十一話 魔王、バズる
【Parabellum】にいたはずのレンジであったが、いつの間にか、店内から外に出ていた。
「どうして、こんなことに」
そんなことをボヤき、つい先ほどの出来事を思い出す。
武具屋【Parabellum】にて、マウラに手を握られていた最中、彼女はレンジの手から彼の情報を抜き出していた。
(この人、【魔王】を殺した【英雄】じゃないか?! 何で、こんなところに? それはそうと、すごいな!? これまで会ってきた【冒険者】の中で、こんなに完成されてる人間、初めてだ)
レンジの持つ様々な記憶を読み込んでいる最中、マウラは彼の根底を見た。
死に行く仲間達、【魔王】の臣下であるバケモノとの激闘、そして、最後に残った1人は顔が見えない【魔王】との死闘を繰り広げる。
レンジの壮絶な過去を一気に読み取ると、マウラはそれらは英雄の壮絶な叙事詩の1ページであることを知った。
そして、マウラの【鑑定】の【スキル】には、レンジに伝えていないモノがある。
それは手を握った相手の能力のイメージが形として見えること。
レンジには後で、伝えて、彼の持つ能力の形を伝えてあげようとマウラは考えていたが、それは一転する。
マウラが読み進めた先、そこには巨大で禍々しい門が開かれており、その先には黒い穴があった。そこから幾つもの人間の手が伸び、それらは刀を握りしめており、加えて、こちらを飲み込もうとする触手のようなモノが伸びる異形の姿が目の前に広がった。
生物の様に、機能が纏まった形をしておらず、ただ、ひたすらに黒い穴から広がり続ける行き場を無くした怪物であるとマウラは目撃と共に感じ、思わず息を呑んでしまう。
(何だ、これ? 生物以外を見たのは、ミリアとアルベール以外で初めてだ)
黒い穴から、一つの眼がマウラを見つめており、その深淵に自身の目が奪われた途端、彼女はハッとなり、レンジの手を離した。
「大丈夫? マウラさん?」
レンジは手を握ったまま、何分も動かなくなっていたマウラが突然、手を離し、目を開くと呆然としたまま、立ち尽くす姿を見て、彼女を心配した。
「はぁ、はぁ、いや、大丈夫だ」
額には汗がびっしょりとついており、それを拭き取り、彼女は深呼吸をして、自分を何とか落ち着けようとする。
何回かの呼吸の後、マウラは紙とペンを取り出すと、そこに番号を書き、それをレンジに渡した。
「これは?」
何も説明のないまま、番号の記された紙を渡されたレンジは戸惑っているものの、マウラはそのまま背を向けて、鍛冶場へ戻ろうとしていた。
「それ、店の電話番号。あんたの刀、私が今から特注で作る。とんでもない刺激を受けた。こんなん初めてだ」
マウラはそう言うとブツブツと言いながら、姿を消してしまう。
そうして、店主がいなくなった店に居続けるのは悪いと感じたレンジは外へと出ると冒頭に至った。
ミリア達と別れてまだ、2時間ほどしか経過しておらず、レンジは時計を見ながら、マウラの心配をする。
(マウラさん、大丈夫かな? 僕なんかしちゃったのか? それなら、謝りたいんけど、さっきの眼は完全に何かに集中してる人のモノだったし、そっとしておいたほうがいいのかな。ふー、そうやるもまだまだ、【冒険者】の登録には時間かかるだろうし、どうやって過ごそうか)
そんな中、行く当てがなく、WAA【東響】本部のビルの中を歩いていると、多くの人が【スマホ】を眺めながら、声を出していた。
「スッゲェ、何だこれ」
「この子、【冒険者】登録するためにここに来たらしいよ」
「マジ?! とんでもない逸材じゃん!」
「この歳でこんなことが出来るの?!」
歓声のようなモノが所々より、上がっていて、レンジは何が起きているのを確かめようと自身の【スマホ】の画面をつけ、アプリを開いた。
そこにはよく見知った顔が写っており、レンジは唖然とする。
「え? マーラ?! 何してんの?!」
ネット記事のトップを飾っていたのはつい先程、別れたはずの【魔王】であり、記事にはこう記されている。
【冒険者】登録試験に、期待の超新星! 全ての科目で歴代記録を更新! B級【冒険者】肋屋カーマ現る!】
【冒険者】登録には、幾つかの身体測定などがあり、それらの総合得点からB級、C級、D級に別れる。
それをマーラは全て規格外の点数で突破したのか、カメラを向けられたことで、笑顔でピースサインを見せつけており、それが記事のトップを飾っていた。
(ど、どうなってんだ?! これ?! ミリアは?! ミリアは何してるの?!)
