一話 おじさん、宿敵と再会する
お久しぶりです!
この度は2年ぶりになろうに戻って参りました!
ほぼ初心者の様な物なのでお手柔らかによろしくお願いします!
「はーい! 流星の皆! おはこんばんわ~! 星空ミリアの配信にようこそ~! 今日の配信は、ここ! 最初の大迷宮ゲヘナに潜って行こうと思いまーす!」
水色の髪を靡かせ、短いパンツに、オーバーサイズの上着を羽織った女性が巧みに刀を振るう姿があった。少し大きめの星の紋様が刻まれた眼をパチリとウィンクする彼女は、誰に向けたものかは不明であるが、そんな仕草一つ一つが画面の向こうにいる人達を魅了していた。
『ミリアー!!!!』
『おはこんばんわ~!!!!』
『今日も可愛すぎて死ぬ。推しテエテエ』
泣く泣くさん10000D
『流星からのプレゼント』
『ミリア、結婚しよう』
『ミリア様ーーーー!!!! LOVE!!!!』
コメント欄は大盛り上がりで、常に最新のコメントを追えぬほどに頻繁に流れていく。
そんなミリアの姿を、自室でボンヤリと画面越しから眺める男はため息を吐きながら、彼女の活躍に眼を輝かせた。
(ミリア、こんなに大きくなっちゃって。会った時はあんなに小さかったのにな)
弟子の成長に感慨を覚えるが、ふと横に置いていた【スマホ】に目が行く。通知には、ニュースアプリの記事が並んでいた。
【速報】人気配信者・星空ミリア、同接十万人を突破!
【特集】時代は“見る冒険”へ──踏破者はもういらない?
【コラム】【配信者】の台頭で、英雄の存在価値は過去のものに
「そうだよな。今の時代、誰も英雄なんて望んじゃいない」
自分の六畳半の無駄に小綺麗な部屋にあった鏡に映る自分と目があった。
鏡に映るのは、白髪がちらほら混じった黒髪を綺麗に整えた、無精ひげの男。
かつて【伝説】とまで呼ばれた英雄の名残など、どこにも見当たらない。
迷宮に潜ることだけは、辞めずにいたお陰で、背丈に見合ったしっかりとした、体をしていたが、それでも全盛は過ぎており、肉体は限界を迎えているように感じた。
「登録者、336人か。昨日より、1人増えたね。ありがたいな」
手に持っていた【スマホ】に刻まれていた小さく浮かぶ数字を見て、肋屋レンジは苦笑する。
二十年前、彼が魔王を討ち果たし、大迷宮ゲヘナの踏破した時、世界中がその名を叫んだというのに。
だが、今、その名を知る者は、もはやほとんどおらず、誰も自分のことなど覚えてもいなかった。
「始まりは良かったな、始まりは」
レンジはそう呟くと、かつての記憶を思い返す。
魔王を討ったあの日、世界は全て自分の名を呼び、【英雄】と称え、多くの人々が、レンジという人間を賞賛した。
そんな手前、世界中で生まれた迷宮、その中を探索し、配信する活動が時代に畝りを見せると、それは大きなブームとなり、徐々に活動数を増やしたことで、【ダンジョン配信】というエンターテイメントとして、受け入れられた。
そして、流行と呼ぶ波に、レンジは乗れず、気がつけば、迷宮に潜るには動画配信が義務付けられてしまい、現在に至ってしまう。
偽善と笑われようが、関係なく、自分がいつか人類から迷宮の恐怖を取り除いてやると、息巻いて、挑んでいたあの頃の自分を激らせていた熱とは今は、もう違う。
腕が折れようが、人が死のうが、それら全てがエンタメと昇華され、盛り上がる。
人の命の価値が安くなったとも呼べる時代を、レンジは良いと思えず、時代というものに取り残されてしまっていた。
「さてさて、人気はないですが、これも仕事ですからね」
今は、田舎に現れた小さな迷宮を踏破して、魔物を倒せば偶に、落ちてくる、戦利品である【魔石】を売って小銭を稼ぐ日々。
変わり映えのしない日常を、かつて【英雄】と呼ばれた男は享受し、それに死ぬまで殉じようとした。
それで誰かにとっての脅威を取り除けるならば。
レンジが独り言を呟いた、その時だった。
