二十九話 おじさん、第五獣魔王に挑む⑦
ミリア達が【配信】を始める20分前。
レンジとマーラは彼女達よりも早く【渋谷】へと挑んでいた。
レンジの目的はミリアが戦うよりも前に、ケルヌンノスを倒すこと。
「カーマ! 本当にお前が居れば、ケルヌンノスはお前だけを狙ってくれるんだよな?」
レンジは迷宮の中を走りながらマーラに尋ねた。
「そうだな。アイツらは俺の魂を狙ってる。俺の魂の形をぼんやりと感知してるから、それを頼りに迷宮を顕現してくるって寸法よ」
「そういえば、カーマの魂が狙われている理由って何だ? そこら辺、聞いてなかったよな」
レンジに何故、魂が必要なのかを尋ねるとマーラは一瞬、目を泳がしたが、突然、その場に足を止めた。
「あー、それは今度で良いか? 優先的に話しておきたいことが出来た。レンジ、良い情報と悪い情報二つあるけどどっちから聞く?」
「良い方から聞かせてくれ。何となく想像ついたけど」
「なら、良い方から発表するぞ。そろそろ【魔王】の迷宮が顕現する」
レンジはその言葉を聞き、腰に差していた黒刀・【夜叉】の鞘を握りしめる。
「悪い方は今のケルヌンノスは来るもの拒まずだ」
「? というと?」
「誰でも【魔王】の迷宮に挑ませる。つまり、ミリア達も関係なく飲み込む」
「…マジか?」
「大マジ」
その言葉が終えた瞬間、彼らの地面が裂けた。
ケルヌンノスが誘うのはマーラなどではない。
今の彼女が欲しているのはこの世界の人類の生命のみ。
来るもの拒まず。
去るもの全ての命を捨てよ。
「カーマ! 着地任せた!」
「あいあい、まぁ、任せろや」
レンジとマーラは地面に飲み込まれると【魔王】の迷宮へと再び足を踏み入れるのであった。
ドローン型カメラはそれを映し、【配信】するとそれらをWAA【東響】本部理事長室より、徳茂は巨大なテレビからその様子を眺めていた。
「私のエンタメに水を刺す奴らがいるとはねぇー。肋屋ch? レンジ? あー、アイツらか! 星の子の師匠とかいう奴。【魔王】を呼び寄せたと思ったのは偶然かと思ってたが、よく見たら、このカーマってのは、マーラじゃねえか? あはは!!!! こんなところに居たとはな! なるほど、そういう事ね! まさかの、協力者を見つけるなんてな! しかも、よりによってその協力者がミリアの師匠とは! これはこれで感動が生まれるじゃあないか! 師匠の死、それによるミリアの覚醒! マーラはまぁ、一旦置いとくか。私は別にアイツには興味ないからな。正直、これは一番燃えるのでは?! 既にワクワクが止まらないな~!」
そんなことを言っている最中に、レンジ達は【魔王】の迷宮へと無事、足を踏み入れるとすぐに探索を始めた。
ケルヌンノスを倒すのもそうだが、【魔王】の根城である迷宮を探索する必要もある。
「マーラ! 敵来るぞ! 準備しろ!」
「出来てるよ! レンジ!」
敵地へと飛び込むことでもあり、レンジ達を見つけた獣人の魔物達は一斉にその手に握る得物を振り回しながら、彼らに襲い掛かった。
レンジは目の前に迫り来る魔物を倒そうと【夜叉】を構えたが、それをマーラは止めると彼女は新たな得物を取り出した。
「レンジ~、それはまだ、取っておけ。切り札は最後まで見せないのが良いだろう? だから、ここは俺の番! 御笑覧あれ! 俺の新たな力と武器を!」
マーラはそういうと真っ赤な刀身が彼女の身長ほどある刀の刃先をそれらに向けた。
「行くぜ、【我射髑髏】」
マーラは自身の一番使い熟せる得物を封印しながら戦っている。
六道輪剣・【波旬】、レンジの家に置き物にされていた片刃の大剣であり、それはマーラだけが操作が可能な、彼女の持つ【権能】を最も活かすことが出来る大業物。
