五話 魔王、S級冒険者と相対する②
迷宮が生まれて人類には三つの祝福が齎された。
一つ目、【魔石】と呼ばれる現代のエネルギー問題を解決しうるとされる、【魔力】を持った石。
二つ目、ステータスと呼ばれる身体能力、および、その人間が持つパラメーターの可視化。
三つ目、【魔力】によって生み出すことが可能となった【スキル】と呼ばれる【魔力】によって生み出される超常現象。
人々はそれらを使い、現在、迷宮配信というエンターテイメントを全力で享受していた。
そして、迷宮では、人々の認知によって、冒険者達が持つ扱える【スキル】が変化する。
それこそが、【ユニークスキル】であり、冒険者が至る一つの極み。
ミリアが【起動】させたのは、彼女が極めた【無明一刀流】を、【魔力】と【スキル】で強化させ、開花させた【ユニークスキル】、名を【光導拾弍式抜刀術】。
ミリアはその場で、刀を構えたまま動かず、マーラを睨みつけながら、短く呟く。
「双魚」
その瞬間、ミリアから目を離していなかったマーラの右肩に切り傷が生まれた。
「ほう?」
【波旬】に命じていた全自動防御は確かに機能していた。ただ、【波旬】が弾いたのは一つのみ。
ミリアの放っていた不可視の二つ目の斬撃には、機能しなかった。
(二つの斬撃を放ったのか? いや、違う。そういう【スキル】という奴か! なら、見せてみろ! 星空ミリア! お前の深淵、その全てを!)
マーラは【波旬】を前にして、ミリアの動きを伺うと、彼女は既に【無明一刀流】の構えを取っていた。
「大蠍」
ミリアはその言葉と共に、地面を蹴り上げると、マーラ目掛けて刀を抜く。【波旬】は主人であるマーラを守るために、動き出すと、目にも止まらぬ速度で迫ったミリアへと対応し、彼女の抜刀を防ぐ。
「あはは! 早いとは言っても、お兄ちゃんほどの速度はないんだな! ミリアお姉ちゃんは!」
「黙れ。僕が師匠の横に立てることなんてある訳ない」
「へぇ! 意外と、自己肯定感低いんだ!」
2人の刃が火花を散らすと、マーラは【波旬】へと力を込めて、彼女を再び地面へと叩き落とした。
ミリアの抜刀はしっかりと防がれた。
ただ、それはミリアの刀から放たれた一撃であり、【ユニークスキル】から放たれる物に、【波旬】は対応出来ない。
ミリアが叩き落とされると同時、マーラの右肩から血が流れた。
「ほう? 今、抜刀は防いだのにな。何が俺を刺したんだ?」
傷を負いながらも不敵な笑顔は一切崩さず、マーラはミリアに見せつける。それは強者故の余裕であり、まだまだ、底を見せないミリアへ向けた挑発でもあった。
ミリアにとって、挑発などは気にも留める必要のない行動であり、本来の彼女であれば、それを受けて立とうなどとはあり得ない。
だが、今は話が違った。
自分が大好きな師匠の横に、パッと出の女が立っている事にミリアは我慢出来ず、その挑発を何の躊躇いもなく、受けて立とうと三度、技を披露する。
「双子」
ミリアが逆手抜刀の構えを取ったまま、その場から動かなくなるとマーラはそれを見て、自分を誘っていると判断した。
(今度は俺から攻めて来いって言う感じか。惜しくも、俺は賢いからな空の上から降りることはねえよ)
そんな簡単に自分は誘いに乗らないとだマーラはタカを括った、その時、マーラは何故か、ミリアから視線を逸らした。
何故、その行動を選択したのか?
それは【魔王】として、君臨し続けた王としての直感の様なものが、彼女に取らせていた。背中に迫る何かに目を向けろという危機感が選択せざるを得なくさせており、マーラはミリアから視線を離す。
そして、結果として、その行動によって、マーラはミリアの技の正体を目撃する事になった。
「ほう? これは!!!!」
マーラの目を凝らした先に、【魔力】によって作り出されたミリアにそっくりな人形の様なものが剣を握りしめており、彼女の胸を貫こうとしていた。
向けられた刃を、マーラは片腕で簡単に掴むも、その背を向けた瞬間を狙って、ミリアの抜刀が襲い掛かる。
(良いなぁ! ミリア!!!! とても、とても良い!!!! 隙のない攻撃! レンジの弟子であるというのも頷ける! これなら、遠慮は要らないなぁ!)