碧い閃光が部屋中に走った。
突如、部屋の床に、幾何学的な紋様が浮かび上がると六畳半の床一面に、まるで焼き付けるように描かれていく巨大な魔法陣が刻まれる。
「は?! え?! なに?! なんだ…!?」
レンジが慌てて、立ち上がるより早く、魔法陣が光を放つと、部屋の空気を震わせた。
バチバチと音を立てながら、光の柱が生まれると、その中心から声が響く。
「フハハハ!! ようやく見つけたぞ、俺の宿命!」
光は弾け飛び、ようやく収まると、部屋の真ん中に立っていたのは、突如として、少女が立っていた。
背丈凡そ150センチほどで、黒髪をツインハーフに結んだ小柄な少女。真紅の瞳は燃えるように鋭く、あどけない顔立ちに似合わぬ威圧感を纏っている。
だが、その威圧感、そして、その血よりも濃い、全てを平等に侮蔑する真紅の眼、それら全てをレンジは知っていた。
「俺を殺した責任、ちゃんと取ってもらうぞ!」
ニコリと微笑む少女が放つのは自分を殺したという言葉にはにつかわない言動。
そして、その姿は間違いなく――二十年前、彼が命を懸けて討ち果たした【第六天魔王マーラ】に他ならなかった。
床にへたりと座り込んだレンジの目の前に現れたのは、少女の姿をした宿敵であった【第六天魔王マーラ】。
彼女を前にして、レンジは思わず、声を出した。
「いや、待て待て、おかしいだろう。それは」
その両目に映るのは間違いなくかつての宿敵であり、いずれ人類を滅ぼすと言い張っていた【第六天魔王】。情報が整理出来ず、パチパチと瞼を動かすレンジに対して、マーラもまた、同様に首を傾げた。
「ん、何だ? お前。俺が知ってる肋屋じゃないな? 誰だ? そんな草臥れたおじさんに俺は興味ないぞ」
草臥れたおじさんという言葉を聞き、かつての宿敵を覚えていた自分が何だか惨めな気持ちになる。だが、事実、今の自分は草臥れたおじさんという以外に評価は見つからず、それを受け入れる他なかった。
「まぁ、その草臥れたおじさんが肋屋レンジだよ。【第六天魔王マーラ】さんよ」
素直におじさんであることを認め、今の自分を彼女に認めてもらおうと自己紹介をすると、マーラはそんなレンジを見て、笑い転げ始めた。
「お、お前wwww 嘘つくなよ! 俺の知ってるレンジは、もっと眼光が鋭く光、穢れなき眼! 凡ゆる悪を断ち切らんとする天賦の才を滲ませる肉体! そして、どんな逆境でも乗り越えんとする強い意志! それら全てを兼ね備えた最高の好敵手だぞ! お前みたいな、そんな今にも燃え尽きそうなヤツが、アイツなワ、ケ、ん? オイ、待て、あの剣、何処で手に入れた?」
笑い転げていたマーラの目に映ったのは、かつての自分が使っていた剣、漆黒の刃を携えた大業物【破旬】が壁の装飾品の様に飾られていることに気付いた。
「お前を殺した時だよ」
「…………真面? え? お前、そのもしかして」
「大真面目。僕がレンジだよ。草臥れたおっさんで悪かったな」
宿敵にすら信用されなかった自分自身に、心底呆れた。一方で、マーラは先ほどまで嘲笑っていたのが嘘の様に静かになっており、妙に余所余所しい態度で、レンジに喋りかけた。
「いや、その何だ。成長したな」
そんなに関わりがなかった親戚の叔父のコミュニケーションかよ、というツッコミを心にしまうと、それは一旦置いておいて、マーラとの会話を再開した。
「まぁ、二十年も経てば、人間はこんなもんだぞ」
「そ、そうか。そうなのか。なんかその、すまんな、さっきは」
気不味い空気が流れ始め、お互いがどうしたものかとなった頃、レンジはふと、冷静になり、この状況の違和感に気づいた。
「お前、何でここに居るんだ?」
その至極真っ当な疑問に、気不味そうにしていたマーラも、ハッとした。そして、ようやく自分のペースを取り戻せそうな機会が割り与えられたことで、気を取り直して、不敵に笑みを浮かべながら、声を上げる。
