二十五話 おじさん、第五獣魔王に挑む③
WAA【東響】本部、武具屋【Parabellum】、そこの主人である甘乃目マウラから連絡を受けて、レンジとマーラの2人は、彼女のいる場所へと足を運んでいた。
「カーマ、失礼のないようにな」
レンジが一言申すとマーラはお前は俺のお父さんかよと内心突っ込みながら、素直に「はーい」と返事をした。
「マウラさん! おじゃまするよ!」
レンジが扉の近くによると【Parabellum】の自動ドアが開き、2人はその店内はと足を踏み入れる。
すると、そこには床に倒れているマウラがおり、レンジは一気に顔が青ざめた。
「カーマ! 急いで、救急連絡の準備! マウラさん! 大丈夫かい!?」
レンジは床に突っ伏して倒れているマウラを起こし、肩を揺らすと彼女はスウスウと寝息を立てていた。
「寝てるだけだな」
「よ、よかった~! はぁ、最近、若い子が倒れてる姿ばかり見て気がして気が気でならない」
レンジはそういうとマウラをお姫様抱っこをして、抱き抱え、彼女の作業場である鍛冶場の近くの椅子に座らせた。
30分が経過した頃、マウラが目を開けると自分がよく使っているブランケットがかかっていることに気付く。
「ん、ふわぁ~、気絶してたな。それはそうとレンジは来てるのか」
マウラはバキバキと肩を鳴らし、体を伸ばすと店内の方へと歩き出す。
「レンジ、すまない。待たせたな」
マウラは欠伸をし、目を瞑りながら店内にいるであろうレンジに声をかける。
「マウラさん! 体調はどう?」
案の定、店内にいたレンジの返事があり、マウラは目を開くとそこには彼とは別にもう1人、見知らぬ少女がいた。
「よ! 初めましてだな! お姉ちゃん!」
マウラはその少女の姿を見て、腰を抜かした。
レンジの記憶を読んだ際、見たはずの【魔王】とその面影が重なる少女が目の前に現れたことに。
ドンと音を立て、尻餅を突くとレンジはそれに反応し、マウラの近くに寄った。
「大丈夫かい?! マウラさん!? カーマ! お前、なんかしたな!?」
「オイオイ、流石にそれは信頼なさすぎだろ! 何もしてねえわ! ただ、挨拶しただけだよ! な!? マウラお姉ちゃん?」
マーラに喋りかけられるとマウラは首を勢いよく縦に振る。
「ほら」
「いや、こんなに首を縦に振るなんて何かあったに違いないでしょ。マウラさん、何かされた? 大丈夫かい?」
レンジはマウラに手を出したが、彼女は深呼吸をし、自らの力で立ち上がった。
「いや、本当に何もない、大丈夫だ。ちょっとそこのお嬢ちゃんが、知り合いに似てただけだ。すまない、変なところを見せちまった」
「いやいや! そんなことないよ!」
「えーと、一点質問させてくれ。その嬢ちゃんは何者なんだ?」
マウラに尋ねられたマーラは彼女が自分について、何か勘付いている事に気づくとニッと笑いながら答えた。
「俺は肋屋カーマ。レンジは俺のお兄ちゃんだ。よろしくな!」
「あ、ああ、よ、よろしくな。カーマさん」
マーラを見て、未だに冷静さを失っていたマウラであったが、少しずつ落ち着きを取り戻し始めるとレンジに向けて、喋りかけた。
「私も落ち着けたから、本題に入ろう、レンジ。あんたに作っていた一品が完成したから、それを今すぐにでも握ってもらいたくてな」
マウラはそういうと鍛冶場に戻り、袋に包んである逸品を持って来た。
それをレンジに手渡すと顎をクイッと動かし、彼に指示をする。
レンジはその指示に則り、マウラが作り出した刀をゆっくりと袋から取り出した。
「これは」
レンジが手にした刀は鞘から柄までが漆黒という言葉が似合うほどの深い黒で染まっており、鍔には揺れ動く雲のような形をしていた。
そして、それの柄を握り、鞘から刀を取り出すと鞘とはまた違った黒色の刀身が姿を表す。
紋様はしっかりと刻まれておりながら、光を全て飲み込んでしまう、そんな黒い刀身を前にして、レンジは背筋を誰かになぞられたかの様に感じ、ごくりと唾を飲んだ。
