十七話 おじさん、渋谷に挑む⑥
【勇者王ベオウルフ】、その男は英雄であった。
数多の怪物を殺し、死をも恐れぬ豪傑と讃えられた。
【第五獣魔王ケルヌンノス】、彼女と出会うまでは。
刀と戦斧の刃を重ね合わせ、火花を散らしたレンジとベオウルフ。
2人は互いの力量を知ると同時に、距離を取り、相手の出方を伺う。
かと、思われた。
((それは素人の考えだ。今はひたすらに、立ち合うのみ!!))
ベオウルフとレンジ、彼らはお互いに一度の立ち合いのみで、底を知った。
レンジの目に映ったのは、無数の獣とその中心に鎮座する1匹の巨狼の王の姿。
ベオウルフの目に映ったのは、幾つもの刀を握る触手とそれらを繰り操るローブを被った1人の男の姿。
両者共に強者のみが目にしている闘争の姿に、心を踊らさせると相手を伺う間もなく、動き出す。
「無明一刀流、流!」
その言葉と同時に、レンジはベオウルフの背後を取ると逆手の抜刀が彼の首へと襲い掛かる。ベオウルフはその動きを目で追わず、直感でレンジの攻撃に対応すると戦斧と刀は再び打つかり合い、"キィィィィン"と甲高い音を鳴り響かせた。
(こいつの反応速度、マーラ並だ!)
少し笑顔を見せながらレンジは自身の攻撃が防がれた瞬間、戦斧の刃を起点に、刀に力を入れ、無理矢理体を空に浮かす。
空中にて、回転しながら刀を鞘に納めると巨大な戦斧腹の上に立ち、レンジはその場で構えた。
「無明一刀流、星」
それは空中で放つ流とは違い、速度を極限までに突き詰めた渾身の一撃。
刀から鞘が疾るまでの速度は限りなく0秒に近く、ベオウルフはそれを目の当たりにした瞬間、生まれて初めて死が自分の脳裏に過ぎった。
もう片方の腕に握っていた戦斧を使い、斬撃が首への直撃を免れる様にするもレンジがベオウルフの背後に立った瞬間、彼の体に大きな切り傷が生まれた。
(ほんの一瞬の、私の腕の動きを見て、体への攻撃に切り替えた。速さだけではなく、技術も、力も、全てにおいて私が戦って来た者達の中でも上位に立つ。久々に、本気で戦えそうだ)
ベオウルフは自分の体に生まれた切り傷を軽くなぞると、レンジに向かって喋りかける。
「名を名乗れ。お前は私が覚えるのに相応しい戦士だ」
「そりゃどうも。あんたほどの魔物に言われたら僕も光栄だよ。それじゃあ、覚えてもらおうかな。肋屋レンジ、ただのしがない剣士だ」
「レンジ。レンジか。良い名前だな。なら、私の名前も覚えて行け、レンジよ。私は【勇者王ベオウルフ】。【第五獣魔王、極刑なるケルヌンノス】の従者にして、最強の臣下。そして、主人の城に入り込んだ人間を叩き潰すモノ」
ベオウルフは名乗りをあげると、両手に握りしめていた戦斧を地面に放り投げた。
"ドォン"という重い音が鳴るとベオウルフは手袋をつけた手をグーパー動かす。そして、彼は地面に向けて、思い切り、拳を突き立てた。
「禁狼拳」
レンジはベオウルフ突き付けた拳から一瞬だけ、巨大な狼の足の様な物が見えるとそれは一撃で廊下の地面を叩き割る。
突如として足場を崩され、レンジは落下すると反応が鈍くなった一瞬の間を縫って、ベオウルフは彼に目掛けて、次の一手を放つ。
「禁狼蹴」
互いに空中に浮かぶ中、ベオウルフは空を駆けると対応が遅れたレンジ目掛けて、蹴りが容赦無く入れられる。
「【ユニークスキル】、【光導拾弍式抜刀術】、On The Stage!」
だが、師に向けられたはずの一撃に、無理矢理入り込むとベオウルフに一矢報いるために、ミリアは自ら死地へと踏み込む。
「水瓶」
ベオウルフの蹴りはミリアの防御のための抜刀術とぶつかった瞬間、巨大な爆発を生み、彼らを吹き飛ばす。
だが、落下するだけであったレンジに浮遊の【スキル】を使って援護、加えて、彼へと放たれた攻撃を防いだ。
「ミリア! ありがとう!」
レンジが感謝を告げた様に吹き飛ばされた先で、2人はかすり傷だけで済んでおり、ミリアはいの一番に立ち上がるとベオウルフ目掛けて声を上げた。
「お前、僕に全く目もくれなかったな」
