五十二話 おじさん、第四戯魔王に挑む①
レンジとショヴァン、彼らの戦いは熾烈を極めていた。
ショヴァンの【権能】、鹿王の呪詛は、発動と同時にその周辺に能力を発揮する。
その能力は、
「無明一刀流、雷」
レンジは速攻での決着をつけるために、黒雷による斬撃をぶつけようとするが、【夜叉】の刃に【魔力】が宿らないことに気付く。
鹿王の呪詛、ショヴァンの【権能】は敵対者の【魔力】を奪う能力。
ショヴァンの肉体は改造を施された際に、幾つもの呪いを重ねがけされており、それが【魔力】と交わることで、能力範囲内の【魔力】を奪い取ることが出来る。
「なっ!?」
純粋な技のみでの抜刀術は、それだけでも脅威になり得るが、今、彼の目の前に立つのは国を背負いし騎士であり、絶対的な強者。
故に、安易に近付いたこと自体が、死に直結しかね無い。
ショヴァンは自身の首に振り抜かれた一撃を、防御もしないまま、それが持つ分厚い皮膚が阻む。そして、近付いてきたレンジへと容赦無く戦斧を振り下ろした。
(【夜叉】の【魔力】の内、1つが消えてる。ショヴァンの【権能】は多分)
戦斧が振り下ろされる、この間に、レンジの思考と同時に、自然と手が動いており、鞘に【夜叉】を納め、その柄を捻った。
「無明一刀流、結」
戦斧から放たれる重い一振りを、レンジは【夜叉】に載る【魔力】を変化させ、それを防いだ。
防いだとあるが、何層にも張り巡らされた氷の壁を簡単に砕かれ、【夜叉】の刃までに到達しており、寸前の所で耐えていた。
「ほう、【魔力】が2つ。私が奪ったのはもう1つの方か」
ショヴァンはそう言うとレンジが彼を動けないように氷で固めた凍てつく肉体を最も簡単に動かし、再び戦斧での攻撃を放つ。
レンジはそれを背後に飛んで避けると鞘に【夜叉】を納めて、ショヴァンから距離を取った。
(あの【権能】、正直、滅茶苦茶厄介だな。攻撃で使い慣れていた黒雷が使えなくなった。それでいて、どれくらいの範囲まで使えないのかも不明だし、未知数)
分析をしながら足を止めないレンジに向けて、ショヴァンは彼を逃さまいと戦斧の持ち方を変え、投擲の形へと変化させた。
「鹿王の雷撃」
ショヴァンの腕より、戦斧が纏うのは紅蓮の【魔力】を帯びた雷。
「?! マジか!?」
レンジは思わず声を漏らす。
それは【夜叉】へと宿していたはずの黒雷の【魔力】であり、レンジが使用した時よりも遥かに威力の上がった赫い稲妻が疾っていたから。
レンジへと真っ直ぐと光が一閃し、彼はそれを抜刀術で防ごうとするが、その一撃を眼が捉えた瞬間、行動を無理矢理にでも変える。
以前、ベオウルフが見せた、彼の【権能】の極地、火焉。それと並ぶ自分の死の未来、それが脳裏に過ぎると体をなんと捻り、戦斧の刃に、【夜叉】の刃を少しだけ当てて、それを逸らした。
雷は奔り去り、戦斧は地面を抉り抜く。
レンジは自身の横に戦斧突き刺さった状況を見て、内心ヒヤヒヤしながらもすぐに前を向いた。
その視線の先、そこには先程投げた戦斧と同じ形をした得物をショヴァンは何故か、既に握りしめており、それに再び雷を纏わせていた。
「なっ!?」
レンジは再び声を漏らすも、それと同時に、彼はすぐに次の選択を強いられる。
避けるか、逸らすか。
レンジは凡そ数秒の間に、その選択の1つを選ぶしかない。
そんな中、レンジは3つ目の答えを選択する。
構えたショヴァンを確認しながら、背を向けた。
レンジの第三の選択、それは戦略的撤退。
この場でショヴァンと真っ向からの切り合いは不利であり、相手の【権能】の能力の範囲から抜けられれば、【夜叉】の【魔力】を取り戻せるかもしれないという望みをかけた撤退である。
「逃さんぞ、レンジ」
ショヴァンは自身の腕に握られた戦斧を再び投擲の形で構えるとレンジ目掛けて、それを投げつけた。
迫り来る戦斧、突如として、ショヴァンの手に握られた武器の正体、それは彼の【魔力】のみで作られた得物である。
レンジの世界の人類は未だに【魔力】の全てを究明出来ておらず、その割合は4割にも満たないとされている。
主な使い方として、【魔力】による既存エネルギーと要素の代替がメインとされており、例を挙げると炎を出すために必要とされるエネルギーと要素を【魔力】で補うというもの。
科学によって解明された要素や、エネルギーを【魔力】によって補うのが主流であり、小回りが効く使い方が可能とされる。
【魔力】の使い方が【魔王】達がいた世界とは全く別。
【魔王】や、魔族にとっての【魔力】は常にその場にある力の流れであり、何故、炎が出せるのかの原理が分かっていないが、何となく出せるから、出来るから自然とだすというものであった。
人の【魔力】の使い方には限界があるが、【魔王】や、【魔族】の【魔力】の使い方には限界がない。
故に、【魔力】を使って出来ることは人間よりも遥かに上であり、ショヴァンが全く同じ形の戦斧を突如として作り出すことも造作なかった。
ショヴァンの背後より、迫る戦斧、それをレンジは目も向けずに、走る。
徐々にショヴァンから距離を取れるが、戦斧は近付く一方で、残りあと数メートルのところまで来たその時、レンジは【夜叉】の鞘を前に構え、その剣を抜いた。
「無明一刀流、結・球」
走る中で、考えついたレンジの投擲に対する答え。
それは氷を球状に張り、戦斧をギリギリのところで逸らすというもの。
球体という形が持つ斜面に氷の表面で起きるスリップを掛け合わせた防ぐための防御ではない、攻撃を逸らすための防御の型。
戦斧が打つかった瞬間、ゴインという巨大な音共に、それは空に勢いよく跳ね上げられた。
戦斧は吹き飛び、天井へと打つかり、再び大きな音が鳴り響いた。
「ふむ、土壇場で今の防御を編み出したか。見事だよ。だが、レンジよ、私から距離を取ろうが、逃げようが関係ない。私の【権能】はお前を居場所を知っている。何処に逃げようが関係ない。地獄の底まで追い回してやろう」
ショヴァンはそう言うとレンジが向かった先へと足を動かし始める。
一方、レンジは遊園地の中を、駆け回りながら【夜叉】の柄を回し、奪われた【魔力】を確認した。
(ダメか。あの【権能】はショヴァンが死ぬまで、無くならない。このままだと火力不足でジリ貧。やっぱり、そろそろベオウルフの【魔力】の深奥を使うしかないけど、落ち着いた場所じゃないと)
柄を再び回し、ベオウルフの【魔力】に戻すと、レンジは遊園地内で何処か落ち着ける場所を探した。
すると、彼の目の前に、1つの建物が目に入った。
「ここは…。いや、案外、悪くないかもしれない」
レンジの目の前にあったのは、お化け屋敷と呼ばれる物。
レンジは背後からショヴァンが追ってこないことを確認するとその暗闇に自ら足を踏み入れた。
「ここで決着をつけよう、ショヴァン」
追う者と追われる者。
レンジとショヴァンの勝負の行方は如何に?
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