三十話 おじさん、第五獣魔王に挑む⑧
レンジとマーラは着実に迷宮内を攻略して行き、彼らは最速でケルヌンノスの居る玉座の間の前まで来た。
最速での【魔王】の迷宮の踏破と呼べるほどの速度で、レンジとマーラは駆け抜けると彼らは辺りを見回し、ミリア達が居ないかを確認する。
「間に合った」
ミリア達が先に来た様子はなく、レンジは周りを見て一安心するも直ぐに思考を切り替え、【夜叉】を腰から手に取った。
「レンジ、俺はここまで殆ど戦って来たのはお前に【魔王】との戦いは全部任せるためだ。そこんとこ分かってるよな?」
マーラの言葉に対して、レンジは既に戦う準備を整えていたのか、短く答えた。
「ああ。僕もお前達を殺すためにここに立ってる。だから、安心しろ」
「いいねぇ、その眼。俺の大好きな眼だ! それじゃあ、行こうか! 【魔王】殺し! その第一歩を!」
その言葉を終え、レンジは【魔王】ケルヌンノスが居る玉座の間へと足を踏み入れようとする。
瞬間、扉が突如として破壊され、レンジの目の前には巨大な蝮の頭に角の生えた魔物、角蝮が彼らを飲み込もうと大きく口を広げていた。
「手荒い歓迎だなぁ! ケルヌンノス!!!!」
マーラは叫ぶもそれを前にして、レンジは動じることなく、ただ作業をする様に、手に握る得物を抜く。
「無明一刀流、流」
角蝮の大きく広げた口を縦に黒い雷が一閃する。
その刀身を見せることなく、鞘に納められると角蝮はレンジとマーラを避ける様に二つに分たれた。
"ドォォォン"と大きな音を立て、レンジ達の横には真っ二つになった角蝮の死体が転がっており、その姿を見たケルヌンノスは彼に向けて、喋りかけた。
「ベオが死んだ日。貴方がそのカーマとかいう女の近くにいた。ねぇ、名も知らない人間。貴方がベオを殺したのね?」
第一声、それは意外にも事実の確認。
自分にとっての最愛を、奪った者を知り、それを確実に殺すために必要な最も優先すべき行為であった。
「あぁ、彼は僕が殺したよ」
レンジはそれに素直に答えた。
ベオウルフという勇敢な戦士を、自分の手ではないとはいえ、その命に手をかけたのは事実であり、間違いがないと考えたから。
レンジの言葉を聞き、ケルヌンノスは自らベオウルフを殺した犯人を見つけるまでに課せていた殺しのブレーキを一気に振り解き、その眼に憎悪と憤怒を滲ませながら大声を上げた。
「そう。そうか、なら、お前を最初に殺してやる。お前を大切に思う人間が目を覆いたくなるほどに惨たらしく、凄惨に殺してやる!!!! 私は、【第五獣魔王ケルヌンノス】! この世界に君臨すべき、【魔王】である!!!! お前の名乗りは要らない。無名の剣士よ、ここで死ね! 嘆け、絶対魔獣戦線!」
両腕を前にして、その影より溢れ出る濁り切った生命の水から大量の魔獣が溢れ返り、一個の軍隊となってレンジへと襲い掛かる。
【権能】を躊躇いなく解放し、レンジという復讐相手を殺すために魔獣の軍隊は奔り出す。
その眼から窺える殺意を前に、レンジは、それよりも深く、研ぎ澄まされた殺意を向けるとケルヌンノスの軍隊へと自ら、足を踏み込んだ。
「無明一刀流、流」
ケルヌンノスの軍隊を目の前にして、【夜叉】を抜くとレンジは敵の背後に立っていた。
「は?」
既に得物は鞘に納まっており、ケルヌンノスは一連の動作を目で追えず、条件反射で思わず声を漏らす。
納刀時の鞘と鍔が重なり合う音が遅れて鳴り響くとそこから刃が纏った黒き雷が疾り出し、一斉に魔獣達の首が跳ね飛んだ。
レンジは自分に殺意を向け、殺そうとするケルヌンノスへと自分の名を、あえて名乗られねばと彼女に殺気の籠った目を向けながら、声を上げた。
「僕の名前は、肋屋レンジ。【勇者王ベオウルフ】を殺したしがない剣士だ。そして、お前達、【魔王】を殺す者だ」
そう言うとレンジの肉体は黒い稲妻が幾つも走っており、以前とは比べ物にならない殺気に満ち溢れていた。
(何だ?! あの速度は! 人が出せる様な物ではない! 何が原因だ? 何が? いや、アレだ。あの異様な【魔力】を帯たあの得物。アレのせいか!)
