五十一話 おじさん、池袋に挑む⑫
「London Bridge is broken down~♪ Broken down~♪broken down ~♪London Bridge is broken down ~♪My fair lady ~♪」
少女は歌う。
今、自分の目の前に広がっていた支配による和平。
自己満足で、自分よがり、あまりにも利己的な平和に対し、喜び、悦から来る、愉快さ故に、軽やかにその歌を口遊む。
薄氷の様な平和の上で踊る【魔王】は、正しくハリボテの平和を支配した様な感覚で、彼女は無性に歌いたくなっていた。
「ロンドン橋が落ちる~♪落ちる落ちる~♪
ロンドン橋が落ちる~♪さあ、どうしましょう~♪」
かつて先王が夢見た景色を、今、その娘である自分が体現した。
それが示したやり方とは違う。
間違えてしかいない。
そんなことは知っている。
頭で全て理解しているからこそ、マキナは自分を是とした。
理想を追い求めることなど先王を殺された時に、諦めた。
理想を継ぐことなど義父から求められた時に、諦めた。
その中身はグツグツと煮込まれた復讐心のみであり、ドロドロと溶けて溢れ出る。
人類との共存?
人間との和平交渉?
「どの口が」
最愛のケルヌンノスも居ない。
殺された。
人間にまた、自分の大切な物が殺された。
自分が手を伸ばした物は全て殺され、壊され、理不尽に消えた。
「どの口が! どの口が! どの口が! どの口が! どの口が言っているんだ!」
【池袋】遊園地の間にて、一際際立つ城の中、マキナは叫んだ。
音楽は無く、怒りだけが正真正銘の感情として、現れるとそれを誰もいない空間へとぶつけた。
そんなマキナに対して、2つの影が伸びる。
「おうおう、荒れてんじゃねえの」
金髪の男が大鎌を握りしめながら、マキナの前に現れるとその背後より、かつて見たことのある面影の少女が宙を浮いていた。
「上手に歌を歌う余裕があるんだな、【魔王】様はよぉ~」
【第四戯魔王マキナ】のハリボテの根城、それに足を踏み入れたのは2人の【冒険者】、夜島夜とマーラ。
2人はレンジとミリアが戦っている横で真っ先にこの場に向かって行き、マキナの前に現れた。
彼らに対して、マキナはフゥと一息吐き、何の感情も抱かないまま、彼らを称えた。
「おめでとう、【四望遊戯】、参加者の2人。君達がこのゲームの優勝者だ」
マキナは大量の【魔石】を目の前に広げ、夜とマーラに向けて、それを勝手に取って行けと指図する。
それに対して、夜は何かに気付いたのか、マキナに向けて問いかけた。
「オイ、この【魔石】、なんか混じってないか?」
夜の目に映る【魔石】には、見知らぬ【魔力】が薄らと込められており、それを指摘するとマーラは追撃する様に声を上げた。
「そうだぜ~、友好的な【魔王】様よ~。この【魔石】には、それが持つ【魔力】とは別の【魔力】が込められてる。何なんだ? これは」
全てを知った上で、マーラは問い詰めるとマキナはそれに対して、感情を見せずに答えた。
「君達は勘が良いんだね。そうだよ、それには私とも違う【魔力】が込められている。君達はそれすらも見抜いた。真の意味での優勝者だ。去れ。そうすれば命だけは助けてあげる」
「あはは! 【魔王】ってのは案外お優しいこった。俺は別に【魔石】が欲しい訳じゃねえんだわ」
夜はそういうと自身の握る大鎌を振り回し、その刃をマキナへと向ける。
宣戦布告とも捉えられる行動に、緊張の糸が張り詰め、一触即発の中、夜は再び口を開く。
「俺は【魔王】が殺したいんだよ。だから、お前がいい【魔王】であれ、悪い【魔王】であれどうでもいい。その首、貰うぜ」
その一言の後、夜は手に握る大鎌を振り回し、マキナとの距離を詰め、得物を振り下ろした。
マキナはその攻撃に対して、左腕を前にすると彼女を守る様に背後より現れた何かが、弾き返す。
(壁? いや、この弾く構造的に、腕だな。生き物? 機械ってのが正しいか。俺の得物の一撃を弾けるほどの硬度もあるとなると、厄介だな!)
