二十六話 おじさん、第五獣魔王に挑む④
WAA【東響】本部最上階の一室。
その部屋は理事長室と呼ばれ、WAA最高責任者である者だけがその席に座る権利を持つ。
「【魔王】の宣戦布告。うんうんうん、なんて刺激的で! なんて幻想的なんだろう! これこそエンタメ! これこそ血肉湧き踊る瞬間! 素晴らしいよ! ケルヌンノス!!!! 我が、同胞!!!!」
理事長室の席に座るのは、黒スーツからも分かるほどの筋肉を身に纏い、髭を生やした大柄の快男児、歌島徳茂。
彼はたった1人でケルヌンノスが出して来た宣戦布告の動画を見て、盛り上がっていた。
「私は嬉しいよ! ケルヌンノス! 君の様な、ベオウルフがいなければ踏み潰されていた【魔王】にも活躍の機会が与えられているこの世界を生み出せたのが! ふふふ、その宣戦布告に対して! 我々、WAAが打つ手は2人のS級【冒険者】の派遣! どちらも、若いながら私が【魔王】を殺せる見込みのある2人! 星空ミリアとアルベール・ペンドラゴンで迎え撃つ! なんて、なんて!!!! 超弩級のエンターテイメントなんだぁ!!!!」
【ダンジョン配信】、それはとある人間が始めた迷宮内で動画を撮影し、その様子を世界に配信するという物。
その始まりに火を灯した男こそが、歌島徳茂、現WAA理事長である。
そして、【ダンジョン配信】という文化を生み出し、根付かせた【魔王】。
またの名を、【第一幻魔王、唯一なるゲーテ】であった。
「あー!!!! 楽しみだ! ものすごく楽しみ! 幼子の様にワクワクしちゃう!」
そんなことを言っていると自分のスマホに連絡が入り、それが自身の秘書であるリサ・カグラであることを確認して、すぐに取った。
「はいはーい、リサちゃん~、徳ちゃんだよ~」
「会長?! 呑気なこと言ってないで、テレビ見てください!!!! A国が【魔導】戦艦4隻を率いて、日本の近海まで来てます!!!! これ明らかに【契約】違反ですよ?!」
WAAが創設時、ゲーテは迷宮が顕れた国に対して、とある【契約】をしていた。
【WAA標準迷宮契約】
1. 迷宮の管理権はWAAに帰属する
迷宮は国境に関係なく、WAAが唯一の管理責任と指揮権を持つ。
2. 迷宮の利益は国とWAAで分配する
素材、討伐報酬、配信収益など迷宮から発生する利益は、国家、冒険者、WAAの三者で規定割合により分配する。
3.【冒険者】はWAAの認可制とする
迷宮内で配信を行う者ら【冒険者】はWAAの認可試験に合格した者のみ活動可能。
違反した場合は資格停止、罰則の対象とする。
4. 迷宮に関する危機はWAAに全面委任する
迷宮で発生した非常事態の判断と対処はWAAが最優先で行う。
国家はこれに協力する義務を負う。
徳茂はリサに言われた通りにスマホでそのニュースを見ると肩をワナワナと震わせた。
4つの【契約】の内、今回破られたのは4に当たる「迷宮に関する危機はWAAに全面委任する」という物。
徳茂はA国の【契約】違反に対して、怒りで肩を震わせていた。
かの様に思われた。
否、それは違い、彼は寧ろ、見たこともない兵器を前にして、嬉しそうに笑顔を溢した。
「すっっっごお!!!! あれすっごいなぁ! A国との会談の時、あんなの作ってるなんて聞いてなかったからテンションぶち上がるね! 良いね! 良いね! エンタメじゃん! それじゃあさ! リサちゃん、これも【配信】しちゃって」
「は? なぁ?! 何言ってるんですか?!
