十二話 おじさん、渋谷に挑む①
日本にて、世界で初めての顕現した迷宮ゲヘナ、それはレンジによって踏破され、全人類が迷宮に対して、大きな一歩を踏み出す楔となった。
そこから日本という国は、迷宮における先駆者となり、様々な迷宮に対処して来た。
その中で、未だに対処に追われている迷宮の一つ、それこそが【地下都市迷宮渋谷】である。
「はーい! 流星の皆! おはこんばんわ~! 星空ミリアの配信にようこそ~! 今日の配信は、ここ! 【地下都市迷宮渋谷】に潜って行こうと思います!」
迷宮配信用のカメラ型ドローンを起動させ、ミリアは自分の姿を映し出すとそれがAdventurer tube 通称A tubeの動画欄に載る。
『一コメ』
『ミリアー! おはよー!』
『この時間から【配信】感謝!』
『あれ? 【ゲヘナ】配信しないの? 楽しみだったのに』
『あそこは観光みたいなもんでしょ』
『なんか後ろにいるくね?』
『本当だ? コラボ回?』
『コラボって初めてじゃね?』
『それな、誰なのか楽しみー!』
コメントは一気に盛り上がり、【配信】の同時接続は一瞬にして、5万を超える。
【冒険者】として、そして、【配信者】としての振る舞うミリアの姿を見て、マーラはレンジに小声で喋りかけた。
「なぁ、アイツあんなキャラだったのか?」
「ミリアは、S級【冒険者】で、人気配信者なんだ。マーラ、僕がお前を殺した時とは全然時代が違うんだよ。今、迷宮の踏破は、一種の娯楽に近くなってるんだ」
「ふーん、なるほどな」
そんなやりとりをしているとミリアはレンジ達に目を向けて、ドローンで彼らの姿を映した。
「本日は何と! スペシャルゲストがいます! 今、色々な意味で話題の2人に来てもらっています! 集めるのに時間がかかって、今日まで配信止まってたけど、今日は長めにやるから、期待してね! それでは紹介しまーす! どうぞ!」
ミリアがレンジとマーラへと、腕を向けるとカメラは自動で彼らを映し出し、2人はミリアの【配信】へ出演を果たす。
「こちらの男性は肋屋chのレンジさん! 最近、TXでバズっていた【冒険者】で、実は、僕の剣の師匠です! じゃあ、一言宜しいですか?」
「え?! あ、その、はい。肋屋レンジと申します! その、本日はよろしくお願いします!」
レンジがお辞儀をする姿をカメラは映すとそれに対して、コメント欄は一瞬にして荒れた。
『誰だこのおっさん!?』
『師匠?! 師匠って言った?!』
『許せねえよ、ぽっと出の師匠キャラなんて』
『いや、動画見た時、ミリアの剣に似てるとは思ったけど、師匠だなんて』
『何でそんな事隠してんだこのおっさん』
『おっさんはいい、その横、映して』
『おっさん、クランクアップで』
『ミリアの活躍食ったら承知しねえぞ』
『批判ばっかで草』
罵倒にも近いコメントの数々を前にして、レンジは気にしていなかった。むしろ、それらは納得のいくモノであった。
(まぁ、そうだよね。ミリアの【配信】はファンがいっぱいだし、こうなることも理解していた。でも、良かった。批判されてるのが僕だけで)
一方、それに対して、ミリアは内心穏やかではなかった。
(僕の、師匠なのに。いや、みんなはまだ、実力が分かってないから仕方ない。仕方ない、けど、流石に腹が立つ。視聴者は僕の大切な人達だ。だけど、その人達が、僕の大切な人を傷つけることになるとは思ってなかった。これから師匠が力を見せれば、みんな納得するはずだ。それでも、このコメントが飛んできたのは僕の判断ミス。師匠を傷つけちゃう)
師であるレンジであれば、受け入れられると思っていたが予想に反して、視聴者の当たりは強く、ミリアの心は、落ち着けずにはいられなくなっていた。
ミリアは自身の心を落ち着けようと数秒の沈黙していたその時、マーラがドローンを鷲掴みにして、カメラのレンズに顔を近づける。
