四十三話 おじさん、池袋に挑む④
【池袋】の迷宮を多くの【冒険者】達が踏破を目指して突き進む。
狙うは1つ、大量の【魔石】。
【魔王】のことなどどうでも良く、既に人々は欲望に目が眩んでいた。
その場の空気は完全に飲まれ、支配されており、レンジはそんな彼らよりも先に進むために、空にある面を蹴り上げ、移動する。
(明らかに、他の人達の目が血眼になってる。【魔石】には他の【魔力】も込められてたんじゃないか? それこそ、【権能】が込められてる、とか? 爆発する【権能】以外にも込められるとしたら? もしかして、僕が思っているよりも事態が大きくなりそうだ)
レンジはそう思い、一刻も早く踏破のために【池袋】の深奥へと向かおうとした。
次の瞬間、何故か、1人の【冒険者】が突然、空中を移動するレンジ目掛けて、剣を振るった。
「?!」
突然のことで、レンジは対応に遅れるもそれを簡単にいなし、自分を攻撃してきた【冒険者】へと視線を向ける。
「ちが、違うんだ?! か、体が、勝手に?! 動いちゃって」
剣を握りしめた【冒険者】は意識はハッキリしているが、その体は、自分で言った通りに、ぎこちのない動きを見せており、再びレンジへと走り出した。
するといつの間にか、レンジの周りにいた、【冒険者】全員の視線が1つに集中し始めると次々に彼へと襲い掛かり始める。
レンジは飛びかかったり、攻撃しようとしてくる【冒険者】達を傷つけないために、躱した。だが、その量は徐々に増えて行き、そこにいた数十人の【冒険者】が何者かに操られたのか、レンジへの攻撃を過激にして行く。
(困るな。さっき迄は魔物だったのが、いつの間にか、人すら操ってる。どうにかして、あれを解いてあげたいけど、どうすれば良いのか)
太刀を鞘でいなし、銃弾を抜刀で弾くと近距離から放たれた拳での突きや蹴りを体を捻り、宙返りをしながら、レンジは【冒険者】達の攻撃を軽々と避けた。
攻撃は出来ない。
魔物でもない彼らを傷つけるのはWAAの規則に違反してしまい、レンジは元より無い立場を追われる羽目になる。
(何だ、あれ?)
レンジはどうするべきかを考えていたその時、彼の目には【冒険者】の背後に映る細い糸に気付いた。
それはその場にいる全員に着いており、彼らの頭上から伸びている不可視の糸は、【冒険者】達の動きを操っている様であった。
「なるほど? ここの【魔王】の【権能】の発動条件は気になるけど、とりあえず、全部断ち切れば良いんだな」
レンジは糸が【魔力】によって生み出された物と勘付くと、【冒険者】達の背後に伸びる糸だけを切り裂くために鞘を前にして、無明一刀流の構えを取る。
(狙うのはあの糸だけ。それなら、【夜叉】の属性を変更した方が適してる)
鞘を捻り、流れる【魔力】の性質を変える。
黒雷から、氷河へ。
溢れ出す【魔力】の奔流、それは留まることを知らず、レンジはそれを流れるままに解き放つ。
「無明一刀流、豹」
レンジは【夜叉】を抜くと同時に走り出す。そして、漆黒の刃から放たれる物質を凍らせる【権能】は【冒険者】達の足だけに狙いを定めて、一瞬にして彼らの動きを止めた。
レンジはその間を縫う様に、駆け抜けると【魔力】で生み出された糸だけを断ち切り、気がつけば、【冒険者】達の背後に彼が立っていた。
(み、見えなかった?! な、何が起きたのかもサッパリわからない。それなのにあの人に助けられた、それだけは理解出来る)
とある熟練の【冒険者】はレンジの動きに何とか齧り付いたが、その全てを把握出来ず、彼に畏敬の念を抱く。
この間、凡そ10秒にも満たず。
【冒険者】達の糸が全て断ち切られ、その場にいた全員の動きの自由を取り戻す。
それに対して、とある【冒険者】の1人がレンジに感謝を述べようとするが、彼は何故か、こちらを黙って睨みつけていた。
(な、何で?! ぼ、僕達を助けてくれたんじゃ?!)