国対【魔王】をネットで流せって言ってるんですか?!」
「当たり前でしょ! あんなに面白そうなのないよ~。リサちゃん、考えてみて? あの【魔導】戦艦ってヤツがさ、【魔王】を殺せたら? あれが人類の希望となる! それに【契約】違反はあったからだ。私達はそれの対応をしたまで。さぁさぁ! Atubeに彼らの勇姿を届けよう! 最高のエンターテイメントの始まりだ!」
リサはその言葉を聞き、こうなったら、話を聞くことはないと見切りをつけ、ため息を吐きながら電話を切った。
そして、すぐに別の部署へと連絡を始める。
「理事長より、連絡。今から、A国が【魔導】戦艦を用いて【地下都市迷宮渋谷】へと進行中。その様子を今うちにあるドローン型カメラ全部で撮影して!」
徳茂はリサの仕事の速さを信頼しており、理事長室に取り付けられていたテレビに電源を入れる。
そこには【魔導】戦艦と呼ばれた黒鉄の戦艦が海の上を浮いており、その様子を見て、徳茂は口から涎を垂らしながら笑顔を浮かべた。
「ぶぁはは!!!! 素晴らしいな! この世界の人間は本当に面白い! 【魔石】の使い方、その思考が全くぶっ飛んでる! あれを使って作る物があの空中戦艦か!!!! 【魔力】の使い方が狂ってるんだよなぁ~!!!! 私達とは全く違う。異なる思想、異なる体系、異なる進化! 全くもって、良きかな! この世界! さてさて、それじゃあ、この弩級のエンタメのために敵を御膳立てしなくてはね」
徳茂はそういうと、画面を切り替え、【第五獣魔王ケルヌンノス】へと【魔力】を用いて連絡をした。
「Hello! ケルヌンノス! 君は多分、私の話は聞かないから、勝手に喋るねー。これから君の元にこの世界の未知が迫る。君がそれを撃ち落とせる様、私が海上に迷宮を作ってあげるから、そこで全力で戦って欲しい! あ! 別に迷宮を作るリソースは要らないからね! 私の奢りだ! 存分に暴れ回って欲しい! それじゃ!」
その一言で連絡用の【魔力】は途切れると、彼女は苛立ちでため息を吐く。
ケルヌンノスは他の【魔王】のことを嫌っている。
何故なら、この自分の身勝手さを押し付けてくる者達ばかりであったから。
「でも、良いわ。今回だけはその挑発に乗ってあげる、ゲーテ」
だが、今回だけは違った。
その身勝手も今は、この世界を滅ぼす絶好の機会であり、その一手を打つために、目の前に大きな穴が開くとそこに向かって、ケルヌンノスは歩き出す。
その穴に足を踏み入れると彼女の目の前には見たこともない鉄の塊が【魔力】を用いて浮いていた。
「へぇ、面白い物を作るのね、この世界の人間は」
迷宮は既に、海を割って顕現すると四つの【魔導】戦艦とそこに乗る兵士達を飲み込んだ。そして、突如として顕れたケルヌンノスに対して、戦艦内部にいる兵士達は、彼女が【魔王】であると知った瞬間に、大砲の砲台を動かして、それを向ける。
ケルヌンノスの目に映るのは全て【魔力】を用いた兵器であり、それらが魔物を殺し、自分をも殺し得る物であることを瞬時に理解した。
理解した上で、ケルヌンノスは嘲笑う。
未熟で未完成な兵器達、【魔力】の使い方を理解出来ていない下等な生物を。
「それじゃあ、魔獣の餌にでもなって貰う前に自己紹介と行こうかしら。私の名前は【第五獣魔王ケルヌンノス】。獣達の王である」
名乗り上げたその時、ケルヌンノスの目の前には小さな鉄塊が放たれた。それは彼女の体を貫通出来るほどの鉄塊であり、【魔力】が何重にも込められた砲弾であった。
「嘆け、絶対魔獣戦線」
【権能】が解放されると同時に、砲弾をケルヌンノスが向けた腕から生み出された巨大な鮫型の魔獣が喰らう。
「さぁ、始めましょう。死にたがりの人間達。私は最初に行った猶予は守る。けれど、私を殺しにくるなら関係なく殺す。踏み躙られる覚悟はおあり?」
ケルヌンノスの喋り声は戦艦内部にいる人間達には届かない。
届いたとしても、戦艦に乗る兵士達は止まる事はない。
国のため、世界のため。
覚悟を持って、【魔導】戦艦へと乗り込んだ兵士達であるから。
25年ぶりに兵器と【魔王】、二度目の戦いの火蓋が切って下された。
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