三十二話 おじさん、第五獣魔王に挑む⑩
ケルヌンノスは自身の宣言と共に、獣壱の魔戦へと命ずる。
迷宮の大地を踏み鳴らし、その矮小で小さな命、全てをすり潰せ、と。
その命が言い渡されると同時に、破壊された天井より、もう1人、その場に降り立つ者がいた。
彗星の如く現れたのは、サングラスで目元を隠した赤髪の青年、S級【冒険者】アルベール・ペンドラゴン。
彼はレンジとミリアの姿を確認すると彼らに向けて喋りかけた。
「ミリア、用事は済ませたのか?」
「ええ! 問題なく! 上の魔獣の処理、ありがとうございます」
ミリアはレンジと話をつけると言い、迷宮内を先行しており、彼女の背を守るために、アルベールは上階にいた魔獣の処理に当たっていた。
それが全て済んで、アルベールもまた、ミリアと合流しようと天井から降りて来たのであった。
そして、アルベールはミリアの近くにいたレンジに声をかけた。
「おじさん、俺はアンタは知らん。だけど、ミリアが信じてるなら俺もアンタを信用する」
「あ、ありがとう! えーと、アルベールさん?」
「アルベールでいい。アンタ、俺より年上だろ?」
「そ、そっか! なら、よろしくね!」
レンジは以前、彼が助けてくれたことに対して、感謝を述べたかったが、今はそれどころではないと考えを切り替えた。
迫り来る獣壱の魔戦に向けて、レンジ達は得物を構えた。
1人は【魔王】を殺し、弟子と共に歩むため。
1人は師を追い、その手を勝手に握るため。
1人は幼馴染をこの戦いから守り抜くため。
三者三様、覚悟をもって、獣壱の魔戦、いや、【第五獣魔王ケルヌンノス】へと挑む。
先ず初めに動いたのは、獣壱の魔戦、その一体である有翼の牡牛、魔牛であった。
それは他の魔物達よりも遥かに小さいが上空より、勢いを付けたまま、突進を放つとそれに対して、レンジが対処した。
【夜叉】を握りしめたまま、魔牛の突進に向けて、あえて、自らその足を踏み込むとそれを真っ向から切り伏せるために、鞘から刃を疾らせる。
「無明一刀流! 星!」
速度は以前とは比べ物にならないほどに早く、それでいて無駄に力が篭っていない。
脱力による緩急が生み出した必死の抜刀は【第六天魔王マーラ】を切り伏せた以来、完璧と称するに相応しい無明一刀流となる。
魔牛の横切り、レンジがほれ背後に上空に現れると鍔と鞘が重なる音と同時に、黒い雷が一閃した。
(何だろう。別に何かが変わった訳じゃない。でも、いつもより、体が軽い)
ミリアに勝手に掴まれた手、それに起因してるのかは分からない。
だが、今の肋屋レンジはかつて1人で全てを担った頃とは違い、自らの手を勝手に掴んで、離さないでくれるミリアという存在に救われた。
次の獲物に目を付け、レンジは上空に飛びながら、その面を蹴り上げると浮遊【スキル】も使わずに、迫り来る他の魔獣達に向かって動き出す。
アルベールはそんなレンジの姿を見て、呆気に取られた。
(浮遊【スキル】も使わずに空にある【魔力】の面を蹴り上げてる。あんなん出来るのS級にも1人くらいしかいないだろ。ミリアの師匠と聞いていたが想像以上に底が知れないな)
そんなアルベールを見て、自身の師が強者に評価されたことで、鼻が高くなったのか、ミリアは嬉しそうに声を上げる。
「ふふーん! あれが僕の師匠です! さぁ! アルベール! 僕達も行きますよ! 師匠に活躍を全て取られちゃいます!」
ミリアはそう言うと鞘を前に構え、彼女だけが扱える武器、黎明刀・【龍真星】の柄を握りしめた。
そして、獣壱の魔戦へ向かって、自ら突っ込んで行く。
自分よりも遥かに巨大な魔獣達に向かうミリアの姿はそれはあまりにも無謀に見えた。
だが、今の彼女は以前とは一線を画している。
S級【冒険者】達には、対【厄災】用にと渡される二つの特殊な兵装がある。
一つは決戦用礼装と呼ばれるモノ。
普段とは違った、青と白を基調にし、星と空をテーマにした華やかで涼やかな衣装、それはこそがミリアの決戦礼装である【星を継ぐ者】。