(こ、こえぇ。あの気迫、お、圧し殺される!!!!)
皆が皆、レンジの鬼気迫る表情に恐怖心を抱くと、彼は【冒険者】達に向けて、声を上げた。
「そこのお前、隠れてないで出てこいよ」
レンジのいう言葉の意図が分からないのか、【冒険者】達は互いに顔を見合わせた。
「今、切った中で、1人だけ、僕の抜刀に気付いて、首に防御を固めた奴がいるだろう? 知ってるよ」
騒めく【冒険者】達。
彼らは自分じゃない、自分じゃないと名乗りを上げるが、レンジはそんな彼らを1人1人の動作を見ながら、たった1人だけ抗議をする中で、動揺を見せない緩やかな【魔力】の動きに気付いていた。
(完璧に近いまでの偽装。外見だけで見破るのは不可能だな。仕方ない、そっちから出てこないなら、僕から行こうか)
レンジは再び逆手抜刀の構えを取ると、鞘を捻った。
既に敵に目星はついている。
なら、今必要なのは圧倒的なまでの殺傷力と速度。
逃げられないために、レンジは【魔力】の属性を切り替える。
「無明一刀流、雷」
相手が準備を始めるよりも早く、先手を打つ。
レンジの疾走は、目にも止まらぬ速度で敵前に現れる。
鞘から疾らせる漆黒の刃より、黒雷が放たれると敵対者は楽しげにその得物を打つけた。
黒雷が槍の刃と打つかり合い、美しい火花を散らす。
火花は周りにいた【冒険者】達の氷を一瞬にして溶かし、巻き込まれたいと彼らはその場から離れた。
離れると同時に、目的を思い出したかの様に【冒険者】達は走り出し、レンジはそれを止めようとするが目の前に立つ青年がそれを邪魔した。
レンジは槍をぶつける青年、いや、魔族の顔は何の変哲もない、ただひたすらに無害な一般人の形だけを追求し、不気味なほどにそう思える顔立ちをしていた。
そして、彼は優しい笑顔でレンジに喋り掛ける。
「流石、【魔王】を殺しただけはあるな」
「遺言はそれだけかい?」
レンジの言葉に、青年は更に口角を上げると槍を振り回し、彼から距離を取った。
「お初にお目にかかります。私の名前は【第四戯魔王マキナ】直属護衛四刃の1体。アルレッキーノと申します、以後お見知り置きを」
アルレッキーノと名乗った魔物はレンジへと丁寧にお辞儀をする。
だが、丁寧さとは裏腹に滲み出る殺意を一切隠すことなくレンジへと向け、彼はそれに対して、臆することなく、口を開く。
「肋屋レンジ、ただのしがない剣士だ」
「そう卑下するなよ、【魔王】殺し。お前は私達の中では最も警戒されている男、その役割はとてもとても大きな物を担っている」
そう言うとアルレッキーノは嬉しそうに自身の顔に引っ付いている皮を引き千切り、そこから人とは思えぬ素顔を曝け出した。
四つの目の付近にはスペード、ハート、クローバー、ダイヤが刻まれ、ギザギザとした牙と巨大な口を携えた異形をレンジへと見せつける。
アルレッキーノは調子が上がって来たのか、パチリと指を鳴らし、その衣装も平凡な【冒険者】の物から別の正装へと変化させた。
大袈裟な巨大なマントを靡かせ、真っ白なスーツに身を包むと異形ながらも様になるその姿をレンジに晒した。
「始めようか、客人、肋屋レンジ! 私達の演劇は始まるのだ! 拍手喝采は無い! ただ、与えられた役割を果たすために、その手に握る得物振え!」
四刃アルレッキーノの敵意丸出しの殺意をレンジに向けるも、それに対して彼は冷酷なまでの冷たい視線を送る。
【池袋】踏破までの時間制限。
一刻も無駄に出来ない戦いの幕が上る。
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