ケルヌンノスが目をつけたレンジの新たな刃、黒刀・【夜叉】。
それは鍛治士マウラが生み出した真打と呼ばれる逸品であり、何千の【魔石】を砕いて合わせることで完成する黒鉄を丁寧に研いで生み出されている。
漆黒の刃は【魔力】によって絶対に折れない様になっており、それから発される黒き雷鳴纏し剣士は鬼神が如き力を見せつけると、それに【魔王】は気圧された。
【魔王】をも畏れを抱くほどの殺気。
それに当てられたことで、ケルヌンノスは久しく感じていなかった恐怖を思い出した。
ベオウルフ、彼と初めて対峙した時にだけ感じた身震いする様な恐怖、自分だけがそれを生きたまま感じ取れた唯一の存在。
それを何故か汚された様にケルヌンノスは感じた。
「ふざけるなぁ、それはベオだけなんだよ。許されるのは!」
怒りに身を任せ、それを打ち消そうとケルヌンノスは両腕を合わせると彼女の腕には骨と肉で作られた槍が握られていた。
「魔獣の槍!」
ケルヌンノスは骨や肉が継ぎ接ぎにくっ付き生まれた歪な槍を勢いよく、レンジへと投げつけるとその怒りをぶつけた。
だが、その冷静さの欠けた行動はレンジにとっては最も大きな弱点であり、それを突くように【夜叉】を前にした。
「無明一刀流、烏」
黒い刃は一閃し、魔獣の槍は縦に分たれるとレンジは続け様に、ケルヌンノスに目掛けて走り出す。
ケルヌンノスは迫るレンジに対して、魔獣を飛ばすもそれを彼は全て抜刀術で切り裂き、一瞬にして、彼女の間合いに入り込んだ。
「無明一刀流、雷!」
ケルヌンノスの目の前で、レンジは【夜叉】を構えた。
その刹那、ケルヌンノスはいつの間にかもう片方の手に生み出していた魔獣の槍が握られており、それから突きを放った。
ケルヌンノス、彼女は狩人の動きをよく理解していた。彼らは皆、冷静さを欠けさせた瞬間に、その穴を突いて来る、その事を全て知っていたからこそ、ケルヌンノスはあえて、レンジの挑発に乗って、怒りに身を任せるフリをした。
狩人が乗って来ると確信して。
レンジに迫る魔獣の槍、それは間違いなく彼を死に至らしめる軌道であり、不可避のカウンターであった。
だが、そんな事で今のレンジは止まらない。
【夜叉】には、【第六天魔王】マーラから教えられた特殊な【魔石】の加工が施されており、それは【魔石】に込められた【権能】を抜き出すという物であった。
レンジが所持している【権能】、それを含んでいる【魔石】は一つ。
かつて、【第六天魔王、空絶のマーラ】に仕えし、彼女が認める最強の一体であり、レンジが唯一、魔族で尊敬し、友と呼んだ者。
豪雷を手繰る【侮蔑のフリード】の【魔石】。
レンジの抜刀術と漆黒の刃、そして、フリードの雷、それらが全て交わった瞬間、【無明一刀流】は黒い火花を散らす。
黒い火花が咲き誇る時、ケルヌンノスは直感で体を槍による防御を取った。
目の前を疾る雷撃は首と体を傷つける。
それをケルヌンノスは頭で理解するとギリギリで体を動かし、なんとか直撃を免れようと足掻く。
【魔王】である自分が防御を取らざる得ないという行為自体に怒りが湧くが、それを行わなければ、殺そうとした相手に殺される。
その本末転倒な結果をなんと回避するために、ケルヌンノスは体を動かすもレンジが背後に現れたのをその目で確認し、思わず、声を漏らした。
「肋屋!!!!」
その声がレンジに届くよりも速く黒き雷撃はてバチバチと音を立て、ケルヌンノスの肉体と槍を切り裂く。
その切り跡からは血が流れており、ケルヌンノスは避けたにも関わらず、攻撃が当たったという事実だけが明らかになった。
それと同時に、その切り跡が再生しないことに気付き、背後にいるレンジ目掛けて、再び口を開く。
「レンジィィィィィ!!!! お前は、お前だけは! 私の手で! 殺す!!!!」
感情を露わにしないケルヌンノスからはあり得ざるほどの怒りと剥き出しの殺意を見せると彼女は背後にいるレンジを遠ざけようとその地面より、大量の魔獣達が飛び出させた。
襲い掛かる魔獣達を一瞬で片付けるもケルヌンノスの手には既に小さな箱が握られており、それを前にして、彼女はこの世界と肋屋レンジという人間に憎悪を向けながら声を上げた。
「開、【獣】!!!!」
追い詰められた【魔王】の底力、レンジだけが知っている【魔王】という生き物の真の脅威、その真奥。
ケルヌンノスは今、【筺】の中身を解放する。
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