四十四話 おじさん、池袋に挑む⑤
アルレッキーノは槍を力一杯、振り回し、レンジを薙ぎ払おうとする。
その一撃を軽く避けながら、レンジは彼が持っていた1つの感情を知った。
アルレッキーノ、彼の敵意に満ちた殺意の裏側に、僅かに光る死をも恐れぬ覚悟という物を。
(彼は役割を演じ切るといった。ここでの役割は僕を殺す、もしくはここで僕を足止めする、ってところかな)
そのためであれば、死ぬことも辞さない。
アルレッキーノという魔族はそれ程までの覚悟を持ってレンジと対峙している。
アルレッキーノは既に、【権能】である厚かましい嘘を発動していた。
それの【権能】の能力は、凡ゆる物に【魔力】で生み出した皮を被せることで、相手の認識を歪めることが出来るモノ。
その身を巨大なマントを羽織る様に見せかけながら、その背後には肉体改造が施された数十に及ぶ機械の腕が得物を握りしめていた。
死ぬ気で、レンジを止める。
それが相手を騙し、どんなに卑怯な手を使っても。
アルレッキーノはレンジへと見えているだけの大槍を使い、彼の体に向けて、突きを放った。
同時に、厚かましい嘘によって隠しておいた全ての武装を構え、それら全てをレンジへと向ける。
対して、レンジはというと、ゆっくりと【夜叉】の鞘を前にし、逆手抜刀の構えを取る。
そんな彼らの姿を、1人のとある【冒険者】が目撃していた。
そして、名も無き彼は、後に、そのあまりにも一瞬の決着をこう語る。
「あれは言葉通り、目にも止まらぬ決着、刹那の攻防。僕はあれ以上に人間が速く動ける想像が出来ない」
と。
レンジは【夜叉】の属性を黒雷へと変化しており、踏み込むと同時にその刃を鞘より、見せつける。
「無明一刀流、轟雷」
アルレッキーノの大槍とレンジの【夜叉】の漆黒の刃がぶつかり合い、黒い火花が舞い散る。
アルレッキーノの大槍も名槍であり、それは握る物の【魔力】によって硬度の変わる一本であった。
その槍を【夜叉】は一瞬にして、刃を砕き、アルレッキーノの首へと疾る。
理不尽なまでの速度で、レンジは決着をつけようとするが、それを超す更なる理不尽による蹂躙をアルレッキーノは行うために隠しておいた、機械の腕を動かした。
【権能】によって、隠された凶器は数知れず、それら全てをレンジの体に突き立て様とアルレッキーノは振るう。
レンジの刃がアルレッキーノの首を断つのが先か。
アルレッキーノの見えざる凶器がレンジの体を切り裂くのが先か。
その答えは。
アルレッキーノ、彼の大槍がぶつかったおかげで、レンジの剣が少しだけ、ほんの少しだけ遅れを見せ、その隙を縫う様に見えざる凶器がレンジへと襲い掛かる。
「死ねえ! 肋屋レンジ!!!!」
咆哮は勝利を確信したが故に放った物であり、アルレッキーノは【魔王】殺し、その最たる脅威でえるレンジを抹殺に成功したことを歓喜する。
否。
それは一瞬にして、違和感へと変化した。
大槍の刃と【夜叉】の刃、二つが重なり合った瞬間、生まれた黒雷は不規則に辺りに散る。
その散った雷が何故か、地面を裂いていた。
アルレッキーノの感じた違和感。
本当に些細なことで、それが敗因に繋がるとは気付きもしない物。
(何故、雷が地面を切り裂いた?)