「そうだな! それを伝えねばな! 俺がここに居る理由? そんなの簡単だ! レンジ、俺と一緒に他の【魔王】を殺すぞ!」
「……は?」
他の【魔王】を殺す、という言葉、それに対して、レンジは大きく引っ掛かり、困惑の声を漏らした。
「いや、待て待て。他の【魔王】っていうのは、お前以外にも【魔王】はいるのか?」
「ん? そんなに変か? 俺は名乗っただろう第六天魔王と」
「あー、なる、ほど。まぁ、そうか。そう言う捉え方も出来るよな。いや、この国では第六天魔王ってのはな、特定の個人を指すというか、1人に向けて言うから、こう、難しいな説明が」
第六天魔王の説明にレンジは困っていると、そんなことをお構い無しにとマーラは自分の目的を伝えようと喋り出した。
「そんなことはどうでもいいんだよ。お前は、俺と他の魔王を殺してくれれば」
「……待て待て。ちょっと待て。知らない情報がいっぱいだ。整理できないし、それと今、お前が復活したってのと、何の関係があるんだ?」
レンジが問いばかり投げるからか、マーラはため息を吐くも、すぐに切り替え、それらに対しても丁寧に答えた。
「俺は第六天魔王、それでいて、最強の【魔王】だったんだよ。【第六天魔王、空絶のマーラ】。それが俺だ。まぁ、俺との関係は、端的に言うと奴らは俺の死体を依代にして、この世界に顕現してるってところだな」
「お前の死体を依代に? 僕が殺した時に、お前の死体は燃やせなかったから海底に封印して、誰も触れられない様にしたんだぞ? それをどうやって使うって言うんだ?」
「レンジ、お前、察しが悪くなったな。俺と同じく魔王を名乗ってる怪物だぞ? それくらい簡単に決まってるだろう?」
マーラが自信満々に言うと、レンジはそれに対して、納得せざるを得なかった。
何故なら、かつて圧倒的な理不尽を押し付けて来た宿敵であるマーラの言葉であったがため。
そこには互いに妙な信用があり、それは一度、殺し合いをした仲だからこそ通じ合えたモノでもあった。
「だからな、レンジ。俺と組んで【魔王】を殺そう! そして、もう一度、世界にお前の名を轟かせるぞ!」
マーラはレンジに、自分と手を組めと手を伸ばす。
だが、それですぐに手を取るほど、レンジの判断は甘くない。
「マーラ、何でお前は仲間の【魔王】達を殺そうとしてるんだ? おかしくないか? 仲間なんだろう? ソイツらは。なら、何で殺すんだ?」
レンジは既に事態を冷静に把握し始めており、マーラの言葉に嘘はないが、自分に意図して隠している部分が多いことに気付いていた。
その問いに、マーラは流石、自分を殺した男であると内心、喜ぶもそれとは別にして、やれやれといった様子で答えた。
「あはは、言葉のあやにも気付くなんて、全然、察しが良いじゃないか。むしろ、察しが悪いフリして、俺から情報を引き出してたな? 流石だよ、レンジ。ちゃんと、俺を【魔王】として、見てくれている。こんな形なのに、一度も警戒心を解かず、今、直ぐにでもそこにある刀を取りに行こうとしてる。俺は、そんなお前が好きだ、レンジ」
レンジは直ぐに自分の得物である刀を取りに行きたいが、マーラから背を向けると言う行為自体が、死に直結することを知っていた。
だからこそ、会話を続けてその機を窺っていたが、その動きをマーラは見抜いており、彼に向けて再び口を開く。
「あー、理由を喋る前に、もうそろそろ始まるな。レンジ、準備しろよ。俺がここに顕現したことを察知した奴らが動き出した。この部屋の真下に迷宮が顕現する」
「は? お前、何、言って」
マーラがニッと微笑むと、レンジの言葉を遮る様に、彼らのいた部屋が揺れ始め、次の瞬間、漆黒の穴が2人を飲み込んだ。
この物語は、再び魔王を殺すための物語。そして、かつて、英雄と呼ばれていた男、肋屋レンジの後日譚。
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