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元伝説の迷宮踏破者、今は過疎配信おじさん ――魔王が幼女に転生して来たので、再び迷宮の最深部へ  作者:
一章 おじさん、宿敵と再開する

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二十話 おじさん、渋谷に挑む⑨

 そこに居るはずなのに見当たらないミリアを探して、レンジは何度も声を上げながら徐々に煙が明け始める。


 だが、煙が明け、レンジの目の前に映ったのは、自身が考えたであろう最悪の光景であった。


「ミ、リア、そんな。僕は、()()


 瓦礫の上にミリアは横たわっており、彼女の右足、太ももから下が切り落とされ、そこから真っ赤な血溜まりが生まれていた。


 ミリアは全力で、レンジと自分の影響を抑えるために、炎獄剣(レーヴァテイン)を逸らした。


 真っ向から防御しても、勝ち目はない。

 それをミリアは理解していたからこそ、彼女は炎獄剣(レーヴァテイン)の一撃を逸らす選択を選んだ。


 本来であれば、レンジとミリア両方を容易く切断可能であったが、それを逸らされたことで、被害を最小限に抑えた込めた。


 ミリアの意識は完全に飛んでおり、今すぐにでも救急措置を取らなければ命の危険がある。


 だが、彼らの目の前には、【勇者王】と呼ばれた魔族、ベオウルフが立っており、一刻を争う状況であるにも関わらず、彼はレンジへと容赦無く炎獄剣(レーヴァテイン)を向けた。


「死ね、レンジ」


 炎獄剣(レーヴァテイン)の刃は、呆然と立ち尽くすレンジへ放たれると彼の体を真っ二つにしようとする。


 【魔王】殺しの物語、それは必然的に終わりを迎える様に思われた。


 その時、"ダン"と音がした。


「?」


 ベオウルフがそれに気付いた時には、炎獄剣(レーヴァテイン)を握る腕が切り落とされており、その背後にはレンジが立っていた。


「何?」


 ベオウルフは背後に立つレンジを見るとそれが放つ眼光に初めて彼は気圧された。


「まだ、隠した力があるならば、私に見せてみろ、レンジ!」


 ベオウルフは未だにそこを見せないレンジを煽るもそれを彼は聞いていない。


 レンジの脳、それはミリアへの心配、自己嫌悪、今後の行動、ベオウルフの討伐、【魔王】殺しと並行に考えすぎた結果、処理が追い付かず、情報に飲まれており、思考停止している。


 だからこそ、一つを処理するため、究極までに一つのことに没頭が可能となった。


 今、レンジが処理しようとしているのはたった一つ。


 ミリアを助けるために、ベオウルフをいち早く討伐するということ。


 呼吸すらも忘れた過集中による究極のシンプルタスク。

 それこそが、肋屋レンジの持つ諸刃の剣であり、一種の覚醒状態であった。


(ミリアを助ける。ミリアを助ける。ミリアを助ける。ミリアを助ける。ミリアを助ける。ミリアを助ける。ミリアを助ける。ミリアを助ける。ミリアを助ける。ミリアを助ける)


 今のレンジはただ、ベオウルフだけを討伐するだけに動く、殺戮人形とかしており、既に刃を失ったはずの刀を鞘に納め、無明一刀流の構えを取った。


(雰囲気がさっきとはまるで違う。私の腕を切り落とした際、感じた違和感。斬撃に()()が載っていた。刀の刃ではなく、何か別の物が私の体、切り裂いた。レンジ、お前は何処まで、俺の期待を超えてくれるんだ!)


 ベオウルフは歓喜した。

 自分の死場所にて、全力以上を振る相手と出会えたことに。


 ただ、それは先程までのレンジであればの話。


 今のレンジはベオウルフを見ていない。

 闘争で得た喜びも、昂りも全て投げ捨ててレンジはただ一つの目的のために疾走する。


 ベオウルフをミリアから遠ざけるために、レンジは一瞬にして、彼の間合いに入り込んだ。


「ふん!」


 ベオウルフは目の前に現れたレンジに対して、もう片方の手で拾い上げた炎獄剣(レーヴァテイン)を振るうもそれは簡単に避けられる。


 眼で見て、必要最低限の動きで剣先を避け、ベオウルフの肉体へと回し蹴りを入れた。


 肉を割けば高熱の血が得物を溶かすことを、レンジは見抜いており、ベオウルフの体を力一杯に蹴り飛ばす。


 レンジの武器、それは無明一刀流による高速の逆手抜刀とその浪漫とも言える抜刀術を可能とさせる眼にあった。


 何十年にも及ぶ戦闘経験によって培われた眼は敵の手振りなどから攻撃を予見し、的確な技を叩き込むことが出来、衰えた肉体を先読みにて、補っていた。


 だが、今のレンジはその衰えたはずの肉体の限界という名の枷を、無理矢理破壊しており、先読みに加えて、100%以上の潜在能力(ポテンシャル)を発揮する肉体による蹂躙を可能とした。