黒刀・【夜叉】には、現在2つの機能が兼ね備えられている。1つは、2体の英傑、【侮蔑のフリード】、【勇者王ベオウルフ】の【権能】が込められている。もう1つが数千にも及ぶ【魔石】を凝縮し、【術式】として、絶対に折れることのない刃という性質を持っている。
今、レンジは【侮蔑のフリード】の【権能】である【紅雷】を使用しており、それは紅の雷撃を纏わせ、相手を蹴散らす物。
本来であれば、【紅雷】は肉体強化及び破壊に重きを置いた【権能】であり、かつて、レンジが【侮蔑のフリード】と剣を交えた際、唯一、自分から彼だけには敗北をしても良いと覚悟を決めさせるほど。
【紅雷】という【権能】を交えた【侮蔑のフリード】の戦闘は、鬼神が如き強さであった。
ただ、【魔力】という未だに解明され切れていない未知のエネルギーは予想外の形で、その力を変質させる。
黒刀・【夜叉】にある絶対に折れることのない刃という【術式】と【紅雷】の【魔力】、そして、【魔王】殺しのレンジの纏う【魔力】。
それら3つが混じり合い、溶け合った結果、赤雷は、黒い雷へと変貌を遂げた。
【夜叉】から放たれる黒雷、その不規則に辺りに散る雷には、全てに【斬る】性質が付与される。
アルレッキーノが気付いた時には、既に彼の攻撃は、幾十重にも束ねられた凶器は、レンジの放つ黒雷によって、そのどれもが彼の体に突き立てられることなく、切り落とされた。
バチリバチリと音を立て、刃物が、槍が、ハンマーが、自分の肉体に付け加えた機械の腕を全てを黒雷が喰らい尽くす。
「なっ?!」
驚愕とも取れる反応を見せた瞬間、その首に【夜叉】の漆黒の刃が振り抜かれた。
レンジとアルレッキーノ、敵対者同士の中で行われた幾つもの攻防、強者同士のみ入り込める駆け引き、その勝敗はレンジへと軍配が上がる。
この間、凡そ5秒の決着。
あまりにも速いが、濃密な駆け引きに、アルレッキーノは敵ながら肋屋レンジという人間に賞賛を贈ってしまった。
「だが、この5秒、お前を惹きつけた私の勝ちだ」
アルレッキーノはその首が地面にくっ付く直前にレンジへとその言葉を放った。
「何?」
首は地面に転がり、ゴンという鈍い音を鳴り響かせる。
次の瞬間、都市型の迷宮の付近にあった幾つもの建物が爆発を起こす。
ドカーンと派手な音を鳴り響かせながら、直径200メートル範囲の全てを木っ端微塵に吹き飛ばす。
アルレッキーノは最初から死を覚悟していた。
その命を持って、レンジという魔族から見た怪物を消し飛ばし、【魔王】いや、それに仕える偉大なる戦士ショヴァンへの土産となるのであれば。
その命、軽々しく投げ捨てよう。
アルレッキーノは建物全てに元より爆弾を仕掛けており、それら全てを自身の【権能】によって隠していた。
それは【魔力】を眼で見抜けるレンジであっても違和感を感じさせない物であり、道化師の一世一代の大爆発であった。
建物が崩れ、一気に雪崩の様に覆い被さろうとする中、レンジはすぐに【夜叉】を鞘に納め、その刃に纏わせる【魔力】を変更する。
そして、レンジは走りながら、自分のことを見ていた1人の【冒険者】の元に現れ、その技を放った。
「無明一刀流、結!」
【勇者王ベオウルフ】、彼の持つ熱操作の【権能】から放つ氷の壁による防御の型。
建物の瓦礫などからの圧殺を、レンジはなんとか防ぎ切る。
「ま、間に合った。大丈夫かい?」
「あ、え、は、はい」
レンジはそんなやり取りをしながら、氷を操作し、瓦礫を退かすと彼ら地上へと脱出した。
「なるほどね、この道は塞がれた、か。アルレッキーノ、アイツ、中々に嫌がらせが上手いな」
レンジの周りは既に瓦礫で次に進むための道が塞がれており、進路の変更を余儀なくされた。
「とりあえず、別のルートに行こうか。君、ここは危険だから、もう【魔石】なんて求めずに、帰った方がいいよ」
レンジは助けた【冒険者】に、そう声をかけると別ルートを探し、遅れを取り戻すために再び移動を始める。
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