ただ、それに【権能】を使えば直ぐにでも自身が【魔王】であることがバレてしまうため、自分の力が戻るまではそれを隠して置こうとした。
しかし、ケルヌンノスとの交戦時に【波旬】を隠したままの戦闘に限界を感じていた。
隠し通しながら戦うには無理があり、マーラは【波旬】ではない、もう一つの得物を手にする事を決めた。
そして、生み出されたのが妖刀・【我射髑髏】。マーラが鍛治士マウラに徹夜で作らせた彼女専用の刀である。
「覇刃!」
紅の刃には【権能】から空気を纏わせ、振るうとそれは一気に斬撃となり放たれた。斬撃は獣人達の鎧ごと綺麗に真っ二つにし、マーラは嬉しそうにその断面を眺めた。
(うんうん~! 気持ち良いくらいの断面だ! マウラに無理言って作らせたけど、本当にいい腕だな! 俺がもし復活したあかつきにはアイツだけは生かしてやろう! これほどの武器を作れる人間、この世にはいないだろうし)
マーラはそんな考えをしているとその隙を突いて、獣人の1体が槍で彼女の体を貫こうと突きを放つ。
槍先はマーラの体にぶつかろうとした直前、その刃先が突然、何かにぶつけられ、切り落とされた。
同時に、槍先が徐々に削られていくとその領域に入り込んだ獣人の体は高速回転する不可視の刃に切り刻まれる。
マーラの周囲を旋回するのは【権能】により、その姿を隠された【波旬】。
マーラから全自動防御の命を受けており、その姿を隠したまま、間合いに入り込んだ物を容赦無く切り刻むプログラムを施された【波旬】は意気揚々と敵を刻んだ。
攻防共に隙の無い【魔王】は、力を失った状態でもその卓越した潜在能力によって、力による蹂躙を成す。
「あははは!!!! ほら! 頑張れ! 頑張れ!」
マーラは襲い来る獣人を容赦無く、無情に切り刻み、その度に嬉しそうに笑顔を溢す。
以前、ケルヌンノスの迷宮に足を踏み入れた際、マーラはベオウルフの隙を突き、彼を倒すことに貢献したが、自分の活躍に納得いっていなかった。
【魔王】である自分が活躍を出来ず、撤退を余儀なくされたことが彼女にとって、屈辱的で許し難い事実であった。
その屈辱を晴らすように獣人達へとぶつけ、マーラは自分の【魔王】としての威厳を取り戻そうと奔走する。
「一気に仕留めんぞ!!!! 覇爪!」
空気を纏う刃の一突きによって、獣人達の心臓を一気に貫く。
「覇九斗!」
地面に向けて、【我射髑髏】を地面に突き刺すと9つの刃が現れ、それらが迫り来る獣人の体を縦に裂いた。
「まだ! まだだ!!!! もっと!!!! もっと寄越せよ!!!!」
過激なまでの攻撃、蹂躙とも呼べる光景を目の当たりにしたレンジは彼女がかつて自分を追い詰め、人類を追い詰めた【魔王】である事を再認識させられた。
(やっぱり、マーラ、お前は僕と和解出来ないな。でも、安心したよ。その隠す事ない残忍さも、容赦の無さも昔のまま。これなら僕はお前のことを何の感情もなく殺せる)
マーラは全てを終え、返り血ひとつも浴びずにレンジのいる方向を振り向きながら笑顔を見せた。
「進もうぜ! レンジ!」
太陽に照らされた様な明るい笑顔の背後には獣人達の死体が転がっており、異様とも見える絵を前にしても、レンジはあいも変わらない返事をする。
「ああ、行こう。ミリア達よりも早く、【魔王】を殺そう」
彼らは互いに分かり合おうとは思わない。
信頼をしても、信用しようとも最後には必ずその刃を交え、殺し合う。
それが2人の運命故に。
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