三話 おじさん、弟子と再会する
「結構大切にしてたんだけどなぁ」
年季の入ったロードバイクが見るも無惨な形となっていたのを発見し、レンジはため息を吐いた。魔王と落ちた先は、泥と瓦礫の小迷宮。それでも、彼は自分の部屋から溢れ落ちた荷物を黙々と拾い集め始めた。
「それにしても、まさか部屋ごと迷宮化とは」
「お前らしいな、レンジ」
「不運なところがとか言いたいのかい? 全く相変わらず容赦ないね」
そんなやりとりをしつつ、マーラも同時に、自身の武器である【波旬】を探し、レンジと共に歩き回り始める。
「質問答えるって言ったよな。とりあえず、先ずは、何でお前は復活したんだい? マーラ」
地面を掘りながら、泥だけになるも、レンジは気にせずに作業を続けるとその問いにマーラは答える。
「お前に殺される前に、俺の魂が復活できる様、お前の肉体に潜る【魔術】を使った」
「はぁ?! お前?! 僕の体に何しようとしたんだ?!」
「変な妄想すんなよ。俺はただ、お前と殺し合いたかっただけだ」
マーラはそういうと【波旬】の気配を追って軽やかに跳ね、分かれた黒髪が、サラサラと揺れた。
かつて、第六天魔王と呼ばれたマーラは誰も寄せ付けない美貌とスラリとした肉体を兼ね備えた絶対的強者であった。
だが、今のマーラは、あどけない少女となっていた。背丈はかつてよりも遥かに縮み、彼女が魔王であることなど、誰に言っても信じられない程。
チョンチョンと移動して、動き回る姿は可憐な美少女という言葉がよく似合っていた。
「何だ、その目は」
「いや、昔とのギャップがすごいなって思って」
「殺すぞ」
「そういう口調は懐かしいね」
悪態を吐きながらマーラが見せる笑顔に、レンジは彼女から視線を逸らそうと背を向ける。
今の彼女が魅せる笑顔は、真っ直ぐで太陽の様な光があり、敵対者であることを忘れそうになる。だからこそ、地面にワザと視線を逸らしたその時、レンジは地面に落ちていた【魔石】を拾い上げた。
「ようやく見つけた」
レンジが赤と黒が混ざり合う、美しい【魔石】を手に取るとそれをマーラは目にしするとキョトンとした表情を浮かべた。
「それ、【侮蔑のフリード】の【魔石】か?」
「そうだよ」
「【魔石】となっても、その【魔力】とは、恐れいるな」
「はは、そうだね。まぁ、彼の力強さを思えば、コレくらいは」
レンジは手に持つ【魔石】をポケットにしまうと、再びもう一つの大切な物を探し始めた。
少し飽きてきていたのかマーラは、黙々と作業を続けるレンジに喋りかけた。
「なぁ、レンジ、俺からも質問させろ」
「僕もまだ質問終わってないんだけど。まぁ、いいよ。答えれる範囲は答える」
「何で、お前はフリードの【魔石】を取っている? ソイツは敵だったんだぞ? お前を殺す直前まで追い込んだ存在だったはずだ。そんなにも大切な物なのか?」
マーラの問いにレンジは手を動かしながら考えた。侮蔑のフリード、かつての自身がくだした修羅に対して、レンジが思ったことは一つ。
「敵ながら尊敬してるから、かな。敵であれど、僕を友と認めてくれて、全力で打つかり合えた。だから、フリードの【魔石】は僕にとっての勲章みたいな物だ」
その答えに納得がいかなかったのか、マーラは突然、レンジの肩を小さな拳で小突いた。
「何すんだい?!」
レンジは唐突な攻撃に驚きを見せるも、マーラは彼に不満を漏らした。
「傲慢だな」
「えぇ、急に感じ悪いな」
「当たり前だ。俺達は負けたら価値なんて無いと決めつけられてきた者達だぞ? 負けたらそこまでだ。共に生きたいと思うのであれば、【魔石】を大切にするのではなく、武器にでも加工しろ。フリードからしたら、負けて尚、大切にされるなど、侮辱の極みだな。ん、ようやく、見つけた」
そんなやりとりをしていると、突然、マーラは足を止め、その下に手を向ける。
「来い、【波旬】」
マーラが命じると主人の名に応え、紅の刃を持つ片刃剣、【波旬】が地面より飛び出して来た。
「俺の手を煩わせるなよ、【波旬】よ」
空に浮く【波旬】に、マーラは喋りかけていると、レンジもようやくもう一つの探し物を見つけて、それに取り出した。
「傷はついたけど、壊れてなくてよかった」
レンジが安堵の声を漏らしていると、彼が何を大切にしているのか気になり、マーラは彼が手に握っている物を覗いてきた。
