四十八話 おじさん、池袋に挑む⑨
それは【魔王】が見た夢。
それは【魔王】が堕ちた理想。
少女は踊るクルクルと。
夢見た世界はもう手前。
【権能】の糸は既に、そこにいる人間達、魔物達に張り巡らされている。
彼らを集めたのは己が夢を叶える為。
彼らを必要としたのは【魔王】の理想の為。
かつて、1体の【魔王】が人類と和平を結んだ。
【魔王】と【勇者】が互いに理解を示し、その最後に手を握り合った。
人類と魔物、その両者が争わない世界を作ることを目標に【魔王】と【勇者】が協力し、和平交渉の場まで話を進めた。
平和はすぐ目前、この記念の宴会が終われば、世界は唯一無二の世界となる、筈であった。
【魔王】と【勇者】は人類に裏切られた。
【魔王】と【勇者】は毒殺された。
母は目の前で刺殺された。
燃え盛る業火が燃えがある音、轟々と鳴り響くこべりついて離れない音。
あの日の地獄を少女は忘れることはない。
「London Bridge is broken down~♪ Broken down~♪broken down ~♪London Bridge is broken down ~♪My fair lady ~♪」
少女は歌を歌う。
それは自分の世界の歌ではない、この世界の歌。
何故、知っているのか?
それは【魔王】がここまで準備をして来たから。
時間をかけて弄した策、暇のある時、聞いた妙に耳に残る歌。
「ロンドン橋が落ちる~♪落ちる落ちる~♪
ロンドン橋が落ちる~♪さあ、どうしましょう~♪」
【魔王】の細い声が、自分で準備した舞台にスイッチを入れたのか、それは明かりを着けたかの様に突如として、光を灯す。
【四望遊戯】の舞台【池袋】の迷宮、そこに生み出されたのは巨大な遊園地。
観覧車に、ジェットコースター、コーヒーカップ、メリーゴーランド、この世界の娯楽施設を模した舞台は少女の歌と共に運営を始める。
様々な娯楽器具が置かれる中、一際目出す、大きな広場に【四望遊戯】で集めた【冒険者】達が何故か整列させられていた。
少女が準備した網に、掛かった【冒険者】達はいつの間にか、暗闇で意識がボンヤリとさせられ、今もまだ、暗闇の中にいる。
彼らは、彼女達は多種多様な魔物達と仲良く手を取り合っており、暗闇から光に照らされたことで自分が何をしているのか朦朧としていた意識が突如として、ハッキリ目覚めた瞬間、彼らは思わず、悲鳴を上げた。
「え? は?! な?! に?!」
「何だ!? 離せ! この! はぁ?! 離れない?! 体が自由に動かない?!」
「たす、けて!!!! 誰か!!!! 助けて!!!!」
「こわい! 怖いよ!? 何が起きてるの?!」
「魔物!? 殺す!!!! 動かない!? 何で?!」
「どぉぉぉぉしてだよぉぉぉぉぉ!!!!」
「なんで魔物と手なんて繋いでるの?! 嫌だ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図、助けを乞う声も、恐怖で怯える声も、全てが同時に聴こえてくる。
「やっぱり、私達は分かり合えない。そうでしょう? ショヴァン」
両眼を真っ白なアイマスクで覆った少女、【第四戯魔王マキナ】は愛すべき自身の騎士にそう問いた。
「ああ、セイレンスよ。そうであるな。お前は私にコレを見せたかったのか」
ショヴァンと呼ばれる老兵は目の前に映る異様な光景を自身に見せつけるマキナに対して、そう答えた。
「ええ、私はあなたに見て欲しかった。私が見た、人の憎悪を、私が見せつけられた人の差別を。魔物であっても生き物、それと手を取ろうとした人間を、【魔王】を、殺した世界を見て欲しかったの。あなたは何度も私に言って来た。【魔王】と【勇者】の意志に応えてほしいって。ただ、それは相手にその意思が相手にあればの話だ。私はね、ケルヌンノスが殺された時点でその気はない。だけど、ショヴァン、あなたはそれでは認めてくれないでしょう?」
マキナは目を瞑ったまま、くるりと回り、手を前に広げて、嬉しそうに再び喋る。