【波旬】の刃をぶつけ、攻撃を逸らしながら目の前に現れた分身目掛けて、マーラは残った片方の腕の爪に自身の【権能】を載せた一撃を放った。
「覇牙」
5つの爪が纏うのは空気の膜、マーラの腕の動きに合わせて、それは引き伸ばされると一瞬にして、5本の刃が形成される。
5つの空気の刃は、【魔力】によって生み出された不可視の分身を、邪魔だと言わんばかりに簡単に切り裂いた。
そして、そのまま空中で、マーラは一回転すると、空気の刃は、続け様にミリアを切り裂こうと放たれる。
一方、ミリアは【波旬】を弾き飛ばし、マーラと同じ高さまで飛びながら、次の抜刀の構えを取っていた。
そんな中、放たれた空気の刃に対して、ミリアの背筋に死が過ぎる。
それは不可視で、何処から迫っているのかは全く不明。
だが、自分に這い寄り、足に絡み付こうとする死にミリアは反応し、刃を抜いた。
「水瓶」
【光導拾弍式抜刀術】には、防御の抜刀術と、攻撃の抜刀術が6つずつ、合計12個の型がある。
五つの刃にぶつけるのは防御の型である抜刀術。
逆手で刀を抜くと同時に、ミリアの周囲に水のような物が浮かび上がり、それら全てがマーラの斬撃を防いだ。
「ほほう! 良いね! ミリアお姉ちゃん! 俺達、案外似た者同士かもだ!」
防いだ瞬間、浮かせていたはずの【波旬】を握りしめたマーラがおり、空気を纏わした刃をミリアへと振り下ろした。
防御の型を取った直後に、空いた、ほんの僅かな隙をマーラは突くとミリアはその一撃を逆手抜刀により、防ぐも空からは再び叩き下ろされてしまう。
体勢が悪く、背中から地面に叩きつけられるもミリアはすぐに立ち上がり、マーラのいる空へと視線を向けた。
だが、そこにマーラは居らず、彼女はいつの間にか、自分と同じ、地面に立っていた。
「ねぇ、ミリアお姉ちゃんはさ、運命って言葉、信じる?」
マーラの問いに、ミリアは意外にも一切の遊びを捨てた表情で答えた。
「信じてる」
「浪漫主義だね! 実は、俺も信じてるんだ! 運命ってやつを!」
マーラは【波旬】の柄を握りしめ、その刃先をミリアに向ける。
【波旬】を浮かせていた時よりも、マーラが纏っていた空気が大きく変わっており、ミリアはそれに気付いていた。
(この強さの底の無さ。師匠の妹ってのも嘘じゃないのかな。でも、それが理由だからと言っても、僕は、師匠の横に僕以外が立つのを許さない)
ミリアがレンジの横に立つのを拘る理由。
それはレンジが大好きであるから。
好きの度合いは深い敬愛、尊敬、親愛と全ての愛が当てはまるほど。
「決着をつけよう、カーマ」
「はは! 初めて、名前で呼んでくれた! ミリアお姉ちゃん!!!!」
マーラとミリアは、互いに得物を構えると今持てる最高の一撃を放つために、ほぼ同時に地面を踏み出した。
ミリアが放たんとするのは、一つを除いて考え得る限り自身が持てる最高の技、直線上に迫り来る敵にのみ使用が可能な一撃。
「雄牛」
一方、ミリアに見せるのは刃に空気を載せた単純明快な破壊力のみに特化した一振り。
「覇刃夜我!」
二つの技がぶつかり合う直前、その地にはもう1人の人間が刀を構えていた。
「無明一刀流、番」
2人の間を切り裂くように現れたのは肋屋レンジ。
ミリアとマーラの剣劇を、一閃すると自分を置いて刃を交えていた2人に向けて、声を上げる。
「2人とも、一旦、落ち着こうか」
その言葉には何処となく怒りが込められており、それを聞いた2人は目の前に現れた鬼神に背筋を凍らせる。
マーラとミリア、2人の戦いはこれによって一度、幕引きとなる。
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