ベオウルフは自身よりも小さくか弱い生き物であるミリアが自分の一撃を防いだことに少しばかり驚くが、それでもレンジほどの興奮はなく、適当に遇らおうと無視を決めた。
「双子」
無視されたミリアは自身の【ユニークスキル】でベオウルフに目掛けて剣を振るうと彼はそれを簡単に防いだ。
「お前は、私とレンジの間に入れるほどの余地はない」
防いだ腕とは違う腕でベオウルフはミリアの顔を潰そうとするが次の瞬間、彼の背中に突然、切り傷が生まれた。
「ほう?」
ベオウルフの目の前に映る少女、その背後、生まれたての星の輝きが見えると彼はミリアという存在もまた、強者の領域に足を踏み入れていたことを知り、少しだけ口角を上げた。
「お前、さっき、僕に入る余地がないって言ったよな?」
いつの間にか、ミリアはベオウルフから距離を取っており、再び刀を鞘に納めていた。
「言ったな。だが、撤回はしないぞ」
ベオウルフはミリアがまた、自分に噛みつこうとしていることに気付く。そして、その尽きることない闘争への気持ちに応えてやろうと拳を前に構えた。
「そうか。なら、僕は全力でお前の持つ余地に入り込んでやる。僕は、僕を見ない奴が、一番嫌いなんだ」
そういうとミリアは柄を逆手に握りしめ、体勢を低くしたまま構えを取った。
既に、【ユニークスキル】は【起動】しており、十二の抜刀術はどれも発動が可能。相手はそれを知らず、今、ミリアが切れるカードは幾つもある。
「ミリア、相手には、自分の持つ手札を全部は見せちゃいけないよ」
師であるレンジとゲームをした時、彼から一度も勝てずに拗ねた自分に向けられた言葉。それを戦いの間、何度も何度も反芻しており、いつしか、彼女のルーティンとなっていた。
ミリアが次に打った一手、それは【ユニークスキル】での攻撃。
ではなく、【スキル】による牽制である。
「火炎魔法V!」
ミリアが抜刀した瞬間、その刃から爆炎がベオウルフの目の前に広がると彼は先ほど切った啖呵が嘘であったのかと思い、彼女から興味が一瞬にして失われた。
ベオウルフは燃え盛る炎を物ともせず、それを寧ろ打ち消そうと拳を振り上げる。だが、炎で見えなくなったミリアから、殺気を感じ取ると、振るおうとしていた拳の方向を変えた。
「禁狼」
「無明一刀流」
男達は自ずと引き合わせられ、互いに技をぶつけ合うために、その土俵に勝手に踏み入れる。
「撃!」
「烏」
レンジの放つ斬撃は黒く染まっており、ベオウルフの視覚からはその情報を読み取ることは出来ない。
だからこそ、ベオウルフは自分の持つ超直感を頼りに、レンジの放つ斬撃をピンポイントに探り当てようとする。
"ガイン"
聞いたこともない音がその場に鳴り、ベオウルフの拳は恐ろしく正確にレンジの刃にぶつけられる。
次の一撃を放とうとしたその時、レンジは自分の体が思うように動かなくなっていた。
禁狼撃、それから放たれる衝撃波は相手を拘束する能力があり、ベオウルフは刃と拳をぶつけ合った瞬間に、それをレンジの体に流し込んだ。
「死ね、レンジ」
身動きが取れなくなったレンジにベオウルフは彼の頭を潰そうと両手で鉄槌の形を生み出し、それを容赦無く振り落とす。
「双魚」
その声が聞こえるまでは。
振りの大きい動作を見せた一瞬を狙い、ミリアはベオウルフへと再び剣術を叩き込むと彼の両肩に切り傷を作り出す。
それが気を取られた間に、レンジは体を動かせるようになると、ベオウルフの体に蹴りを入れ、距離を取った。
「いい、連携だな。私を殺すためならば、何をしても厭わない、そんな覚悟を感じる」
ベオウルフは2人の人間が見せる想定外の動きに、心を躍らせており、彼らを獲物ではなく、完全な強者として認めた上で、再び口を開く。
「お前達がその気ならば、私もこれより【権能】を使う。耐えろよ、この世界の勇者達よ!」
感想、レビューいつもありがとうございます!
嬉しくて狂喜乱舞です!
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします!
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます!