 ベオウルフは自身の体に蹴りが突き刺さるとその思わぬ威力で「グハッ?!」と声を漏らすも倒れまいと両足で堪え、再び炎獄剣(レーヴァテイン)をレンジへと振り下ろそうと構えた。


「いない?」


 前を向いた時には、レンジは居らず、辺りを見渡そうとしたその時、自分の残ったもう片方の腕に向けられた殺気を感じ取り、ベオウルフは見向きもせずに炎獄剣(レーヴァテイン)を背後に振るう。


「無明一刀流、(カラス)


 レンジは()を蹴った。

 あまりにも自然に、それが当たり前かの様に空中にある面を蹴り上げながら、放たれる逆手の居合は炎獄剣(レーヴァテイン)と打つかり合い、火花を散らす。


 レンジは炎獄剣(レーヴァテイン)が持つ熱線が放たれるよりも速く、その刃を弾き返すと鞘に刀を納めた。


 互いに必殺の間合いの中、両者共に見合い、一瞬の静寂が生まれる。


 その静寂の中、ベオウルフは考える。


(また、攻撃を行うか? それともレンジの体力が尽きるのを待つか? いや、違う。それは雑魚(ザコ)の考えだ。私はコイツを真っ向から叩き潰す。今、ここで決着を着ける!)


 そう思考し、その答えを速戦即決した。


 ベオウルフはレンジが自分を傷つけることが出来る()()を持っていることを知っていた。それすらも踏み潰すために、片腕でありながらも炎獄剣(レーヴァテイン)を天井に向け、ミリアを下した必死の一撃を放つために声を上げた。


「これで終わりだ! 肋屋レンジ!

 火焉(ラグナロク)!!!!」


 業火と暴力が混ざり合うベオウルフ、最大の一撃を前に、レンジは自身もまた、彼を殺すために鞘に納めた刀を抜く。


「無明一刀流、流星(リュウセイ)


 その刀が抜かれると同時に、ベオウルフはレンジが異様な【魔力】を纏っていることに気付いた。


 レンジのズボン、その右ポケットから赤黒いの輝きを見せると彼の握る刀に宿り、それは抜刀と共に弾けていた。


 すると、欠けた刃を【魔力】が補い、それは赫の雷を纏いながら、振り下ろした火焉(りふじん)を、炎獄剣(レーヴァテイン)も同時に真っ二つに切り裂いた。


 炎獄剣(レーヴァテイン)が崩れ落ち、もう片方の腕は使い物にならなくなる。


 ベオウルフはあまりにも一瞬の間に起きたことで脳の理解が追いつけずにいたが、一つだけ、分かったことがあった。


(あれは、()()()()()()()の? まさか、それが正体なのか?)


 その正体に気づくと同時に、ベオウルフは自分の敗北を悟った。

 だが、肋屋レンジ、彼に負けるのであれば、それもまた、良いかと思った。


 そうレンジであれば。


 バタリ。

 彼らの沈黙を破るには余りにも無常な音がした。


 ベオウルフ、彼の目の前で、自分の肉体を切り裂いた肋屋レンジが倒れた。


 過集中がたった今、途切れ、レンジの肉体、欲していなかった酸素を一気に求める。


(あ、はぁ、はぁ、はぁ、ぐっ、はぁ。や、ばい。ヤバい、ひさびさに、これ、はいったけど、ヤバい。さんそが、たりない)


 4分間、無呼吸状態を維持した結果、レンジの肉体は限界を迎えており、ゼェゼェと苦しそうに呼吸をした。


「レンジ、私はお前になら、殺されても良いと考えていたのに!」


 ベオウルフはそんな彼を見て激怒した。

 自分の最後を、刻んでくれると信じた相手が限界を迎え、倒れたことに怒りを向け、レンジの顔をまだ動く足を使って踏み潰そうをする。


 だが、怒りで我を忘れ、冷静さを投げ捨てた、感情によって生まれた大きな隙を【魔王】は容赦無く突いた。


 ベオウルフが足を踏み下そうしたと同時、グサリと音を立て、彼の胸には不可視の刃が突き刺さった。


「な」


 不可視の刃は、ベオウルフの血で姿が明かされるとその形を見た瞬間、彼は得物の主人の正体を知る。


「き、さまは! マ、ー、ラ!!!!」


 【魔王】にとって、正々堂々などいう言葉はない。


 【魔王】にとって、卑怯などいう行為は卑下することではない。


 この戦いが始まってから姿を隠し続けた【魔王】は己の【権能】を使い、()()()以外の人間と魔物を騙し続けた。


「ご苦労だったな、ベオウルフ。()()の勝ちだ」


 【第六天魔王、空絶のマーラ】、その【権能】を纏いし刃が、【勇者王ベオウルフ】にトドメの一撃を喰らわせた。

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