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これは恋の物語ではない

作者: 猫屋犬彦
掲載日:2025/10/19

「先生、好き。結婚して」

 咲夜は美しい少女だった。

「味噌汁で顔を洗って出直して来なさい」

 甘居の対応はにべも無い。

 正しく塩対応だ。

 挨拶代わりの求婚。

 勿論大人として断る。

 教師として断る。

「先生が二十年若かったらな」

 やんわりと遠回しに断る。

「嫌よ。私は年下は嫌いなの」

 これは恋ではない。

 思春期特有のものだ。

 周りの同世代が子供に見えて、身近な大人が素敵に見える。

「おじさんを誂うんじゃありません」

 そんな日頃の遣り取りは周知の事実である。

 周りの皆は生暖かい目で見守っている。

 甘居は基本的に年下は趣味ではない。

 なので咲夜にいくらアプローチされても食指は動かない。

 しかし学年主任から生徒とは適切な距離を保ちなさいと説教をされる。

 理不尽である。

 何故自分がこんな目に遭うのか。

 そうボヤきながら甘居は下校時間になった校舎を歩く。

 各教室の見回りをしているのだ。

「誰だ?」

 ある空き教室に入る。

 夕焼け空を背景に人影を見つける。

 逢魔が時。

 部活動に励む者達ももう下校準備をしている時間帯。

 赤紫青黒のグラデーションを背景にして、その女が衣服を脱ぎ捨てる。

「先生、もう私我慢出来ないの」

 卒業まであと少しだ。

 甘居とは離れ離れになってしまう。

 今のうちに勝負をかけねばならない。

 顔にも身体にも自信があった。

 街中でスカウトを受けたりもする。

 こんな美少女が誘っているのだ。

 ぐらつかない男等居ないはずである。

「目を閉じて」

 近付いてきた甘居が咲夜の肩を掴む。

「うひひっ」

 変な声が出た。

 女学生が出して良い鳴き声ではない。

 咲夜は緊張しつつも何処か期待を込めた表情をしている。

 目を閉じて、唇を窄めて突き出す。

 ファーストキスだ。

 甘居は勿論―――

「あいたっ」

 ペシリと咲夜の額を叩く。

「お前さんは俺の人生を終わらせるつもりか?」

 脱ぎ捨てられたブラウスやスカートを着せて超特急でボタンを閉める甘居。

 拒絶された事よりも、女の服を着せる事に慣れている事に苛立つ。

 甘居には以前、交際していた女教師が居たからだ。

「先生、私、絶対諦めないからね」

 咲夜は今回は諦めて衣服を正す。

「先生と私は前世から結ばれる事が決まってるの」

「はいはい」

 甘居は溜め息を吐き出しながら咲夜をせっつく。

 早く追い出さねばならない。

「暗いから気をつけて帰れよ」

「送ってってよー」

 甘居は背を見せてヒラヒラと手を振る。

 つれないにも程がある。

「本当は私の事が好きな癖に」

 咲夜は思い出していた。

 幼い子供の時分。

 ボールを追いかけていたのか猫を追いかけていたのか。

 道路に飛び出した。

 迫る車。

 クラクションと急ブレーキの甲高い不協和音。

 ⋯⋯⋯その時、学生が一人飛び出して来た。

 結果、咲夜は助かった。

 その学生も助かった。

 だが学生は生死の境を彷徨った。

 両親揃って病院にお見舞いに行く。

 泣き腫らした学生の母親の恨みがましい目。

 管に繋がれた学生。

 咲夜は祈った。

「これからいっしょうかけてつぐないます。おにいちゃんをたすけてください」

 咲夜の祈りが通じたのか。

 それとも医療技術が高かったからか。

 学生の生命力が強かったからか。

 学生は目を覚ました。

 泣きながら謝る咲夜に学生は言う。

「無事で良かった」

 堕ちた。

 その笑顔で堕ちたのだ。

 咲夜は学生のお嫁さんになる事を決めた。

 それに命がけで自分を救ったと云う事は、きっとおにいちゃんも自分を好きに違いない。

 学生には当時付き合っていた恋人が居た。

 許せなかった。

 その恋人の後を着け家を特定した。

 父親の剃刀の刃を郵便ポストに入れた。

 車に轢かれた猫の死体も頑張ってポストに入れた。

 犬の糞を拾ってポストに入れた。

 繰り返してるうちに、その恋人の家族は引っ越していた。

「おにいちゃんをわるいむしからまもらないと」

 咲夜は学生に張り付いた。

 学生と仲の良い女学生が居れば付き纏い、家を特定し、郵便ポストにゴキブリを詰めた袋を入れた。

 そんな感じに過ごした。

 学生は先生となった。

 親にごねてごねて転校させて貰った。

 転校してみると、とある女教師と懇ろになっていたおにいちゃん。

 その女教師は幸運にも咲夜の担任だった。

 咲夜は頑張った。

 エキセントリックな言動を繰り返し、周りを扇動し、弱味を握り、勿論家も特定した。

 頑張って悪い虫を追い出した。

「あーあ、あと少しだったのに」

 咲夜は自身の豊かな胸を持ち上げる。

「こんな美少女に何故手を出さないのかしら?」

 前世からきっと結ばれる約束をしていたのだ。

「今度こそ、きっと振り向かせてみせる」

 頑張り屋さんの咲夜はぐっと拳を握り込む。

「先生好き。結婚して」

 毎朝繰り返される挨拶。

「あ、俺今度見合いするんだ」

 甘居が事も無げに言う。

「親が孫見せろって五月蝿いんだよ」

「そうなんだ?」

「だから残念だったな。先生とはもう結婚できましぇーん」

 先生がベロベロバーと咲夜を煽る。

「さて、くだらない事言ってないで、期末近いぞ期末〜」

「ぶー。私は本気なのにー」

 咲夜は記憶を手繰り寄せる。

 先生の実家は知っている。

 余計な事をするな。

 許せない。

 許せない。

 許せない。

 先生の御実家は今時珍しい由緒正しい木造家屋。

 とても、良く、燃えそうだ。

「先生〜結婚してぇ〜ん」

 しなを作って誘惑してみる。

「十年早いわ」

「あいた」

 ペシリとデコピン。

「頭を撫でてよ〜」

「デカい図体で何言ってやがる」

 甘居は事故の後遺症なのか、余り身長が伸びていない。

 咲夜は年齢の割には発育がとても良く、背丈なら甘居を超えている。

 力尽くならきっと最後までヤれそうだ。

 でもそれは理想ではない。

 頭を撫でて欲しい。

 いつまでもおにいちゃんで居て欲しいのに。

「先生のプロポーズ予約しとくね」

「完売してる。残念だったな」

 共に学校へ向かうこの瞬間が、咲夜はとても好きだった。

オッサンに少女がラブ光線放ちまくるオッサンドリーム小説と見せかけて人生かけてストーキングする女に付き纏われているサイコホラーでした。酒飲むと変なテンションで変な話が降りて来ます。

とっぴんぱらりのぷう

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