二話 おじさん、宿敵と共闘する
落下する最中、レンジはチャッカリと自分の得物である刀を握り締めており、冷静に状況を把握し始めた。
(落下して、隙が出来たおかげで、近くにあった武器が手に入って良かった。急にそれはそうと、マーラは何処だ?)
そう考え、辺りを見回した瞬間、レンジの背中にドンと何かがぶつかり、グハッと声を漏らすとレンジの背後にはマーラが座っていた。
「オイ! ちょっと! 待って!? マーラ! 背中から降りろ!」
「オイオイ、か弱い少女にそれは無いだろう? レンジ。ほれ、頑張れ頑張れ!」
マーラを振り下ろそうと体を動かすも、なかなか降りようとせず、そんなこんなをしていると、地面が目の前に現れた。
「あぁ!!!! もう! 行けるか!?」
レンジは落下の衝撃を抑えるために、5点接地を試みようとする。落下の衝撃を足裏から地面に受け流し、次は、と覚悟を決めた寸前、レンジの体は宙に浮いていた。
「?! 僕、浮いてる?」
宙ぶらりんになった体に、レンジは困惑しているとそれに対してケタケタと笑い転げるマーラの姿が目に映った。
「ぷぷぷ!!!! レンジ~! 俺の【権能】を忘れてたなぁ~!」
嬉しそうに嘲るマーラは、嫌がるレンジを見て、満足したのか、彼を地面へと着地させた。
「一体どうなってんだ? てか、僕の部屋、もしかして無くなった?」
「残念だが、そうだな。仕方ないんだ」
マーラは申し訳なさそうな表情を浮かべ、レンジに向かってそう言うとその内心はそんなことを微塵も思っていないことを彼は知っていた。
「何で急に迷宮が?! こういうのって突然、出てくる物じゃないよな?!」
「まぁ、普通はな。今は復活した俺を狙って、他の魔王達がドンドン迷宮を顕現させてくるぞ。今回は、第五獣魔王のだな」
マーラは辺りを見回すと、とある方向から自分達に向けられる強い殺気に気付く。
「なぁ? レンジ〜、俺と組めよー。そうしないと、【魔王】達が、俺の魂を狙って、ドンドン来るぞ」
マーラの言葉が終えると同時、地面を揺らしながら、ドシンドシンと音を立てた。
音が鳴り響く方向へ、レンジは目を向けるとそこには彼らよりも背丈が遥かに大きく、人を簡単に砕いてしまう大斧を手に持った牛頭の魔物が立っていた。
「なんだよ、あれ?! 見た事ないぞ?! お前が迷宮にいた頃も、あんな体格のバケモノいなかったろう?!」
牛頭の魔物が暗闇から姿を完全に見せるとそれには巨大な肉体以外にも、レンジを困惑させる物があった。
暗がりから現れたのは背中から、10本の機械で作り出された腕。其々別々の得物を握りしめ、存在全てが殺意の塊のような見た目をした牛頭の魔物はマーラに視線を向ける。
それは主人が仕留めて来いと命を受けた獲物であると認識し、雄叫びを上げながら彼等に向かい、走り出した。
「俺はそこまで魔物に力を入れてなかったらな。ほう、ケルヌンノス以外にも、マキナが組んでるのか! アイツらも本気だな! レンジ、喜べ! 初戦からお前の実力を知らしめれるぞ!」
殺意を向けられているのにマーラは気にも止めず、一方のレンジはというと、久しく感じたことのない死が過ぎっていた。
マーラと火花を散らした日、あの時以来、過らなかった、死神の鎌。
小さい迷宮では出会うはずのなかった怪物を前にして、レンジは思わず変な笑いが込み上げてしまった。
死を乗り越えようとする意識、それはかつてマーラという強大な敵を倒すに至るまで何度も味わった、死線とも呼べる一線を乗り越えんとする生存の意志の表れ。
それを感じ取ると同時にレンジの闘争本能が、相手に笑えと囁きかけた。
(クソ、久々にこんなのと出会ったのに、恐ろしい感情が微塵も湧かない。それどころか、ワクワクが、止まらない!)
