二十八話 おじさん、第五獣魔王に挑む⑥
「開、【◾️】」
ケルヌンノスは呟いた。
その一言を。
そして、その言葉と共に決着も着いた。
ケルヌンノスの腕に生み出されたのは小さな箱。
それを地面に落とした瞬間、箱は開かれるとその中から、ドス黒い水が溢れ出した。
ケルヌンノスの肉体から流れた生命の水とは違い、更に原初的な物。
【権能】の根源。
ケルヌンノスの持つ【権能】の最も濁った起源が収納された混濁の泥である。
そして、泥より出でるのは【権能】の最も濃い部分を請け負った11の魔獣。
それこそがケルヌンノスの【権能】、絶対魔獣戦線の最大解放。
11の魔獣の軍隊の名、それは
「獣壱の魔戦」
ケルヌンノスの命に従い、11の怪物達が精鋭部隊を喰らう。
浮遊する者達を一心不乱に食い散らかすため、巨大な口を開き、彼らは彼女らに襲いかかる。
抵抗はした。
剣を怪物顔と思われる部位にその刃を打つけ、ハンマーでその体の骨を砕こうと振り回す。
銃で肉を抉り、槍で貫こうと突き刺すと【魔導】戦艦も同様に彼らを助けるために、防御壁を解いて、砲撃を放つ。
だが、それらを気にすることもなく、理不尽が覆い被さり、一切合切を蹂躙した。
巨大な口を開く鯨のような怪物ら【魔導】戦艦一つを防御壁ごと飲み込むと空を飛ぶ雄牛が現れ、それは精鋭部隊の数人から一瞬にして、命を奪い去った。
阿鼻叫喚は広がりながら、その地獄を生み出したケルヌンノスはただ1人、笑っていた。
「あははははははははは!!!!!!!!」
人の命が奪われる様を眺めながら、それを嘲笑う様に、馬鹿にするように笑い続ける。
【魔王】とは、理解出来ない絶対存在。
それは覆られない事実であり、紛う事なき、現実である。
1隻の【魔導】戦艦は仲間達を見捨て、その場から立ち去ろうとするがそれ向かって巨大な竜が噛み付き、砕く。
【魔導】戦艦の防御壁を砕き、船員達が地面に向かって落ちるところを放たれていた魔獣達が一斉に彼らへとその牙を突き立てた。
悲鳴も嘆きも誰にもその声は届かずに、ただ、命の炎が淡々と消えて行く。
最後の一噛みで【魔導】戦艦の4隻全てが破壊され、その最悪の光景と押し寄せる絶望だけがWAAが向けていたカメラから【配信】される。
そんな様子を画面越しで眺めながら、徳茂、いや、【第一幻魔王ゲーテ】はワインを片手に楽しんでいた。
「Bravo!!!! Bravo!!!! 人類よ、君達は【魔王】の奥の手、【筺】を彼らは引き出した!!!! 人間の身で! 君達は誇れ!!!! 私は大いに賛美しよう!!!! 人類よ! 君達は強く! 美しい!!!! さぁ、A国がここまでねエンタメを提供してくれたんだ。私も最高のエンタメ、超弩級の一幕を彼らに届けなくてはね! 期待してるよ、【星の子】と【万理の王】」
ゲーテは拍手を立てるとWAAの行った【配信】は終了の文字が流れた。
【魔王】とA国の戦いは人類に絶望を与える結果となり、幕を閉じるのであった。
***
ケルヌンノスの終末宣言まで残り1日。
WAA【東響】本部にて、S級【冒険家】星空ミリアとアルベール・ペドラゴンはケルヌンノスという【魔王】と対峙するための装備を整え終えていた。
(師匠と連絡取れない。僕は失望されてしまったのでしょうか。あの時、もっとちゃんと防げていれば師匠と共に立てたのに不甲斐ないばかりだ。こうやって、僕が弱いせいで師匠に心配をかけてしまう)
ミリアは師であるレンジが目を覚ましたとの連絡を受け、見に行くと彼は既に退院を済ませており、探したが何処にもいなかったため連絡をした。
しかし、彼との連絡は着かず、自分が今からケルヌンノスと決戦があり、そのことを伝えられないのが気掛かりであった。
「ミリアさん! 【人器】の方、準備完了しました!」
「今行きます!」
ミリアはレンジのことを考えながら、普段とは違う衣装に着替えると自身の身なりを整えた。