夜は一瞬のやり取りで、それらを分析し、大鎌の柄を握りながら、再びマキナへと襲い掛かった。
「風魔法VI」
次は、大鎌に【スキル】を込めた一振りを放ち、それをマキナは再び左腕を動かし、防御した。
その背後より、自身の【権能】で姿を消していたマーラが突如として現れるとマキナの隙を縫って、妖刀・【我射髑髏】での突きを放つ。
マキナは二歩ほど思考が追いつかなかったが右腕を動かした。すると、夜の攻撃を止めた物とは別の鉄塊がマーラの攻撃を防ぎ、彼女に向けて、それは拳の様な物でパンチをぶつけた。
鉄塊より、繰り出されるパンチを【我射髑髏】を使って防御をし、すぐに切り返すよりも早く、マキナは指を動かし、マーラへと追撃を始めた。
「おうおうおう! 俺ばっかり狙うとは性格悪いな!」
狙われたマーラであったが、【権能】による浮遊と卓越した身体能力を使い、巧みに攻撃を避けると彼女に割かれた意識の間を縫って、夜が挟撃する。
夜の大鎌は振るう度に、地面を切り裂くがマキナを傷付けるには至らず、三者三様に決め切れない、拮抗状態が形成された。
二対一の状況でありながらもマキナは夜とマーラの攻撃を一切食らわずにいたが、彼らの連携速度も徐々に上がっており、一進一退の攻防が続く。
(そろそろ頃合いだな。さてさて、解かせて貰うぜ、その不可視!)
そんな中、マーラはマキナの使っている何かの正体を明かすための分析を終えたのか、彼女から距離を取った。
「射抜け、【我射髑髏】」
紅の刃より放つのは自身の【権能】を載せた射撃であり、2つの弾丸をマキナへと放つとそれを防ぐために鉄塊は腕を動かした。
弾丸は防がれたが、それらがぶつかった瞬間、不可視が徐々に明かされ、その姿を露わにする。
「何だ、あれ!」
夜はそれを目の当たりにした瞬間、目をパッと輝かせる。
不可視の鉄塊、その姿が明かされるとそこには機械仕掛けの肉体を持った2体の人形は宙に浮いており、それらには【魔力】の糸が張り巡らされていた。
マキナの2体の機械人形、蒼く仰々しい装飾の成された物が偉大な父、白く細やかな装飾の成された物が最愛の母。
マキナの家系に残された戦略兵器であり、彼女が【魔王】としての能力の起点としている【魔導】機構である。
「私のお父様とお母様の姿を晒すなんて、とんだ恥知らず」
マキナはマーラを睨みつけるも彼女はそれを一切、気にする素振りも見せず、逆に煽る様に声を出した。
「恥捨てて勝てる勝負があるなら俺はそれを全て投げ捨てて、勝利を掴むぜ。だから、王族上がりの【魔王】は勝てる可能性を自分から捨ててんだよ」
王族上がりの【魔王】、それを知っているのは【魔王】達だけであり、マキナはようやく今、自分の目の前に立つ少女が何者であるかを理解する。
「そうか、マーラ。お前か。お前が、アイツの転生した姿か! なら、殺す! お前を殺して私はようやく完璧を手に入れる!」
突如として、先程までに無い感情の昂りを見せたマキナに対して、もう1人、その場にいた役者である夜が大鎌を振り回しながら喋り出す。
「何が何だかサッパリ分からんが、俺だけ置いてきぼりにするなよ! カーマ!」
「ん? ああ! すまんな! 夜。なら、今からが本番だ! 【魔王】殺し、俺達が成すか! それともレンジが成すか! さぁさぁ! 大いに盛り上げようぜ! 今宵の戦い、その顛末を!」
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