二十七話 おじさん、第五獣魔王に挑む⑤
25年前。
迷宮が顕現して2日後。
大国A国は自国の軍隊を用いて【第六天魔王マーラ】へと挑んだ。
凡ゆる兵器、武器、当時、武力と呼べるもの全てを用いて、挑んだ結果は、惨敗という言葉すらも合わないほどの大敗であった。
【第六天魔王マーラ】には、鉛玉は効かず、砲弾は切り裂かれ、最強と称された戦艦、空母、それら全てが一つも残らずに破壊された。
その敗北より、A国は【魔王】から手を引き、迷宮に対して、独自の研究をし続けた。
そして、そのいつか果たさんとしたリベンジマッチの機会、それが訪れ、今持てる最高の戦力を持って、【第五獣魔王ケルヌンノス】へと挑んでいた。
4隻の【魔導】戦艦から放たれる魔弾の絨毯攻撃。
それらは【魔力】を用いた浮遊を使いながらも一切、ブレることはなく、ケルヌンノスに対して、魔弾の雨が降り注いだ。
一方、ケルヌンノスはその砲撃を全て自身の肉体より生まれる魔獣達に食わせていた。
(煽ったのは良いものの、面白い技術ね。【魔力】の属性も流れも理解していないのに、それらを全て無理矢理ねじ込み原理も分からないまま一種の術式を生み出してる。私の生み出す魔獣ですらその特異性に胃もたれしてる)
戦艦は大量の砲撃から上がった煙によって、視界が遮られると攻撃を停止して、ケルヌンノスが今、どうなっているかの出方を伺った。
「穿て、魔獣の顎」
攻撃が止んだ瞬間、煙の向こうにいるケルヌンノスは片腕を掲げた影より、7つの蛇を解き放つとそれらは勢いよく【魔導】戦艦へと襲い掛かる。
素早い攻撃に対して、【魔導】戦艦は【魔力】によって生み出した防御壁を展開するとそれと魔獣の顎はぶつかり合う。
A国の用いている防御壁、それは砲撃に用いていた魔弾同様に原理不明でありながらも【魔力】を何重にも込めて完成された術式で作られており、ケルヌンノスの攻撃を抑えると逆に弾き返した。
「へぇ、やるじゃん」
ケルヌンノスは少しだけ【魔導】戦艦との戦いが楽しくなって来たのか、彼らと遊んでやろうと両腕を前にした。
「戦争なら、戦争らしくやろう。私もそれが一番だから」
前にした両腕の影より、溢れ出るのはドス黒く濁った生命の水、そこから魔獣が一瞬にして溢れかえるとそれらが【魔導】戦艦に向けて放たれる。
「魔獣行進」
姿形が違う魔獣達は【魔王】の命に従って、四つ【魔導】戦艦目掛けて突進を始める。連携が取れる様な知は無いが、唯一無二の【魔王】の命にただひたすらに従うために、魔獣達は一心不乱に走り出す。
浮遊する【魔導】戦艦目掛けて、魔獣達は、攻撃を放つもそれらは防御壁の分厚い装甲を砕くとは出来ず、ただひたすらにその命を消費した。
何十、何百、何千、何万と重なる死体の山から、その肉を、骨を、全て再利用し、別の形を為して襲い掛からせる様は正しく、生命への侮辱であり、最悪の一言で片付けられるほどに邪悪で醜悪。
人では考えられない思考と生命を尊ばない最悪の【魔王】が見せるのは魔獣をひたすら召喚し続ける物量攻撃。
ケルヌンノスの肉体から溢れる数多の生命は収まることを知らないが、【魔導】戦艦の防御壁、その壁を破るには至らない。
だが、四つの【魔導】戦艦、それもまた同じ。
ケルヌンノスの放つ魔獣の物量攻撃を前にして、防御壁の展開中は魔弾での攻撃が出来ないために、彼女を殺すための手段がない。
だからこそ、【魔導】戦艦は、人類はもう一つの手を打つ。
「対【魔王】討伐特殊部隊【Satan】! αチーム! βチーム! γチーム! 出撃する!」
