十五話 おじさん、渋谷に挑む④
1体の兵士を倒した直後、レンジ一行は大量の兵士達に追われていた。
犬や、猫、それどころか蛇や、豚の顔で、人間の体を持った兵士達に、レンジ達は追い回されると彼らは城中を駆け回る。
「どうする!? これ?!」
最初は応戦していたが、徐々に数が多くなり、撤退を余儀なくされたレンジは背後を何度も振り向くと兵士達と距離を確認する。
凡そ100メートルほどの距離があったが、それでも迷宮の構造を理解していない彼らにとって、命取りとなる。
「とりあえず、【安置】でも探したらどうだ」
マーラは彼らとは違い、浮遊しながら、獣兵のことをそこまで気にせず、レンジの言葉に応えるとミリアはそれにハッとした表情を浮かべた。
「カーマ、この迷宮には、【安置】があるのですか?」
「ああ、俺達はそういう条件で迷宮を組み立ててるからな」
それを聞いた途端、ミリアは足を止めた。
(迷宮の組み立ての条件に【安置】を組み込むというのがあるなら、どんな場所でもそれに則っているはず。マーラの言葉を信じるのは癪ですが、そんなことを言ってる暇は無いので)
ミリアは自分の中で纏まった考えから、得物を前に構えると交戦の形を取った。
「ミリア!?」
「師匠、さっき通った場所に【安置】と思える扉がありました。なので、ここからは押し通します」
【安置】、それは【冒険者】達が体を休ませることが出来る原因不明であるが迷宮には必ず存在する休息地。
ミリアの提案を聞き、レンジも足を止めると彼もまた自身の得物を構えた。
「あー! なるほど! たしかに、昔も【安置】はあった! OK、なら、切り拓こう! ミリア」
「はい!」
そんな2人を見て、マーラもまた、逃げるのではなく迎え撃つ方が性に合っていると感じており、彼女は嬉しそうに彼らと同様の方向を向いた。
「あはは! 2人がやるならやってやるよ。そんじゃあまぁ、行こうかぁ!」
マーラの言葉を皮切りに、向かい来る獣兵達へとレンジとミリアは走り出す。
師と弟子の2人が放つのは互いに同じ剣術であり、一糸乱れぬタイミングで同時に声を上げた。
「「無明一刀流! 流!!」」
刀を鞘から疾らせると同時に、飛び跳ね、獣兵の首を、刃がスパリと切り裂く。納刀のタイミングも同じく、再び師弟は近くに居た獣兵の首目掛けて、抜刀した。
「「無明一刀流!」」
「鱗!」
「番!」
レンジの剣は両脇にいた4体の獣兵の、ミリアの剣は前に束になっていた者達の首を、一瞬にして断ち切る。
2人が獣兵を切り裂く中、その背後より、マーラは矢を番える様な形の構えを取っており、彼らに向かおうとして来た獣兵目掛けて、不可視の攻撃を放った。
「覇弓」
それはマーラの持つ【権能】によって空気を操り作られた五つの矢による攻撃であり、獣兵の鎧ごとを貫通させ、簡単に彼らの命を奪い去る。
声も上げる暇もなく、獣兵の部隊を3人は圧倒して行く中、誰よりも前のめりにその戦いに興じる者がいた。
それはかつて、【魔王】の迷宮を踏破せし者、肋屋レンジ。
レンジは敵が何かを手を打とうとしてもそれを一瞬にして、潰し、相手の手札を奪い去りながら抜刀術を叩き込む。
彼の目に映るのはかつて、自分を苦しめたはずの武を持つ魔物達。
知もなく、ただひたすらに生存のために動き回るゴブリンなどとは比べ物にならない命のやり取りがそこにはあった。
(これだよ、これ。ようやく、実感できた! 懐かしき僕の戦場!)
