十三話 おじさん、渋谷に挑む②
個人のドローン型カメラは既に起動しており、レンジ達の戦闘が始まると同時に、それらは一切に彼らの姿を撮影する。
レンズの視線を、レンジは、一切気にすることなく、思考は一瞬にして切り替え、先ほどとは全く別の雰囲気を纏った。
「無明一刀流、鱗」
逆手で握る刀を前にして、襲い掛かるゴブリンの群れに、レンジの一撃が一閃する。一度の抜刀しか見せていないはずなのに、斬撃が何故か、五つほどの放たれ、鞘に刀が納まると前にいたゴブリン達の首を一気に切り落とされた。
その姿が写された動画に、視聴者達は湧いた。
『おじさん、何者?!』
『何も見えねえ』
『おっさん、邪魔とか言ってごめん』
『本当に師匠、なのかもしれん』
視聴者の興味は一気にレンジへと向けられ、彼はそんなことを気にしなかったが、無意識にそれに応える様に技を見せ付ける。
抜刀と納刀を繰り返し、その速度は目で追えず、幾つものゴブリンの首が跳ね飛ぶとレンジは群をなす彼らを睨んだ。
ゴブリン達はその視線に晒された途端、蛇に睨まれたウサギの様になり、動かなくなるとそのタイミングを見計らってからか、マーラは自身の【権能】である空の操作を使い、ゴブリンへと容赦のない一撃を喰らわれた。
「覇牙!」
振るう五つの指の爪に空気を纏い、それを手前に振るった瞬間、ゴブリン達の首は再び宙を舞う。その血を前にして、マーラは笑みを溢すと次は手を槍先のように尖らせ、突きを放つ。
「覇爪!」
空気を纏う槍が並んでいたゴブリン達の心臓を一突きで貫くと、そんなマーラの姿をドローン型カメラが動画に収め、世界中に【配信】する。
マーラは自分の得物である【波旬】を隠しながら戦っており、それは【魔王】である自分の姿を隠すためでもあった。だが、それであっても実力はその場にいるレンジに引けを取らず、【魔王】としての素質の高さが視聴者達を盛り上がらせた。
『?! ?! ?!』
『本当に何してるのか分からんわw』
『おっさんも大概だが、こっちも大概すぎる』
『カーマ様、貴方に着いていきます。貴方はいずれ、S級【冒険者】となるでしょう』
『なんか薄らと膜みたいなのが見えるんだけど、あれで攻撃してるの?』
『分からん、俺達は何となくで【配信】を見てる』
攻撃方法が不可視であり、それを嬉々として扱うマーラに視聴者達は釘付けとなった。そんなレンジの活躍を眺めながらミリアは、少しだけ嬉しそうにする。
(流星のみんなの反応も良好。僕の師匠の剣が、ようやく日の目を浴びる時が来たのです。僕はこのことをとても嬉しく思います)
一方で、それは自分だけの師匠の剣であった物が他人の物のように感じ、ミリアは少しだけ寂しい気持ちになる。
そんな彼女に1匹のゴブリンが勢いよく襲いかかった。レンジとマーラの2人の穴を突くようにミリアに飛び掛かると彼女が視線を向けていないのを良いことにその顔に手に握る棍棒を思いっきり振るう。
「ミリア! 危ない!」
ミリアの顔に棍棒が振り下ろされる直前、レンジは彼女に向かっていたゴブリンに気付くと直ぐにその首を切り落とそうと地面を蹴り上げようとした。
だが、そのゴブリンの棍棒での一撃はミリアには届かない。
ミリアは視線も向けずに、手に握りしめていた刀を抜いており、ゴブリンを棍棒ごと真っ二つに切り裂いた。
ゴブリンを真っ二つにしたにも関わらず、鮮血を浴びる事なく、立っており、その姿は一種の神々しさすら感じ取れるほどであった。
ミリアは敵意に敏感であり、それは殺意であれば一瞬にして捉えることが出来た。だからこそ、自分の危機をも断ち切る動きと剣術、それら全てを持って、視聴者達を魅了する。
危機を無言で脱し、それでいて逆境を切り裂く。
