場に観客が居ればそう感じるほどであった。
だが、それは違う。
幾ら傷をつけようが、幾ら血を流そうが関係ない。
ショヴァン、いや、愛国の獣は暗闇の中で迫り来る【魔王】殺しの剣士に向けて、拳を振り抜いた。
抜刀のタイミングに合わせて、放たれた拳によって、レンジは吹き飛ばされるとそんな彼に向けて、ショヴァンは血を吐きながら叫んだ。
「私を、舐めるなよ! 肋屋レンジ! 【魔力】の壁を失くそうが、肉体を傷つけようが私は止まらない! 私は、私こそが愛国者、愛国者! リヴァーレ・アルデンギーリ! 私が死ぬ時は、【第四戯魔王】いや、我が娘が死ぬまでだ!」
ショヴァンの【魔力】の操作がおぼつかない状態であった。それであるにも関わらず、その咆哮は過集中状態のレンジをも恐怖させる様な威圧感が持っていた。
手負いの獣との最後の攻防。
レンジとショヴァンの決戦の最後の火蓋が切って落とされる。
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