青と白を基調にし、金の装飾が胸元や腰に散っており、袖と裾は夜空のようにグラデーションがかかっている。
星と空をテーマにした華やかで涼やかな衣装に身を包むと彼女はベオウルフとの戦いを思い返した。
装備は確かに完全な物では無かった。
いつも通りの格好で、いつも通りの武器を使って負けた。
【勇者王ベオウルフ】、間違いなく自分が見た中でも最も苛烈で、過激な力を持った敵であり、それを前にして、最後まで立てなかった自分にミリアは心底、嫌悪感を抱いた。
師であるレンジを助けるための行動を取らざる得なかった弱い自分。
ベオウルフの一撃を受けるのは不可能と思ってしまった自分。
「全部、僕の準備不足が招いた結果」
そう呟くとミリアは厳重に管理されている箱の目の前に立つとそれの上に手を翳した。
「S級【冒険者】星空ミリアの名の下に【人器】、黎明刀・【龍真星】の封印を解除します」
その言葉に合わせて箱の鍵のロックが解除され、プシューと音を立てながら蓋が開いた。
そこには金と蒼が入り混じった美しい鞘に収まった一振りの刀があり、ミリアはそれを腰に差すと目的の場所へと足を運んだ。
迎うのは【地下都市迷宮渋谷】の入り口。
既に、待っていたアルベールはスマホで何かを眺めており、ミリアはそんな彼に喋りかけた。
「アルベール、あなたは普段通り何ですね」
「ん? ああ、まぁ、そうだな。それよりもミリアはこれ見ろよ。これ、お前の師匠とか言ってた奴だよな?」
スマホの画面をアルベールはミリアに見せるとそこにはレンジとマーラの姿がおり、彼らが動画を【配信】を始めたところであった。
「おうおう! 視聴者共~、聞いてるか~! これより、肋屋chが最高のエンタメをお届けしてやるぞー!!!! 今日行うのは巷で噂の【魔王】殺してみた!!!! だ!!!!」
マーラのそう言う笑顔をみて、ミリアの表情は固まった。
「ど、どういうことですか?! アルベール?!」
「どうもこうも別に【魔王】殺しの【配信】は誰にも止められてないからな」
「それはそうですけど?! いや、この【配信】何時ごろから始まっているのですか?!」
「ちょうど30分前くらいだ」
ミリアは師であるレンジと宿敵マーラの動きに目を回すも取り敢えず、切り替えようとアルベールに声を上げた。
「僕達も【配信】始めますよ! 師匠に追いつかないと!」
「ミリア、落ち着けよ。俺達が何もしなくてももう【魔王】はすぐにやってくる」
「どういうことですか?」
「何もしなくても来るもの拒まずって意味だ。とりあえず、来るぞ【魔王】ってのがな」
アルベールがそう言った瞬間、視界が揺れ始めると彼とミリアを飲み込むように地面が裂けた。
「アルベール! カメラは起動してます!?」
「落下しながら起動した。ミリア、【配信】の挨拶、お前は大切だろう?」
アルベールが起動したカメラ型ドローンに向けて、ミリアは大きく深呼吸をして、思考を一瞬にして切り替えると視聴者に向けて、挨拶をする。
「はーい! 流星の皆! おはこんばんわ~! 星空ミリアの配信にようこそ~! 今日の配信はS級【冒険者】アルベールさんと【魔王】討伐向けて、【渋谷】に潜って行きます!」
ミリアが負傷してから初めての【配信】であったためか、同接数は鰻登りで上がっていくとコメント欄も彼女を待ち望んでいた声で一杯となった。
『ミリアー!!!! よかった! 生きててよかった!!!!』
『おはこんばんわ~!!!! 生きてた!!!!』
『本当に本当に生きててよかった。なんか連絡くらいはしろよな!』
『流星からのプレゼント』
『ミリア、結婚しよう』
『ミリア様ーーーー!!!! 頑張って!!!!!』
WAAが誇る最大戦力であるS級【冒険者】2人を投入した【魔王】討伐戦。
その火蓋が今、切って下される。
また、その先を走るレンジ達、彼らの【魔王】殺しも同様に、幕が上がる。
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