三十四話 おじさん、第五獣魔王に挑む⑫
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何故か、ケルヌンノスはベオウルフとの出会いを思い出していた。
彼が居たから今の自分があり、自分が居たから彼が居た。
だが、互いに互いを補い合った2人の内、1人が欠けた。
(別にゲームになんて興味なかった。私はあなただけが居てくれればそれで良かったのに)
ケルヌンノスは、自分の片割れとも言える一部がポッカリと抜け落ちた悲しみをレンジのいる世界にぶつける為に、今、戦っていた。
そして、その世界を賭けて戦っていたレンジへと放ったのは、【筺】を用いた、もう一つの極技。
生命よ、虚空に眠れ、それは数多の生物の肉体を一つの箱に詰める事で、起きうる拒絶反応を利用し、その質量を爆発的に高め、相手に指向性を絞り、解き放つ物。
相手からすれば爆発したかの様な感覚に陥るが実のところは純粋なまでの質量の暴力による圧殺であり、それは間違いなくレンジへと襲い掛かっていた。
そんな中、ケルヌンノスはとある違和感を覚える。
息を吐くとそれが白く染まっており、自分の足元に霜が生じていた。
「これは」
ケルヌンノスはその霜の正体、いや、力の奔流を知っている。
見間違うことなどは無く、それは自分がなくした片割れの物であり、レンジの生存を確信すると同時に呟いた。
「ベオの【権能】ね」
生命よ、虚空に眠れから放たれた肉塊が徐々に氷漬けになり、そこから納刀音と共にそれらが砕け散る。
そこから現れたレンジはケルヌンノスの方向を向いており、その眼を前にして、彼女は感情の起伏を抑えながら口を開く。
「ねぇ、肋屋レンジ。ベオと、ベオウルフと戦えて貴方は良かった?」
「ああ。勿論だ」
「そう。なら、ベオも満足して逝けたのね」
「本当は、君との戦いにベオウルフの【魔石】は使いたくなかった」
レンジのケルヌンノスを気遣った言葉を口にした途端、彼女は強い口調でそれを否定した。
「何故、使いたく無いの? 私を倒すためにベオを使うのは当然のことでしょう?」
「…。そうか、君も誰かを愛していても、【魔王】なんだよな。すまない、ケルヌンノス。僕の考えが軽率だった。」
「あら、なら、そろそろお喋りはお終い。殺し合いを再開しましょう」
ケルヌンノスはそう言うと再びその腕に【筺】を生み出しており、レンジ目掛けて生命の爆発を見せつける。
「生命よ、虚空に眠れ」
迫り来る肉塊の質量攻撃を前に、レンジは抜刀すると再びベオウルフの【権能】を発動し、それを防ごうとした。
「無明一刀流、結!」
無明一刀流、防御の型。
それはレンジが以前のベオウルフとの戦闘にて、ミリアや、他の人を助けるために生み出した守るための抜刀術である。
それと同時に、ベオウルフの【権能】による氷結能力を載せることで防御力を高めており、先程放たれた生命よ、虚空に眠れを防ぎ切っていた。
レンジはケルヌンノスの目の前でベオウルフの【権能】を使うことに負い目の様な物があった。だが、それを彼女が真っ向から否定したことで、レンジはそれを使用する覚悟を決め、再び放たれた生命よ、虚空に眠れを防ぐために再び同じ防御の型を見せる。
抜刀と同時に、漆黒の刃から巨大な氷が生み出され、生命よ、虚空に眠れの肉塊と打つかり合った瞬間、それは一瞬にして、氷漬けになった。
再び攻撃を防ぎ、次は自分がケルヌンノスへと刃を叩き込む番だと、レンジは考え、動き出そうとしたその時、凍ったはずの肉塊から音がした。
「なんだ?」
レンジが不思議がったその時、彼の目の前から氷漬けになっていたはずの肉塊が再起動し、目の前から鋭く尖った一撃が放たれた。
レンジはそれをギリギリのところで避けるも、徐々に肉塊全てが蠢き出すと氷漬けにされていたはずの生命よ、虚空に眠れの肉塊が溢れ出し、破壊の限りを尽くし始める。
