十話 おじさん、東響へ向かう
迷宮を初めて踏破した国、日本。そして、迷宮【配信】を初めて行われた国も、また、同様であった。
都市としての機能を失いかけていた【東京】は、迷宮配信を境に、大きな盛り上がりを見せると、それらを皮切りに再び発展を遂げ、今では世界で3本指に入る迷宮都市として復活を遂げていた。
名を、【東京】改めて、常に響かす東の都市、【東響】として!
ファミレスから出て、およそ1時間が経過した頃、レンジ一行は【東響】へと足を踏み入れた。
(はぁー、都会だ。うん、すごい都会。元々、こっち側で暮らしてたけど、今はやっぱり、田舎の方がゆったりしてて落ち着くな)
久々の【東響】に、レンジは都会の香りや、雰囲気に若干呑まれかけており、緊張の後の様なものが張り詰めていた。
そんな気持ちを落ち着けるためなのか、レンジはミリアへと喋りかける。
「【魔導】モーターカーってのはとんでもない速さだね。本来なら僕のいたところから【東響】駅なんて、3時間以上かかるのに」
「師匠が迷宮踏破後、【魔力】の解析が一気に進みましたからね。【魔石】の加工技術も上がって、今じゃ、何でも【魔力】頼りですよ」
【東響】駅の改札口を目指し、歩きながらレンジとミリアは喋っているを横目に、マーラは目を子どもの様にキラキラと輝かせていた。
見たことのない乗り物、更に【魔力】を使った技術体系の違いは、マーラの心を刺激された。
(すごいな、この世界の人間! 俺のいた世界は、【魔石】は武器に加工するくらい、【魔力】はただ、【魔法】を使うだけの力みたいな使い方ばかりで、面白みに欠けた使い方ばかりだった。だが、それがどうした! この世界は、【魔石】を通じて、【魔力】を別のエネルギーの代替として使用してる! この視点は他にない視点だ。いいなぁ! これが出来る国を滅ぼしたかったなぁ!)
目の輝かせ方とは裏腹に物騒な考えをしながら、レンジとミリアの後ろをマーラはついて行った。
改札の出方は先ほど教わっており、それを実行するとマーラはミリアに向けて、声をかける。
「なぁなぁ、ミリアー、【冒険者】の登録ってのはどこでするんだー?」
「WAA【東響】本部に行きます。すぐそこなので、僕に着いてきてください」
「この前の記事見て思ってたんだが、そのWAAってのは何だ?」
「WAAは|世界冒険者協会《World Adventurer Association》の略です。【冒険者】となるにはここに申請と、テストを受ける必要があります」
【東響】駅から凡そ、5分ほど歩くと、巨大なビルが立ち並ぶ中、一際目立つ場所の前で、ミリアは足を止めた。
「着きました。ここですよ」
ビルと呼ぶにはあまりにも大きく、そして、真っ黒に染まった巨大建造物をミリアは指差すと、その大きさにマーラとレンジは圧倒された。
「でっか」
「デカすぎんだろ」
「師匠はWAA【東響】本部には来たことないんでしたっけ?」
「あ、うん。そうだね。僕って迷宮黎明期から登録してたから、ここに来て何かをするってことがなかったから」
レンジが呆気に取られているとミリアはそんな彼に向けて、とある提案を持ち出した。
「なるほど。本部には色んな施設が複合されているので、師匠は本部の中にある武具屋さんにでも行ってみててください。僕がマーラを登録するまで、案内しますので」
「え?! いや、流石にでも、それは不味いよ。僕がマーラから目を離すのは、もし、アイツが何かしたら、その責任を負えなくなる訳だし」
レンジは断りを入れるもミリアは、彼の口の手前に人差し指を見せた。
「僕もパーティの一員です。なので、マーラが何かをすれば、僕も責任を取ります。なので、師匠も少しくらい、ゆっくりしてください。僕が推薦するお店なので、しっかりしてますし、そこで武器を見繕ってもらってください。師匠、趣味にお金使わないせいで、いっぱい貯金残ってしまってるんですから」
ミリアは少しだけ昔の彼女がよくしていた、悪戯な笑顔を見せるとレンジが何かを言う前に、マーラの腕を引き、ビルの中に入って行ってしまった。
「え、えぇ」
たった1人、残されたレンジは思わず、情けない声を漏らす。だが、せっかく、弟子であるミリアがあまり来ない【東響】へと連れて来る機会をくれたことを思い出すと、レンジも以前の覚悟を思い出し、そのビル内部へと足を動かした。
数十分後。
レンジは施設の地図を見ながら、ミリアが言っていた武具家に辿り着く。
黒い壁に、金色の文字で、【Parabellum】と刻まれており、如何にも高級店といった雰囲気を纏った店が、レンジの目の前にはあった。
(高級店とは思ったけど、とんでもない場所だ。こんな格好で来て良かったのかな?!)