それこそが星空ミリアの【配信】スタイルであり、彼女の人気を担う要素の一つ。
それは間違いなく現在最も人気を集める【配信者】で、最強の【冒険者】と名高く、遜色ない姿であった。
『うおおおおおお!!!!』
『っぱり、ミリアなんですよね』
『浮気してた。すみませんでした』
『一太刀で、流れ変えたな』
『すっげえ、あれ反応できんの?!』
『このコラボチーム、強すぎる!!!!』
『見てて爽快!!!!』
『ミリアの影が薄くなりそうと思っていたけど、やっぱり、違うな~!』
『ミリア!!!! もっと見せつけてけ!!!!』
『ミリア鬼強ええええ!!!! 逆らう魔物で全員、ぶっ倒しちまおうぜ!!!!』
『一番、盛り上がるのはやっぱり、ミリアなんだよね~!!!!』
【配信】コメントの欄は大いに盛り上がり、それはレンジや、マーラの比にならないほど。
自分の姿を映すドローン型カメラを近付けるとそれに向けて、ミリアは笑顔を見せた。
「流星の皆~! どうかな! 今回の【配信】、ワクワクするでしょ! 僕の初めてのコラボ【配信】、これからもっと盛り上げて行くから、要注目だよ!!!!」
元々上がっていた温度がその言葉によって、より熱くなり始めると視聴者達の熱に応えるよう、ミリアはレンジとマーラに負けずとその剣を振い始めた。
レンジとマーラを活躍させたのは、自分が動き回れば彼らの活躍の機会を奪ってしまうからであり、視聴者に受け入れ難くなってしまうと考えていたから。
それは既に杞憂となり、彼らが認められたのであれば、ミリアいつも通りの動きに切り替える。
ゴブリンの群れに向かい、レンジ同様の切り掛かると彼らの目に映るミリアもまた、魔物を狩る者であると改めて認識させた。
(ミリア、やっぱり、凄いや! 僕も負けてられないな)
レンジはそんな考えをし、ミリアの動きに負けじと無意識のうちにレンジのボルテージが上がり始め、ゴブリンが一歩も動くことも許さぬまま、彼は群れを蹂躙していく。
ゴブリンの群れを切り裂くと同時、レンジ達の【配信】も注目度ランキングの一位を突破した頃、マーラが足を止めた。
(来たな。俺達の本来の目的。俺の獲物が!)
マーラはハッキリと【魔王】特有の気配を感じ取ると不適な笑顔を浮かべる。
「ま、いや、カーマ! どうしたんだい?」
突然、足を止めたマーラに対して、レンジが声をかけると彼女は嬉しそうに答えた。
「来るぞ、レンジ! 思ったよりも、早く! アイツらが!」
マーラの喜びからレンジは何が来るのかを察すると何処からか何かが来るのを警戒し始めた。
「ミリア! 警戒して! 何か来るかも!」
レンジの声を聞き、ミリアも辺りを見渡すもそんな彼らを見て、マーラは嬉しそうにする。
「オイオイ、レンジ~、警戒しても意味ないぜ。アイツらは根本から違う。やるなら、もっと大胆に。もっと根底からひっくり返して来る。俺の同僚だぞ? 例えば、そうだなぁ、この迷宮ごと書き換える、とか?」
マーラがそう言い終えた途端、レンジ達がいた地面が突然、崩れ、彼らはその崩壊に巻き込まれた。
「ちょっ?! どうなってるんだ!?」
レンジが落下する中、叫ぶも一方でマーラはケラケラと笑い転げながら声を上げる。
「さぁ、さぁ! 招待されるは【魔王】の根城、その片道切符! 恐れること勿れ! 現れ出でるは【第五獣魔王、極刑なるケルヌンノス】! いざや、開幕! 【魔王】殺し!」
マーラの掛け声と共に彼らは一瞬にして、崩落に巻き込まれると跡形もなく、その世界から姿を消してしまった。
始まるのは【魔王】殺し、その始まりの一手。
レンジ達の真の旅の一歩が、今、刻まれようとしていた。
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