ミリアの【ユニークスキル】に合わせて作られた決戦用礼装は彼女が技を発動するタイミングでその真価を大いに発揮する。
「【光導拾弍式抜刀術】、雄牛!」
ミリアが放つのは直線上の敵を切り裂く一撃であり、抜刀と同時に【魔力】によって生み出される雄牛、それを【星を継ぐ者】が読み取るとその数を12倍にする。
生み出された【魔力】の雄牛達は、納刀と共に一斉に走り出し、獣壱の魔戦へと立ち向かうと巨大な魔獣達とぶつかる直前に、【魔力】の形が変貌を遂げ、それは星の輝きを見せた。
その星の輝きはS級【冒険者】達が渡される対【厄災】用兵装、そのもう一つ、【人器】によって起こされていた。
黎明刀・【龍真星】、ミリアの【人器】であり、彼女の【魔力】と交わることで、その性質を変化させる。
雄牛の抜刀に込められた【魔力】は一直線に放つことでその威力を無類の一撃とするという物。
それが【龍真星】によって変化すると星の輝きが一斉に撒き散らされ、夜空を裏返したような斬撃の雨が降り注ぐ。
「師匠! コイツらは、僕達が相手します! なので! 師匠はケルヌンノスを!」
レンジですら再現不可能な対軍用の斬撃雨が獣壱の魔戦へと襲い掛かり、傷をつけるも、傷跡から溢れ出た血より、彼らの部下である魔獣達がケルヌンノスの【権能】によって生まれ落ち、ミリアへと牙を向けた。
「【ユニークスキル】、【万理の王冠】、戴冠」
そんな魔獣達に対して、アルベールは【ユニークスキル】を起動し、頭上に浮かんだ冠を自らの頭に載せ、その手に握る得物の形を変えて、照準を定めた。
「電磁砲、装填」
以前とは違う形をした片刃の大剣は幾つもの発射口が取り付けられた電磁砲へと変化し、大量の魔獣達に向けて電撃を放つ。
魔獣達は一瞬にして焼き払われるとアルベールは今、自分が行うべき役割、ミリアの援護をすることを理解し、その手に握る【人器】、創造剣・【真理調律】へと【魔力】を込める。
レンジはそんな2人を見て、獣壱の魔戦とその他の魔獣達の相手を任せられると信頼し、ケルヌンノスがいる場所まで駆けた。
獣壱の魔戦の背後、その場に残っていた玉座の残骸に、【魔王】は足を組みながら座っており、そんな彼女の前に、レンジは姿を現した。
「彼らに私の軍を任せても大丈夫かしら?」
「ああ、問題ないさ。だって、彼らは僕とお前が思っているより、遥かに強いからね」
「あら、なら良かったわ」
そういうとケルヌンノスは立ち上がり、【権能】を使って槍を生み出す。そして、それを握り、レンジへ向けて投げつけた。
勢いよく放たれる槍をレンジは【夜叉】によって、弾くも次から絶え間なく槍の投擲が行われ、彼はそれを淡々と切り裂いた。
(ケルヌンノスの狙いは僕を間合いに入れさせないこと。なら、僕はなんとしても彼女を僕の間合いに入れる)
間合いを詰められれば、自分ではレンジに身体的に勝てることはないとケルヌンノスは【夜叉】に切られた際に、理解させられた。
それ故に、槍を使い、なんとしても間合いにレンジを入れないために牽制をした。だが、ほんの一瞬、彼らしか分からない隙が生まれることにレンジは気付く。
何本も同時に槍を生み出すために、1秒ほどの間があり、レンジはそれを見抜いた瞬間、無明一刀流を叩き込もうと地面を蹴り上げた。
レンジは一瞬にして、ケルヌンノスの目の前に現れると【夜叉】を抜こうとした。
「無明一刀流」
ケルヌンノス、彼女の腕に握られた物、それを目撃する前までは。
「やーい、騙された」
ケルヌンノスが見せた笑顔、それは無邪気でありながら奥に秘めたる狂気が押し出された悪戯な微笑み。
手に握られていたのは【筺】、地面に落としたはずの【権能】の塊が再び、手に握られており、ケルヌンノスはゆっくりとその言葉を呟いた。
「生命よ、虚空に眠れ」
【筺】を地面に落とすとその瞬間、レンジの目の前でそれは静かに爆ぜた。
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