相手に笑みを見せるという行為は本来攻撃的なものであり、その瞬間、魔物は足を止めた。
マーラのみに視線を向けていた魔物が、横で剣を構えた瞬間に発された殺気に気付く。
同時にレンジが見せた笑いに、それは得体の知れない感情を覚えた。
作り出された存在が感じることない、恐れ慄くと言う感情。
自分の間合いに入り込めば、刻んでやるという殺意に、魔物は恐怖を抱く。
「レンジ、お前、笑ってるのか?」
それらのやり取りを見ていたマーラはレンジに喋りかけるも、彼はそれを無視して、得物である刀の柄を握りしめていた。
左腕で、鞘を持ち、柄を逆手で握り、重心を見たこともないほどに低くする。
そして、今すぐにでも走り出すかのような形で構えをとった。
大きく呼吸をし、全身の筋肉を敢えて、脱力をさせ切る異形としか言えない構え。
それを前にして、マーラはかつて自身の体を切り裂き、トドメを刺した際の記憶を、鮮明に蘇させられる。
鬼神の様な目付きで迫り来ると一瞬にして、自分の体に線を入れて、それが世界と自分と言う存在を隔てていた肉体を無に帰す瞬間。
魔王がこれまで感じることのなかった死。
それは記憶に、脳内に刻み込まれており、マーラは嬉しそうに体を震わせる。
(ククク! ゾクゾクするね! レンジ! 何が老けただ? 寧ろ、今のが増しただろう? バケモノめが!)
思い出しただけで、笑いが溢れるほどの殺気を前にして、マーラはレンジの剣に目を奪われていた。
「無明一刀流、流」
レンジが呟くと魔物は、殺気に気圧され、立ち止まった刹那、彼は疾った。
踏み込むと同時に、小さな迷宮内に、ドンと言う音が鳴り響く。その大きな音で、魔物は自分の何処が狙われているのか直感で理解し、10本の腕で首を隠す。
ただ、その防御を取り終えたと同時に、レンジが魔物の背後へと着地していた。
魔物は目にも止まらぬ速度で、自分の背後にたった男が何もされなかったと錯覚し、10本を腕を広げると得物を握りしめ、彼を潰そうとする。
それを実行しようと振り向いた瞬間、その首がグルリと一回転する。
得物を交えることもない決着。
肋屋レンジの剣は、真っ直ぐに魔物の首を一閃し、最も簡単に相手に死を叩き付ける。
魔物の首が地面に落ちて、ようやく、それは思考が肉体に追いつくと血の通わぬ頭についた眼が背後に立った男の姿に視線を奪われた。
恐れを知らぬ魔物に畏れを刻み込むとその巨躯が倒れ、"ドォン"と鈍い音を鳴り響かせる。
レンジが倒した魔物に目を向けると、その肉体がパキパキと石となり始める。
「あ、コイツからも【魔石】落ちるんだ」
結晶と化した魔物が砕け散ると紫と青の宝石の様な物が落ち、レンジはそれを拾った。
その光景を眺めていたレンジに対して、マーラがニヤニヤとしながら、彼に声をかける。
「レンジ、お前は俺が見込んだ男だ。流石の剣捌き、恐れ入ったよ」
「そりゃどうも。【魔王】に褒められても生憎、嬉しくないがね」
「あははは! コレでも俺はお前のことを評価してるんだぞ? まぁ、いい。なぁ、レンジ、もう一度聞く。お前、やっぱり、俺と組め。俺と魔王を殺そう」
手を出すマーラに対して、レンジは得物を手にしたことで、今の自分であれば、直ぐにでも彼女を切り裂ける自信があった。
「お前と一緒に組む前に、お前を殺すよ。それで、他の【魔王】も殺す。お前と組むなんて、死んでもごめんだからね」
その言葉は柔らかい物言いであるが、殺すという部分に、嘘偽りのない覚悟が込められていた。それを前にして、マーラはレンジを落ち着けようと口を開く。
「くくく、そういうと思ったよ。だが、落ち着け。俺を殺したところで状況はむしろ、悪化するだけだ。覚えてるだろう? 俺は嘘がつけないんだ。だから、とりあえず、ここは一旦、抜け出して話をしようぜ。聞きたいこと全部、話してやっからよ」
マーラの嘘をつけないと言う言葉、それはかつて切り伏せたからこそ分かる事実である。
少しの間、沈黙の後、レンジは型を構えるのを止め、ため息をついた。
「はぁ、分かったよ。但し、一から十まで全部話してもらう。けど、最初から言っておくよ。俺はお前と組むことはない」
マーラの提案を、レンジは今の状況を全て理解するには、彼女の説明が必要であると考え、渋々、それを受け入れた。
「いいね、割り切りが早くて助かるよ。そんじゃまあ、地上に戻るついでに話そうか」
マーラからの停戦の申し出を受け、それを了承したレンジは、とりあえず、迷宮から抜け出そうと彼女の手を取る。
そんな中、2人をレンズが追っていることを、彼らは知る由もなかった。
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