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心の星  作者: 深織
3/9

「仲良くなりたい」

「ほのか!」


いつも通り授業を受けて帰ろうとした時、私は教室のドアから呼ばれた。


まだ教室に残っていた人がそっちを見る。


一部の女子は途端に目を輝かせた。


「あ、さつき」


「ほのか、帰ろ。今日俺部活ない」


頷きかけた時、聞き慣れた黄色い声が飛ぶ。


「颯樹先輩じゃん!見られてラッキー!」


「ほんと、まじかっこいい」


さつき、羽田颯樹は高2の幼馴染。


幼稚園くらいからの知り合いでずっと仲良くしている。


小学校の時はそうでもなかったのに、中学、高校とだんだん背も伸びて、幼さは消え、いつのまにかイケメンと呼ばれる部類の人間になっていた。


当然いろんな女の子から告白されているらしいが、なぜだか全て断っているとか。


かく言う私は慣れているせいで何も思わないけど。


「いいよ、帰ろ」


私たちは連れ立って歩いた。


その後ろ姿を複雑そうに見つめる存在に気づかずに。


「もう、さつき、目立つから教室まで来ないでって言ってるじゃん」


「まあまあ」


「サッカー部のスケジュール知ってるから来なくてもオフの日は待ってるから」


「いいじゃん。…行かないと半分意味ないし」


颯樹は後半ぼそぼそと呟くように言った。


そのせいで聞き取れない。


「え?」


「何でもない!とにかくこれからも行くから」


「…分かったよ」


半ば諦めたように私は言う。


「ほんとは毎日一緒に帰れたらいいんだけどな」


「高校生にもなって毎日一緒には帰らないでしょ?部活あると時間合わないし」


「そっかぁ」


私が高校に入った頃からだっただろうか。


颯樹が過保護になった。


もともと優しい性格だけど最近それに心配性が増えた。


理由は知らない。


そんなこんなのうちに家の前。


「またな」


「じゃあね」




翌日。


「おはよ、灯」


「あ、おはよー凛凪」


「灯、今日の数学の宿題やった?私今日当たるの!」


「はいはい、これ」


「ありがと!!ほんとに灯には頭が上がらない笑」


凛凪、戸塚凛凪は私の親友。


私は人間関係は広く浅くがモットーだから親友とかはあまりいないけど、凛凪は中学の時から一緒だから仲がいい。


生まれつき少し茶色がかった髪を肩くらいの長さに揃えてて綺麗系の美人…なのにちょっとばかり頭が弱い。


そんなとこも可愛いからいいんだけど。


凛凪の席は私の前。


凛凪はいそいそと宿題を写し始めた。


私はそれを覗き込む。


「ほのか、おはよう」


突然耳に入ってくる私の名前。


声の元に目を向けると教室のドアからこっちに向かってくる湊人がいた。


「おはよ」


思わず小声になったが湊人には届いたのか、笑う。


湊人はそのまま席にカバンを置くと私と凛凪の方に来た。


「あ、昨日の、えっと宵野…湊人くん?」


「うん。そっちは?」


「私は戸塚凛凪。灯の親友」


凛凪に親友って言ってもらえて私は内心喜ぶ。


「よろしく。で、何してるの?」


「数学の宿題、灯のを写させてもらってる」


「そうなんだ」


「終わったー!ありがとほのか」


「よかった」


「そいえば!昨日もまた、さつき先輩と帰ったんでしょ?!」


「そうだけど、」


「ね、なんかあった??」


「え、なんで?」


「だってさつき先輩、絶対灯のこと好きだよ!」


私はまたか、と思った。


「その、さつき…先輩って…?」


湊人が聞いた。


意外にも真剣な感じで。


私が答えるより先に、顔を輝かせて凛凪が話した。


「さつき先輩は灯の幼馴染だよ!うちの高校の高2。サッカー部エースのイケメンでファンは多数。ちなみに部活のない日は灯守るために一緒に帰る紳士」


「守るためっていうか私が危なっかしいって思ってるからで。別に紳士じゃない!」


「ふうん」


聞いたはずの湊人は興味をなくしたようだった。


「でさ、私が知ってる限りでもうちらが中学入った時から一緒に帰ってんじゃん、それ、絶対好きだって」


「だから、それは幼馴染だからで」