普段通りの【冒険者】として活動する様な服装で来ていたレンジは、そんなことを考えながら、入店するかを戸惑っていると、その店の自動ドアが突然、開いた。
そこには耳には幾つものピアスと、イヤーカフをつけ、銀髪に剃り込みを入れた160センチほどの翠と青のオッドアイズを携えた女性が立っており、店前にずっと佇んでいたレンジへと声を上げる。
「入るか入らないか、どうすんだい?」
突如として話しかけられたことで、レンジはビクリと肩を揺らし、驚くもすぐに、その問いに答えた。
「あ! あの! 入ります!」
「おう、好きに見てって」
レンジは店員の女性の背後に着いていくと宝石などを置くケースが幾つもあり、赤い様々な武具が置かれていた。武具屋と聞き、武器が適当に置かれているのかと思いきや、店内は全て綺麗に纏まっており、一切の埃がない。
よく手入れされた空間は、一種の調和の様なものがもたらされており、レンジも最初に持っていた緊張感の様なものが一瞬にして、薄れ去っていた。
(すごい整ってるし、高級店だと思うんだけど、とっても心地良い。こんな空気で、武器を見れるなんて初めてだ)
店内には、先ほど自動ドアから現れた女性のみであり、彼女はレンジが店内で、武具を見る姿を見守るだけ。
武器一つ一つを見ながら、その丁寧に研がれ、美麗な刃を前にし、それが反射する様に自身の顔を映し出す。普段であれば、何故か、自分の顔を見ると嫌気がするのに、それが今は気にならない。
「おじさん、そんなにいい得物かい? それ」
声をかけられ、ハッとなったレンジは展示されていたロングソードの前で、いつの間にか30分も立っていたことに気付いた。
「ご、めん! 買わずにずっと見ちゃって。でも、すごい得物だ。見れば見るほど、良く研がれていて、これであれば何でも切り伏せられると思うし、細部にも拘っていて、匠を感じる」
レンジは興奮を抑えていたにも関わらず、普段人と話さないからなのか、いつも以上に色々なことを言ってしまった。
店員はキョトンとした顔で、レンジを見ていると、彼は急に恥ずかしくなったのか、目を地面に逸す。
「あ、その、すみません。急に色々喋っちゃって」
「あはは、いいよ。そんな風に色々言ってくれるなんて、あんまりないからな。あんた、名前は?」
「え、あ、はい。えーと、肋屋レンジです」
「肋屋? なーんか、聞いたことあるけど、まぁ、いいか! よろしくな! レンジ! 私の名前、甘乃目マウラ。ここの店主兼鍛治士をやってる」
マウラはレンジに手を出すと、彼もそれに対して、手を握り、握手を交わした。
「よろしく、甘乃目さん?」
「甘乃目じゃなくて、マウラって呼んでくれ。それはそうとおっさん、うちの店で武器買ってくよな?」
「え!? まぁ、そうだね。そのつもりでいたし」
マウラは手を握ったまま、レンジの手を離さずにいると彼はそれに対して、頭を傾げる。
「あ、あの~、マウラさん? 何で、手を離してくれないのかな?」
戸惑い混じりの言葉に、マウラは目を瞑り、笑みを見ながら、答えた。
「私ってさ~、【スキル】で【鑑定】を持ってんだよね~。手を握れば、その人間が持つ能力、趣味、その他、知り得ないいろんな情報を見ることが出来る。そこから相手にピッタリで、最高の得物を見い出せるって寸法よ」
「なるほど? それじゃあ、今、僕は勝手に情報抜かれてるのかな」
「そうとも言えるな」
あまりにも嬉しそうにするマウラに、離すのも何か相手に悪いと感じ、レンジは切り替えて、そのまま、マウラに手を握らせた。
(僕の情報に、そんな価値なんてないだろうし、まぁ、いいか)
そんな諦めの境地に達したレンジはマウラに手を握らせ、その場で鑑定が出るのを待った。
マウラが【スキル】である【鑑定】を使用し、レンジの情報を読み込ん始める。同じ時間で、WAA【東響】本部では、1人の少女が大きな話題を呼んでいることも知らずに。
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