「黒刀・【夜叉】。私が生み出した真打だ。俺の手からはこれ以上は生み出せない」
【夜叉】と呼ばれた刀を前にして、レンジは少しだけ心がウズウズしてしまっていた。
先程まで戦うことを放棄しようとしていた筈なのに、今の自分はすぐにでもこの【夜叉】を使って、切り合いたいと感じてしまっている。
(僕は異常なんだろうな。ミリアを傷つけられて、自分が戦わない理由を探してたはずなのに。今は、この刀を見て、早く誰でも良いから切り合いたいと心の底から願ってしてまった。度し難い、人間だ)
レンジはそんなことを考えていたが、マウラが作った一振りを握ると彼女に向けて、提案をした。
「マウラ、試し切り良いかい?」
「勿論だ。私にも見せてくれ」
提案をすぐに飲むとマウラは試し切り用の兜と鎧をレンジの前に準備した。
レンジはそれらを前にして、黒い鞘と柄を握りしめると無明一刀流、その基本の型の構えを取る。
(無明一刀流に必要な刀身の長さ、柄の手へよ馴染み方。全部が完璧だ。まるで、昔、僕が握ってた得物みたい。これなら馴染ませる時間なんて必要ないな)
普段から使っている手足同様に腕に馴染む黒刀・【夜叉】の柄に力を込めると同時、レンジは試し切りの兜と鎧目掛けて踏み込んだ。
「無明一刀流、流」
兜と鎧の両方を切り裂くには縦への一振りが必要。
レンジはそれを狙ってその刃を叩き込むと兜と鎧がバターのように簡単に切り裂かれ、それどころかその斬撃の余波が店内の床と天井を縦に切り傷を生んだ。
「ヒュ~、こりゃ凄いな」
マーラは目に映るレンジの姿、それはかつて自分を殺した頃に一気に近付いており、それを感じ取ると興奮で笑みを溢してしまっていた。
一方、マウラも同様に自分の生み出した最高の一振りを完璧に近い状態で使い熟すレンジを目にして、思わず息を呑んでしまっていた。
「これは、すごい。って、あ!? 天井と床、傷ついてる!?」
レンジは天井と床を傷つけた事に動揺し、弁償、補修、場合によっては逮捕?! などの文字が頭を過り、目を回した。
「いや、レンジ。それは記念だ。私が生み出した最高の一振り。間違いなく真打を語るに相応しい一品が刻んだ。あははは!!!!」
だが、当の店主であるマウラは一切気にしない、いや、気にしないどころか寧ろ、それを見て笑った。
マウラは自分が生み出した逸品がそれを握るに相応しい人間へと渡ったことを喜んだ。
「なぁ、マウラ姉ちゃん、あんた最高の鍛治士だなぁ」
マーラのその声を聞く前は。
「ん、ああ! 私は何たって、この時代、最高の鍛治士とまで言われてるからな」
マーラの賛辞に対して、いつもならその様な言葉に反応しないマウラであったが、真打の完成を前にして、興奮していたのか自慢げに胸を張った。
「なら~、俺はお姉ちゃんが作った、その刀を更に凄いものに出来る方法を知ってるんだけど、知りたくないか?」
マーラは相手を誘導するのが得意であった。
彼女の言葉に対して、今のままでは足りないそんな風に感じたのかマウラはカチンと来てしまい、食い気味に応えてしまう。
「何だよ、それ。今の黒刀・【夜叉】じゃ、満足いかないって言いたいのか?」
「良いね! その食い気味な感じ~! 俺大好き! マウラお姉ちゃん。俺達さ、実は、これから【魔王】を殺すんだけど、その為に、もう一晩、徹夜してくれないかな?」
マウラを煽るマーラをレンジは叱ろうとしたが、それよりも早く彼女は不敵に笑い、声を上げた。
「【魔王】殺しか。あははは! なるほどな! 昨日、宣戦布告した【魔王】を殺すか! それ良いな! カーマとかいうお嬢ちゃん、気に入ったよ。教えておくれ、今のこいつに足りない物を」
自信満々にマーラへと【夜叉】の強化方法を尋ねるマウラであったが、この時の選択を後に死ぬほど後悔する羽目になることを彼女は知る由も無かった。
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