そこには少し若い頃のレンジと、水色の髪をポニーテールにしてまとめていた少女が恥ずかしそうにピースをしている姿の映った写真が入れられていた写真立てがあった。
「ほう? それは誰だ? 嫁か?」
「うお?! 急に見るなよ。こんな幼い子、嫁さんにしたら僕は犯罪者だよ、【魔王】様は常識がないのかい、全く」
マーラに覗かれたことで、肩をびくりと揺らし、驚くとレンジはその写真立てを隠す。
「誰だと聞いてるんだ。答えろ」
「急に圧が強いな。まぁ、別に隠すほどでは無いからいいか。僕の弟子だよ」
少し恥ずかしそうに語るレンジに対して、マーラは目を丸くして驚きを見せた。
「お、お前、弟子なんか取っていたのか?!」
「何?! その言い草は! 20年も経てば弟子の1人くらい取るさ! まぁ、今は、有名人になっちゃってね。僕のことなんて忘れちゃってんじゃ無いかな」
そういうと写真立てを取り出し、そこに映る少女、かつての星空ミリアへと目を向ける。
今は配信者として、天上の人となってしまったが、それでも弟子は弟子であり、今でも彼女が心配になることが多々あった。
「まぁ、もう二度と会えることのない、可愛い弟子さ。よし、それじゃあ、地上に戻ろう」
「もう良いのか?」
「ほら、僕ってほぼ趣味とかなかったから。ラッキーなことに【スマホ】とカメラは手元にあったし、身分は確保出来る最低限のものは持ってるから」
レンジは自分の持ち物を確認し、立ち上がる。いざ、出発しようとしたその時、レンジはとあることに気付いた。
「とは言ったけど、これどうやって上がるんだ? 迷宮って言ってたけど、コレただの穴だよな? 上がるの? コレ?」
最悪の未来が過り、レンジは思わずため息をついてしまった。覚悟を決めようと断崖絶壁となった壁に手をつけようとしたその時、マーラはその横で空に浮いた。
レンジが壁に張り付いた光景を眺めながら、マーラは目を細めながら、彼に問いかけた。
「何やってんだ? レンジ。上に上がるなら俺の【権能】を使えば良いだろう」
その言葉を聞き、レンジは張り付くのをやめて、大きく深呼吸をする。
「僕も浮かせられるのか?」
「当たり前だろう。俺はお前と【魔王】を殺すんだからな。そのために協力は惜しまないつもりだよ」
言い終えると同時に、マーラは【波旬】とレンジを浮かして、迷宮を駆け登った。
3分ほどで地上に戻ると、辺りは既に夜が更けていた。
レンジは他の人が巻き込まれていないかを確認するために、見渡すと自分の住んでいたアパートの一階の部屋だけが削げ落ちていることに気付き、思わず声を上げた。
「懇切丁寧に僕の部屋だけ迷宮にしたのかい?!」
一方のマーラは、それを見て、至って冷静に反応した。
「アイツらも迷宮を作るのには費用が掛かるからな。今回は小規模で済ませたんだろう」
「こんなに特定だけを狙い撃ちって出来るものなの?」
「出来るぞ。【魔王】だからな」
「【魔王】だからかー。なら、仕方ないな」
ある程度の理不尽に諦めがついたのか、レンジはそれを軽く流すことにした。
夜の暗闇が広がる中、レンジは今日の寝床はどうすか、そんな考えを過らせた、らその時、夜空の暗闇の中を裂く流星の様な輝きを目の当たりにする。
そして、それが放つ闘気の正体を、レンジは知っていた。
「どうして、ここに」
レンジの動揺が混じった呟きにマーラは不思議そうに頭にハテナマークを浮かべると、彼に話しかけた。
「レンジ? 知り合いか?」
「知り合いも何も、さっき話した、ミリアだ」
「? お前の弟子ってやつか? なら、そんなビビることじゃないだろう?」
マーラとの会話を交えているといつの間にか、瞬く間に、彼女はレンジ達へと距離を詰めていた。
水色の髪と今日配信していた動画と同等の短いパンツに、オーバーサイズの上着を羽織った星空ミリアは、刀を腰に差したまま、ニコリと微笑んだ。
「師匠、お久しぶりです」
「あ、その、ひ、久しいね、ミリア」
レンジはぎこちなく挨拶をすると、それを聞き、師に向けて丁寧にお辞儀をして、ミリアは微笑んだまま口を開く。
「単刀直入に聞きます。誰ですか、その女」
「その女」と口にした瞬間、微笑んだ表情から発せられてはいけない、殺気がレンジ達に向けられる。
弟子であり、今を駆けるトップ配信者である星空ミリア、彼女の突然の来訪とその理由は?
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