表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/58

7 美味しい食事と仕事

 法務庁通いも数日経つと、この生活にも慣れてきた。

 旧ローゼンタール邸の厨房は朝から活気に満ちている。

 オットーが腕まくりをして巨大な鍋を振るい、香草の香りがあたりに漂う。


「今日のランチボックスは三段重ねだ。殿下たちが昼に笑顔を見せる保証はするが、クラウスの言う通り、味の保証はしないぞ」


 初日にクラウスがそんなことを真顔で言っていたのを思い出し、アウレリウスはまだ首を傾げていた。

 オットーの料理はいつも絶品なので、どうしてこうも自信がないのか不思議である。

 が、フランツが横から言う。


「それはねぇ、“美味しすぎて卒倒しちゃうゾ⭐︎ って意味なんですよぉ。さすがオットーさんってとこですねぇ」


 観察力に自信のあるアウレリウスも、この男たちの真意が全く読めなかったが、横に立つぽやんとした男は理解していたのかと唖然とした。

(フランツ……侮れない男かもしれない)


◇◇◇


 法務庁舎では淡々と仕事が進んだ。

 マティアスが用意した案件は、徐々に実務的なものになっていった。

 登記課では、実際の境界紛争の記録を閲覧し、和解と調停に至るまでの手続きを学ぶ。

 商事局では、新しい港湾使用料システム導入後の統計データを見せられ、その効果測定を議論する。

 法制委員会では、市民からの投書をもとに草案の文言調整を担当させられた。


 エドワードは文面を滑らかにしながら、どの部分が誤解を生みやすいか指摘し、マティアスが感心する。

 一方アウレリウスは、現場の書記官たちの小さな会話や、議論の熱量の差に耳を澄まし、国全体の気質を掴もうとした。


◇◇◇


 昼食時、オットーのランチボックスを開けたエドワードがふっと笑う。


「……クラウスの言うことは当たっていたな。味の保証はなかったが、想像以上だったという意味でな」


 フランツがにこにこと頷き、

「卒倒するほど美味しい、って言ったじゃないですかぁ」


 エドワードもアウレリウスも返す言葉を失い、ただ食べることに専念した。


 午後の作業も滞りなく終え、1日の終わりには、二人の中に少しずつ「仕事を任される」という感覚が芽生え始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