情報が追いつかず、アタフタしているとそんな彼の背中を誰かが思いっきり叩いた。
「いったぁー!!!!??!」
大声を上げ、後ろを向くとそこにはニコニコのマーラと、疲れ果てた表情をしたミリアが立っていた。
「よっ! レンジ~! 俺もなったぜ! 【冒険者】!」
マーラは発行された証明書をレンジに見せつけると、そこにはB級【冒険者】肋屋カーマと書かれている。
(あれ? もしかして、マーラ、今、僕より階級高いな?! 僕、ほぼ、審査とか受けてなくてC級だったし)
B級の文字に気を取られているとその横で疲れ果てていたミリアがため息を吐きながら口を開く。
「師匠、すみません。僕には、コイツは手に負えません」
ミリアはマーラを指差しており、レンジはその顛末を聞こうととある提案しをた。
「とりあえず、何処かカフェでも入ろうか。話はそこで聞くよ」
「今度は、レンジの奢りなー! 俺が【冒険者】になった記念で!」
機嫌がいいマーラとは対照的に疲れている2人、彼らは歩きながら、WAA【東響】本部を後にするのであった。
***
WAA【東響】本部から出て、近くのカフェでレンジはミリアからマーラの話を聞いた。
ミリアの推薦で、【冒険者】の登録手続きを済ますと、すぐに登録試験が行われ、そこでことの顛末が起きた。
マーラは一切の手を抜かず、人ならざる【魔王】としたの身体能力を存分に発揮したらしく、歴代の著名な【冒険者】達の記憶を1人で塗り替え、それが話題となり、一瞬にして記事になってしまったとのこと。
「僕、何度も言ったんです。目立ったら、今後、【魔王】を殺すのが難しくなるから程々にって。そしたら、ちゃんと返事したんですよ!? 返事したのにこの仕打ち。見てください、これ。対魔物想定のロボットですよ? これを1秒もかからず、切り落とすって、何してくれちゃってんですか?!」
動画に映るのは、マーラが【権能】を使って、一瞬にして、ロボット輪切りにする姿、それを見た、レンジも頭を抱えた。
「どうしよう。ただでさえ、ミリアと一緒に動くってなると目立つのに、マーラも今日、注目を集めちゃってる。【魔王】殺しが、とんでもなく、注目を集めちゃう可能性、あるんだよなぁ」
「いいんじゃないか、目立っても。何が問題なんだ?」
マーラはカフェで暖かいココアを注文しており、口元をそれで少し汚しながら、何故、注目するのがダメなのかを尋ねた。
「迷宮配信の問題として、近くに現場凸してくる、視聴者いたりするんだよね。【魔王】の作った迷宮にそんな人達が入ってみろ。死ぬ危険しかない」
「放っておけばいいだろう? それで死ぬのは自己責任だ」
マーラは現実を見据えた目で、レンジを見るも、それに屈することなく、真っ直ぐと視線を返す様に応えた。
「感覚の問題だ。たしかに、自己責任だよ。だけどね、それが自己だけになる時は決してない。何が原因なのか、何処に問題があったのか、人はそれが落ち着く場所、その落とし所をつけるん場所を探すんだよ。そうなると、一番に矢面に立つのはミリアで、彼女を危険に晒すことになる。それは僕は許せない」
レンジの返しに、マーラは狩人でありながら、何処か理性的な彼の思考を垣間見ると手に持っていたココアを一気に飲み干す。
「はっ! 優しい師匠様だこと。まぁ、分かったよ。これからは目立ちすぎないようにしてやる」
マーラも自身が目立つことで、目的が果たせなくなる可能性を考慮したのか、それを了承した。一方、ミリアは自分の心配をしてくれるレンジに嬉しく思うもそれを噛み殺して、彼らに向けて、声を上げた。
「それはそうと、一応、全員が【冒険者】となりました。なので、迷宮に潜れます。いよいよ、始めますか。【魔王】殺しの迷宮配信を」
その言葉に対して、2人はコクリと首を縦に振り、了承の意を示す。
彼らが向かうのは、【東響】で最も人が来ないとされている迷宮、名を【地下都市迷宮渋谷】。
彼らを待ち受けるのは破滅か、希望か?
3人での初めての迷宮攻略が、始まろうとしていた。
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