レンジの動きは徐々にミリアを凌駕し始め、それに彼女は目を丸くした。
これまで、レンジは自分が掴み取った平和を享受していた。間違いなく、彼が齎し、彼が【魔王】マーラを殺したからこそ、得たものであり、レンジはその平和に満足してはいた。
しかし、レンジの中には常に、燻る感覚が、平和という時代には似つかはない、あまりにも暴力的な感情、闘争の焔が立ち続けた。
かつて、仲間を失って勝ち得た勝利であるにも関わらず、未だにその戦火に自身を有り続けようとしてしまう矛盾。
それが今、吹っ切れたかのように、レンジは己の持つ剣を振るう。獣兵から見るレンジは、己を獲物としか見ていない修羅で有り、そらが持つ気迫に押された瞬間、その首が宙を舞う。
(師匠が、僕が見たこともない動きをしてる。これが僕が知らない時代の師匠。これが【魔王】殺しを成した人の動き。僕も、負けてられないや)
ミリアもまた、レンジの動きに合わせ始め、追い上げるように抜刀の速度を上げて行った。
そして、少し先にあった十字架の紋様が刻まれた扉を見つけ、ミリアはそれを指差すとレンジ達に向けて声を上げる。
「師匠! カーマ! あの扉に飛び込んでください!」
ミリアの指示に従い、レンジとカーマは顔を合わせると走り出す。そして、言われるがままにその扉を開け、部屋へと飛び込んだ。
彼らが入ったことを確認するとミリアも同様、扉を開き、部屋に入ると先ほどまでの喧騒が嘘の様にシンとした静けさが広がっていた。
ミリアは深呼吸をして、息を整えると気が緩んだのか、独り言を呟いた。
「一先ずは落ち着けそうですね」
ミリアの呟きを聞き、レンジは先ほどまで見せていた殺気が嘘かのように穏やかな空気を纏いながら彼女に喋りかけた。
「そうだね。それにしてもミリア、よく【安置】の場所が分かったね!」
「その件ですが、【安置】なので、一旦、カメラを切りますね」
WAAの規則で、【安置】では、カメラを切ることができ、ミリアは自分達の周りを浮遊していたドローン型カメラを停止させ、マーラに対して、とある疑問を投げた。
「カーマ、【安置】はどの迷宮にも有りますね。あれは何故ですか?」
突然、【安置】について尋ねられたマーラは地面に寝っ転がりながら、それに応える。
「ミリアは結構、知りたがりなのか? まぁ、いいよ、いろいろ教えてやる。俺達、【魔王】が迷宮をこっちの世界に持ってくる際に必要だったんだよ」
ミリアの問いに対して、嘘はないが、重要なところはボヤかす様にマーラは回答を出した。
それに対して、彼女は細かい場所を突いた。
「何故、必要なんですか? 僕達の世界に迷宮を顕現させるのに」
「…。そうだな、本来、迷宮ってのは敵意の塊だからな。そんな異物を持ってくるには、デメリット以外のメリットが必要だったんだ。これは害もあるが害以上に、祝福が大きいって認識させなきゃならない。そうじゃなきゃ、この世界に弾かれるんだよ」
マーラの言葉には、嘘はなく、迷宮という未知を別世界から作り出すにはメリットの方が多くなければならない。
それを聞いたミリアは顎に手を置き、自分の考えをまとめ始める。
(僕の立ててた仮説、これは正しそうですね。人類は迷宮がデメリットばかりだと考えていましたが、今は違う。結果として、世界は以前よりも多くの面で発展してる。となると、【魔王】達の目的は、侵略?)
ミリアが頭を悩ませていると、マーラはそんな彼女が求めている物に気付いたのか、嘲ける様に微笑みながら口を開く。
「ミリア、お前の問いには、ここの【魔王】を殺せたら俺が直々に答えやる」
「…、勝手に僕の考えを読まないでください。でも、それ言質取りました。約束ですよ」
「あはは! 生意気だなぁ! でも、いいぜ! 俺は嘘つけねえからな!」
マーラとミリアの間に生まれた約束。
これが今後、物語の大きな鍵となることを彼らは知る由もなかった。
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