そして、真紅の瞳で、画面越しの視聴者達を見抜くかの様な視線を送りながら啖呵を切った。
「あー、視聴者諸君~、耳かっぽじってよーく聞けよ! 俺の名前は、肋屋カーマだ。これからお前らは、俺達の偉業を目撃することになる。覚悟しとけよ」
それは宣戦布告とも言える言葉でおり、コメント欄は騒然とした。
『ヤバ、コイツ』
『なんかいそうですいないタイプだった、ドキドキする』
『カーマさん、いや、カーマ様!』
『痺れるような目付きだった!』
『この感じ、何だ。この気持ちは!』
『まさか、これは!』
『恋!?』
『上のやつ24しろ』
『ルーキーのくせに威勢よすぎて草 こういう人を好きになりがちなんだよな、俺は』
コメント欄に何が書かれているのかは、ミリアしか知らない。だが、その姿を見て、ミリアの怒りはすぐに冷めて、マーラからカメラを取り上げ、普段通りの笑顔を見せながら、口を開く。
「口が悪いのは良くないぞー! でも、切り替えてこ! こちら、肋屋カーマさんです! カーマさんは歴代トップの戦績で【冒険者】になった期待のルーキー! 今日からはこの3人でパーティを組んだ迷宮【配信】を行って行くよ! それじゃあ、ミリアの【配信】、楽しんで行ってね!」
そうして締めくくると、ミリアは2人のいる方向へと歩き出した。
「カーマ、その、さっきはありがとうございます」
ミリアはカメラから離れ、視聴者に声が届かない場所でマーラに挨拶をすると彼女はそれを見て、首を傾げた。
「? 何で俺に礼なんてするんだ? 俺はやりたいことをやっただけだ」
「それでもあなたのその身勝手さに今は救われました。僕はその礼をしたまでです」
「お前って本当に律儀だな。クソ真面目。レンジに似てるよ、そういうところ」
ミリアとレンジ、2人の他者に対して真面目な性格、それに対して、マーラは調子を崩される様に感じ、少しばかり苦手意識があった。
感謝をされる様なことなど自分はしていない。それがマーラの主張であり、自分の快不快が生きる指針である彼女にとって、死んでも尚、相容れないモノ。
(まぁ、良いだろう。俺はコイツらと最後は殺し合う。他の【魔王】を殺すまで、俺の体を取り戻すまでの辛抱だ)
マーラはそう割り切るとミリアが喋っていることに耳を傾けた。
「それでは2人とも【探索】開始です! 行きましょう!」
ミリアとレンジが前を向かい、マーラは背後より、彼らの後を追う。
前を走る2人を追っていると彼らが突然、足を止めた。
「出ましたね、【渋谷】名物の人語を口にする魔物、ゴブリン」
緑色の肌に、頭にツノの生えた人型の魔物が群れをなしながら、棍棒を握り締め、レンジ達の前に待ち構えていた。
【地下都市迷宮渋谷】は日本に顕れてから【ゲヘナ】に継ぐ歴史を持った迷宮である。レンジが【ゲヘナ】を踏破後、別のチームが踏破を試みたが何故か、迷宮の一階層より、人型の魔物が跋扈したせいで、人が寄り付かなくなっていた。
「人型は慣れてないと嫌悪感とかすごいからね」
ゴブリンを前にして、レンジとミリアは一切動じず、刀を前にして、【無明一刀流】の構えを取る。
人の形をした魔物は人を殺めた様な感覚に陥るため、並大抵の【冒険者】はそこで心が折れてしまう。ただ、今、ゴブリン達の前に立つのは人間の中でも戦うことに特化した人間、2人と一体の【魔王】。
彼らは既に戦いのスイッチを入れていた。
「それじゃあ、行きましょうか。カーマ、師匠! ミリア、クランクインです!」
感想、レビューいつもありがとうございます!
嬉しくて狂喜乱舞です!
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします!
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます!




