十四話 おじさん、渋谷に挑む③
突然、地面が崩落したことで落下するレンジ一行。
(この空気、この雰囲気! まさしく、僕の知ってる迷宮だ! いや、それよりも! また、この展開!? 僕、浮遊スキルが無いからこのままだとまた落下だ!? どうする!? 剣技を直前で挟んで落下の威力を抑え込むしかない!?)
マーラはいつの間にか、浮遊しており、落下するレンジを眺めていた。
「覚えておけよ! ま、あ、いや、カーマ!!!!」
レンジは剣を構え、地面に無明一刀流を放とうとしたその時、地面目前にして、彼の体は宙に浮いた。
「大丈夫ですか?! 師匠!」
宙に浮かせたのは彼らよりもゆっくりと降りてきたミリアであり、その姿を見たレンジは目をウルウルとしながら口を開く。
「ミ、ミリアー!!!! ありがとう!!!!」
レンジは感謝と感激で顔をグシャグシャにし、ミリアに感謝を告げた。だが、それに加えてレンジはもう1人の【魔王】に向けて、声を上げた。
「それよりも、カーマ! お前、僕のこと見えていただろう!」
「怒るなよ、あれはミリアに任せてただけだ。それよりもようやく来たな! 【魔王】の迷宮! テーマパークに来たみたいで、テンション上がるよなぁ!」
レンジはマーラがテーマパークなんて行ったことも見たこともないだろうにそんな言葉をいつの間に覚えたのか、突っ込もうとしたが、それは一先ず置いて、今の状況を整理しようとする。
「とりあえず、僕達は【魔王】のテリトリーに誘われたって感じで良いのかな?」
「おう! それで良いぜ! とっととここの【魔王】殺して、俺の体を取り戻そう!」
「落ち着いてください、カーマ。あなた喋りすぎると僕達の目的である騒ぎを立てずに【魔王】を殺すというのが出来なくなるので、カメラ回ってる時はなるべく黙っておいてください」
「ちぇっ~、つまんねえなー。まぁ、いいよ。俺もとっとと踏破しちまいたいしな!」
マーラの心配をしつつも、いつも通りの雰囲気を出していたミリアであったが、その内心では【魔王】の迷宮に緊張していた。幾つもの修羅場を潜り抜けていたミリアであっても【魔王】の迷宮は突き刺すような空気に圧倒されており、今までとは一線を画していることを肌で感じた。
(落ち着け、ミリア。僕はこれまでも死線を何度も超えてきた。今回もまた、超えるだけだ。それに師匠もいる。僕は全力であの人の横に立つんだ)
ミリアは心を落ち着かせながら、辺りを見渡すとそこには如何にも下に続きそうな扉のような物があった。
「師匠、カーマ、聞いてください。これから、また、カメラを起動して、【配信】を開始します。くれぐれも【魔王】に関しての喋るのは極力控えて下さい」
「了解」
「おうさ」
レンジとマーラの返事を聞き、再びミリアはカメラ型ドローンを起動させると視聴者に向けて、笑顔を見せた。
「はーい! 流星のみんな! さっきはごめんね! 急に地面が割れて、ミリア達急いで対応してたんだ! それじゃあ、また、【配信】始めて行くから! よろしくね!」
ミリアの言葉で再開する【配信】に対して、思うところがあったのかマーラは何処か冷めたような視線を送る。
(レンジもそうだが、明らかに認知が歪んでいるな。こういうことが好きな【魔王】はいるしな。さてさて、何が目的なんだぁ? ゲーテさんよ)
マーラの感じていた認知の歪み。
それは幾ら危機的状況でも、【配信】という物を続けること。
命の意味が、価値が消費されることを嬉々とすることを違和感なく受け入れられている現状に、マーラは他の【魔王】の魔の手が知らぬ間に広がっていることを感じていた。
(まぁ、今は、それよりもこの迷宮を攻略する方が先かな?)