「だから、これは私が作った世界の縮図、理解と差別の擬似体験。彼らはこれからそれを演じて貰う。それが【第四戯魔王】が望んだ遊戯。真の【四望遊戯】の始まり」
遊園地の装置が突如として、音を立てながら動き出す。
迎える客人は居らず、遊ぶ客人も居らず。
ただ、無機質なまま、意味もなく、その場にいる人間の恐怖心を煽るためだけに動く。
「始めよう、彼らは死ぬまで踊って貰う。絡繰れ、人間戯劇」
優しい声から放たれる人間に向けた、限りなく深い憎悪。
幼き【魔王】の背後より、突如として、上半身のみの機械仕掛けの存在が二つ、宙に現れる。
片方は蒼で、もう片方は赫の無骨なデザインをした機械を、マキナは自身の手より伸びる【魔力】で作り出した糸で動かした。
合計、四つの腕の指から、広場一面に張り巡らされている糸全てが引っ張られると【冒険者】達の体は突如として自分の意思とは関係なく、動き出す。
「い、嫌だ!? 何?! 何なの?!」
「踊ってる?! 何、いや、ぁ!? 腕が、溶けてる!? これ酸性のスライム、助けて! 助けて!!!!」
「あははは!!!! 夢だ! こんなの夢だ!!!! あは、あはは!!!! そうじゃなければ、魔物と踊るなんて!?」
「踊る前に、腕がないのよ?! 魔物に削り取られてるのに、体が痛いのに動く! 助けて、たすけて、いたい、いたい」
その踊りに意味はない。
その魔物にも意味はない。
当てがわれただけ、ただ、【魔王】に命じられて人間と手を握っただけ。
触れるだけで、致命傷となる魔物と当たった人間は運が悪かった。
今、踊れている人間は運がよかった。
ただ、いたずらに運命という糸を操り、転がすだけ。
マキナはそれでも心の底から願っている。
不運に見舞われた人間の上に立つ人間が、自分と手を握ることを。
何れそれが真なるコミュニケーションであり、魔族として、人間に接する手段である。
踊りは止まらない。
意識がない人間にも、意識がある人間にも、全てと繋がる糸がある限り。
止めることなど、マキナはしない。
したいとも思わない。
それだけが自分の矛盾を癒す方法であるから。
一矢乱れぬ狂気の踊り、ショヴァンはそれを否定もせずに見守った。
誰が彼女を止めよう。
その憎しみは当然の憎悪であり、当然の帰結。
自分が仕えた【魔王】の意志、それを継いで欲しいと言い続けた結果、起きてしまった結果。
ショヴァンはそれを止めることなどは出来なかった。
(すまない、先王よ。すまない、セイレンスよ。お前をこうしたのは、この私のせいだ。すまない、人間よ。私がこの子の意志を汲めなった。恨むなら、私を恨め。それであれば、幾らでも)
ショヴァンがマキナの遊戯を見続けていたその時、彼らの目の前に枝分かれする黒い稲妻が疾った。
幾つもに不規則に広がった稲妻が、【冒険者】を操る【魔力】の糸と魔物の首を断ち切り、ショヴァンとマキナの下に向かって来ると彼はそれから彼女を守るために、自身の得物と盾を構えた。
「無明一刀流、轟雷」
漆黒の雷と共に逆手の抜刀術を放つのは肋屋レンジ。その目には怒りに満ちながら、黒い刃をショヴァンへとぶつけた。
ショヴァンはそれを盾で簡単に防ぐと、レンジをも上回る巨体から放つ斧の一振りで遠ざける。
無理矢理、距離を取らされるレンジであったが、ショヴァンへと視線を向け、その場にいた人間が受けた不条理から来る怒りを体現するかのようなトーンで、口を開いた。
「お前達は何でこんな理不尽を人間に強いる」
レンジの言葉に、マキナは答えようとするが、それをショヴァンが止めた。
「我が、【魔王】を狙う強者よ。これを理不尽と呼ぶのであれば、我々は相容れぬ。それだけで充分だ。マキナよ、我が【魔王】よ。ここは私が引き受ける。あなたは、また、【四望遊戯】の準備を始めよ。強者よ、お前の相手はこの私、愛国者がしよう。来るがいい、全力を持って、私という理不尽を振り払ってみろ!」
愛国者の咆哮と共に、レンジは彼との戦闘を開始する。
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