「親には反抗期なのに幼馴染とは昔と同じように仲良し、とかある?普通」


「それは、…わかんない」


「でしょ、ほらやっぱり」


「わかった、わかったから」


これじゃ、終わらない。


私は面倒になって無理やり話を切り上げた。


それに教室にはもうだいぶ人が来ている。


「ほんとにー?」


納得していなさそうな凛凪を押し戻して私は席についた。




その日の帰り。


「ね、ほのか、今日、一緒に帰らない?」


湊人が急に聞いてくる。


「…えっ?」


「俺、まだここらへん慣れてないし」


そういうことか。


今日はサッカー部のオフじゃないから颯樹来ないし。


それなら。


「そういうことなら、い…」


「それにもっとほのかと仲良くなりたい」


「…えっ?」


「だめ?」


湊人が寂しそうな顔をして聞く。


「いいけど…」


思わず頷いてしまった。


「よかった」


湊人は幸せそうに微笑む。


そういう顔は、ずるい。


けど、そんな湊人を見ていると私も笑ってしまった。


その時。


「ほのか!」


颯樹の声だった。


今日は部活のはずなのに、どうして。


「ちょっと待ってて」


私は湊人に言い残して颯樹のところに行った。


「ほのか、今日部活なくなったから一緒に帰ろ」


「今日はちょっと…」


言いながら私は軽く振り返って湊人の方を窺う。


すると湊人はこっちを見ていて目が合うとどうぞというようなジェスチャーをした。


その顔は心なしか悲しそうに見えた。


湊人の様子を見て決めた。


「今日は、先約があるから、別でもいい?ごめんね」


颯樹は私の視線の先を見て、束の間、目を見張る。


すぐに笑顔に戻る。


「あ、そっか。急だったもんね。じゃ、気をつけて」


「うん、じゃあね」


私は颯樹と別れて湊人の方へ向かった。


見ると、湊人は驚いたように私を見ている。


「先輩と、帰らないの?」


「今日は湊人くんの方が先に約束したでしょ?だから」


「…ありがとう」


湊人は何故だか少し俯いて呟いた。その声は少し嬉しそうな気がした。




私と湊人はそれからしばらくして学校を出た。


聞くと湊人の家はこの街の中でも栄えている地域で、私の家に近かった。


「ここら辺から結構おしゃれなお店が増えて、たまにテレビとかもくるんだよ」


「そうなんだ、見たことあるかな」


そんな大したことない話をしながら私は別のところに気を取られていた。


お洒落な通りには街に比例したようにお洒落な女の人や垢抜けた女子高生がいた。


湊人は、綺麗だ。


男の人に「綺麗」は変かもしれないけど、モデルと言われても違和感ないほどに。


そんな人が歩いているから、周りの目を引く。


さっきから彼女らが遠巻きに私たち、正確にいえば湊人を見ながら噂していた。


「あの人、かっこよくない?隣の彼女かな?」


「えー、羨ましい。あんな人彼氏だったら幸せだろうな〜」


私の容姿は普通だ。


髪は背中の中間までの黒髪を下ろしているだけだし、顔だってよくある一般的な顔だと思う。


そんな見た目の私が整った容姿の彼の隣にいるのが少しばかり申し訳なくなった。


一方隣の湊人は慣れているのか、気にしている様子はない。


この時私は湊人がほっとしたような、それでいて照れたような表情だったことに気づかなかった。




「ありがと、この辺でいいよ。俺こっちだし。ほのか、逆でしょ?」


「うん。じゃあ、また明日ね」


「また明日」


そう言って私たちは家近くの交差点で別れた。


「ただいま、お母さん」


「おかえり灯」


「私今日、ご飯作るよ。たまには休んでよ」


「あら、ありがとう」


うちはお父さんが単身赴任中で今はお母さんと二人暮らし。


私はまだ子供で、お母さんにたくさん負担をかけてしまっている。


だから、これくらいは。


「そういえば、お父さんは?今週帰ってくるんでしょ?」


「あー、それがね、仕事が立て込んじゃってて帰ってこれないらしいの。最近、連絡あんまり取れないし」


「そっかぁ」


私は軽く不安が胸に渦巻いたが無視した。

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