マーラがそんなことを考えているとミリアが扉を開けた。そこには暗闇へと誘う階段があり、彼らはそれを一歩ずつ歩き始めた。
カツンカツンと靴音が鳴り響くだけで、本当に前に進んでいるのかは分からない。そんな中、マーラはレンジ達へと喋りかけた。
「なぁ、迷宮には、種類があるんだろう?」
「ええ、そうです。主に3種類、遺跡型、城型、都市型、今回はこの構造的に、多分、城型です。骨が折れそうですね」
「そうだね、城型は探索しやすい代わりに、魔物のレベルが高いし、構造的に動きずらいからやりにくい」
階段を慎重に進みながら進むとその先に少しばかり、光が見える。
「着きました、2人とも気合い入れて行きますよ」
ミリアは得物を構えると一番最初にその光差す場所へ足を踏み入れた。
ミリアの視線の先、そこにら赤いカーペットが敷かれ、石で出来た廊下は先ほどまでの整えられていない迷宮とは違い、洗練された構造物を形成されていた。
「…。これは」
城型とは言っていたが、実のところ、その実態は城のような構造を模しただけの迷宮であり、これほどまでに人工物の形を成した物をミリアは初めて見た。
「いいねぇ。気合い十分って感じだ」
自分の知り合いの家に遊びに来たかの様な落ち着きを持っているマーラはそんなことを言いながら、ミリアの次に到着すると体を伸ばし、辺りを見渡した。
その視線を向けた先、そこには顔は犬、体には西洋甲冑と鎧を身に付けた魔物がおり、マーラとミリアを見た途端、携えていた槍を振り回しながら、こちらへと走り出した。
「ミリア~! I界層級の魔物だ! 来るぞ!」
向かい来る犬顔の兵に対して、ミリアは無明一刀流で応対するために、刀を前に構えると、それに目掛けて逆手の抜刀を披露する。
置き去る様な一閃が兵士へと襲い掛かったその時、それが首へと迫ったギリギリのタイミングで、握りしめていた槍を挟み込み、その一撃を防いだ。
「な?!」
ミリアは自分の剣が防がれたこと、それに加えてレベルが低いと考えていた魔物が槍を使いこなしたことに驚き、思わず声を出してしまう。
抜刀が防がれたことで動揺するがミリアはすぐに一度、立ち直そうと兵士から距離を取るとそれの動きや、手振り、それら全てを観察した。
兵士の槍の握り方及び構えは、熟練の戦士にも似た物を持っており、それは自分にだけ殺意を向けられる。
ただの魔物から感じ取れるはずのない、殺気と熟練度にミリアは戸惑っているとそれを嘲る様、マーラは彼女に喋りかけた。
「ミリア~、アイツらはお前らが知ってる魔物と思わない方がいいぜ~。何たって、【魔王】直属の魔物。界層持ちの魔物だ。さっきのゴブリン達とは訳が違う」
マーラが言い終えたタイミングで、レンジがその廊下へと辿り着き、すぐにミリアへ加勢しようとしたが、彼女はそれを手で制止した。
「ミリア!? どうして!?」
レンジは弟子の心配をしていたが、ミリアはマーラが自身を煽った意図を理解しており、彼を止めたのはそのためでもあった。
(マーラが言いたいのは簡単。これからこういう魔物や、一段階強い物達と対峙するのに、お前は着いて来れるか? 着いて来れるなら、それ相応と力を今、見せろということ。言い換えれば、僕のことを完全に舐めてる。腹が立つ。僕は、師匠の横に立つために研鑽を積んで来た。なら、見せるべきだ。僕はやれる、いや、横に立てるということを)
ミリアはついさっきまで抱いていた緊張を振り切り、再び刀を前にして、柄を逆手に握りしめる。
兵士は既にミリアへと向かっており、槍での突きを放とうと両腕に力を入れていた。
槍先が極限までミリアに迫った瞬間、彼女は刀を抜き、それを鞘に納めた。
光速の抜刀が切り裂いたのは鎧を纏った両腕であり、ぼたりとそれが落ちた途端、再び兵士へとミリアは刀を疾らせる。
次は魔物の体を真っ二つに裂き、刀を納めるとマーラに向けて、声を上げた。
「界層持ちだか、何やらの警告結構、ありがとうございます。でも、大丈夫です。僕、強いんで」
マーラに向けて、宣言したのはS級【冒険者】としての矜持と、師匠であるレンジと横に立つという覚悟の現れ。
それを耳にしたマーラは嬉しそうに微笑み、彼女の言葉に応えた。
「あはは! 大いに期待してるよ、ミリア」
それには真の意味での期待と、何れお前も自分の獲物であるという意味が込められていた。
波瀾万丈な【魔王】の迷宮。
彼らを待ち受ける未来は如何に?
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