人類は迷宮から三つの祝福が齎されている。
一つ目、【魔石】と呼ばれる現代のエネルギー問題を解決しうるとされる、【魔力】を持った石。
二つ目、ステータスと呼ばれる身体能力、および、その人間が持つパラメーターの可視化。
三つ目、【魔力】によって生み出すことが可能となった【スキル】と呼ばれる【魔力】によって生み出される超常現象。
そして、それら全てを費やして生み出された対【魔王】討伐特殊部隊、通称【Satan】。迷宮が齎した物を持って、【魔王】を殺そうとするA国が持つ最大の切り札。
【魔導】戦艦が【魔王】の攻撃を受け止めるとその隙を突くように【魔石】を加工し、生み出した武器を握り締め、特殊スーツに身を包んだ選ばれた精鋭達は甲板の上に立った。
戦艦の甲板からその身を空に向かって投げ捨てると浮遊【スキル】を使って飛び始め、15人ほどの黒塗りの精鋭達がケルヌンノスへと向かって行く。
(浮遊術。私達、魔族が得意とした技術。【魔力】操作によって空を巧みに操る。それがいつの間にか、浮遊【スキル】などという陳腐な名前をつけられ、その価値を地に落とされた。それに【スキル】なんて物、私達の世界には存在にしなかったのに今ではそれが浸透してる)
空を舞う特殊部隊の隊員達が手にする武器を振り回しながら魔獣達を切り落とすとケルヌンノスへと着実に迫っていた。
「α! こちら対象に接近! 攻撃を開始!」
ケルヌンノスの魔獣の穴を掻い潜り、特殊部隊の隊員の1人が手に握る剣で攻撃を仕掛ける。
剣は【魔石】によって生み出された物であり、一撃一撃がケルヌンノスの肉体を傷付けることができるのを彼女は見抜き、それを避けた。
だが、攻撃を避けた所にも、別の隊員が待ち構えており、彼は手に握っているハンマーを振り下ろすとケルヌンノスはそれを手から生み出した亀の魔獣の甲羅で弾く。
徐々に隊員達が集まり始め、ケルヌンノスを包囲し、彼女に向けていた攻撃はより過激になると彼らへの対応に、意識が裂かれ始めた瞬間、【魔導】戦艦へと裂いていた意識がほんの一瞬だけ逸れた。
その時、1隻の【魔導】戦艦は防御壁を解き、ケルヌンノス目掛けて魔弾による砲撃を放つ。
コンマ数秒にも関わらず、空いた隙を【魔導】戦艦の乗員達は見逃さず、砲撃を放つ判断を下すもケルヌンノスはそれに勘付き、腕を前にし、それを防ごうとした。
ただ、彼女は今、自分が相手している者達がいる事を忘れていた。
特殊部隊全員がケルヌンノスを殺すために動いていることを。
ケルヌンノスが出した腕に、1人の隊員が剣を突き立てる。
それは今、動けば間違いなく魔弾の巻き添えを食らうことは容易に想定出来ていた。
想定出来ていたからこそ、彼は覚悟を決めてケルヌンノスの腕に剣を突き立てたのであった。
その瞬間、魔弾が彼女の腕に打つかり、爆ぜた。隊員は目の前で魔弾の爆発に巻き込まれ、特殊スーツの防御も虚しく空から1人の隊員が落下するも彼の勇敢な行動あってか、ケルヌンノスの肉体に魔弾が直撃し、彼女の右肩を抉り抜いた。
「押し切れえ!!!!」
特殊部隊の1人がそう叫ぶと彼らは一斉にケルヌンノスへと得物を向ける。
想定外の傷。
想定外の威力。
そして、想定外の覚悟。
ケルヌンノスは今、人間の底力に追い詰められた。
だが、彼らは誰も知らなかった。
追い詰められた【魔王】の底力を。
レンジだけが知っている【魔王】という生き物の真の脅威を。
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