58 最終話
季節は穏やかな陽光に包まれ、王都全体が祝祭の空気に満ちていた。
王女オクタヴィア殿下とリリエンタール小侯爵アウレリウス様の結婚式──それは単なる王族の婚礼ではなく、王国と侯国、そして戦禍を乗り越えた人々の絆を象徴する式として準備された。
王宮の大聖堂に鳴り響く鐘の音。
参列者の中には各国の大使や侯国の重鎮、王国の騎士団、白き契約の会の代表ヨハンの姿もあった。魔術結界の再構築を終えた彼らが、今度は祝福の守りを施していた。
長いヴェールをなびかせて歩むオクタヴィアの姿に、会場からは息を呑むような静寂が広がる。
アウレリウスは一礼し、その手を取った。
◇◇◇
誓いの言葉が交わされ、荘厳な音楽とともに二人が並び立つ。
祝砲が王都の空に響き、群衆から歓声が上がった。
一連の戦争は、王国と侯国の勝利、ヴァルハラ帝国の撤退をもって終結し、魔術研究の再興や新法令の草案が進められ、王国には新しい時代の息吹が満ちていた。
エドワードは第三者監察院の後継者としての役割を担い、ギルベルトは竜騎兵団と連携した騎士団再編に携わり、クレメンスは貿易を通じて王国の繁栄に寄与した。
そして、物語は未来へ
婚礼の夜、オクタヴィアは離宮のバルコニーから王都の灯りを見下ろしながら微笑んだ。
隣に立つアウレリウスの手には、かつて彼女が「わたしだけのお姫様になってください」と言われたときと同じ温もりがある。
この日を境に、王国は新しい繁栄の時代へと進んでいく。
だが、その陰でまた新たな物語が生まれようとしていることを、この時はまだ誰も知らない。




