7 美味しい食事と仕事
法務庁通いも数日経つと、この生活にも慣れてきた。
旧ローゼンタール邸の厨房は朝から活気に満ちている。
オットーが腕まくりをして巨大な鍋を振るい、香草の香りがあたりに漂う。
「今日のランチボックスは三段重ねだ。殿下たちが昼に笑顔を見せる保証はするが、クラウスの言う通り、味の保証はしないぞ」
初日にクラウスがそんなことを真顔で言っていたのを思い出し、アウレリウスはまだ首を傾げていた。
オットーの料理はいつも絶品なので、どうしてこうも自信がないのか不思議である。
が、フランツが横から言う。
「それはねぇ、“美味しすぎて卒倒しちゃうゾ⭐︎ って意味なんですよぉ。さすがオットーさんってとこですねぇ」
観察力に自信のあるアウレリウスも、この男たちの真意が全く読めなかったが、横に立つぽやんとした男は理解していたのかと唖然とした。
(フランツ……侮れない男かもしれない)
◇◇◇
法務庁舎では淡々と仕事が進んだ。
マティアスが用意した案件は、徐々に実務的なものになっていった。
登記課では、実際の境界紛争の記録を閲覧し、和解と調停に至るまでの手続きを学ぶ。
商事局では、新しい港湾使用料システム導入後の統計データを見せられ、その効果測定を議論する。
法制委員会では、市民からの投書をもとに草案の文言調整を担当させられた。
エドワードは文面を滑らかにしながら、どの部分が誤解を生みやすいか指摘し、マティアスが感心する。
一方アウレリウスは、現場の書記官たちの小さな会話や、議論の熱量の差に耳を澄まし、国全体の気質を掴もうとした。
◇◇◇
昼食時、オットーのランチボックスを開けたエドワードがふっと笑う。
「……クラウスの言うことは当たっていたな。味の保証はなかったが、想像以上だったという意味でな」
フランツがにこにこと頷き、
「卒倒するほど美味しい、って言ったじゃないですかぁ」
エドワードもアウレリウスも返す言葉を失い、ただ食べることに専念した。
午後の作業も滞りなく終え、1日の終わりには、二人の中に少しずつ「仕事を任される」という感覚が芽生え始めていた。