レンジはそれを冷静に対処しながら避けるもケルヌンノスから距離を取ってしまい、彼女に視線を送るとその腕には既にもう一度、
生命よ、虚空に眠れを放つ準備を整え終えていた。
自分に向けた同情とも取れる感情、自分がベオウルフから向けられた唯一無二の感情を、レンジは向けた。
それにケルヌンノスは腹を立てた。
(その感情を、私に向けていいのはベオウルフ、ただ1人。それ以外の奴らが送るのであれば、私はそれを容赦無く否定する。誰がどうであってもベオ以外に私に慈悲なんて送らせてやるものか)
生命よ、虚空に眠れ、それを放つための肉塊には様々な魔物や魔獣の肉体を用いている。
そして、その肉体の特性は生命よ、虚空に眠れに載せることも可能であった。
先程放った肉塊は、全て冷気に耐性のある魔獣の肉体を詰め込んで物。故に、レンジの防御を真正面から破壊して、ぶち抜くとニンマリと微笑みを見せ、再び生物の拒絶反応を見せつける。
「生命よ、虚空に眠れ」
三度、肉塊は爆発し、レンジへと襲い掛かる。
レンジは三度目の生命よ、虚空に眠れに対して、【夜叉】の【魔力】を切り替え、フリードの雷撃を使って、攻撃に転じようとした。
黒刀・【夜叉】は【魔石】から2体の傑物の【権能】の【魔力】を引き抜いており、それを漆黒の刃に馴染ませている。
本来であれば、2つの【権能】を同時に交えて使うことを想定していたが、まだ、レンジはその操作に慣れておらず、鞘に納めている間、抜刀の刀を捻ることで【権能】の切り替えが可能となっていた。
刀を捻り、切り替えると黒き雷撃を纏いながら、レンジは踏み込むと同時に、その刃を鞘より、疾らせた。
「無明一刀流、雷!」
黒い雷撃が生命よ、虚空に眠れに向けて、ぶつけられ、"ドォォォン"という轟音を鳴り響かせる。
雷を纏うことで切れ味と速度を加速させており、その一撃は真っ向から生命よ、虚空に眠れを切り伏せるには十分。
である、はずであった。
肉塊を途中まで切り裂くも、徐々にその勢いを落とされ、最後にはその黒い雷撃を吸収される。
ケルヌンノスはレンジの二つの攻撃の特性を理解しており、前半には氷に耐性のある魔獣を、後半には雷に耐性のある魔獣を交えており、彼の刃が最後まで自分に届くことがない様に、万全を期していた。
(肉塊が尻尾の方になればなるほどに電撃に耐性があるかの様に効かなくなった?! もう一回、立て直すしかない。でも!)
レンジが前を向くとそこには既にケルヌスの腕には【筺】の準備が終えていた。
「レンジ、貴方は私に技を見せすぎた」
ケルヌンノスはそう呟くとその手には既にもう一度、その腕に握られた【筺】を地面に、躊躇なく落とす。
「生命よ、虚空に眠れ」
命ある物への侮辱は四度目の爆発を起こし、レンジは防御を取ろうとするも肉塊が彼の剣ごと、全てを飲み込み喰らい、レンジの肉体は肉塊に押し潰された。
その声を聞くまでは。
「レンジ、言ったろう? 俺はお前と【契約】した。一蓮托生だって。だから、お前に俺の【権能】を貸してやる。解き放て。俺の、いや、【魔王】の【権能】を」
何故か、ここにはいない筈のマーラの声が聞こえてきた。
そして、その声を頼りに、レンジは自らの思考を放棄する。
以前は、ミリアが倒れたことで、期せずしてその状態に陥ったが、今回は違う。
自ら、その領域に足を踏み入れ、肋屋レンジは更なる限界の向こうへと走り出す。
「無明一刀流、覇刃」
抜刀同時に纏うのは【第六天魔王マーラ】の【権能】。
大気を震わせ放たれるは不可視の刃の斬撃。
ケルヌンノスはその【魔力】を前にして、背筋がゾクリと凍った。
かつて、【魔王】として、それの前に立った以来、思い出す羽目となる死神の姿。
【第六天魔王、空絶のマーラ】の再来と重なり合ったから。
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