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51 帰還

旧ローゼンタール邸、夕刻。

 

 一瞬、空気が震えた。次の瞬間、まるで深い湖に投げ込まれた石が波紋を広げるように、空間が歪み――アウレリウス、オクタヴィア、そして白いローブを纏ったヨハンが、光の粒とともに突然現れた。


 使用人たちの悲鳴と歓声が入り混じる。護衛たちは咄嗟に剣を抜きかけ――だがすぐに、そこに立っている人物を見て動きを止めた。


「……殿下!?」

「アウレリウス様!?」


誰かの叫びが響く。


◇◇◇


「アウル! 姉上!!」


 息を切らし、エドワードが駆け込んできた。彼は走りながら叫び、駆け寄るなりアウレリウスの肩をぽこぽこと叩いた。


「この! 愚か者! ばか! 名前負け野郎!!」


「ご、ごめん……」

 肩をすくめるアウレリウス。だが次の瞬間、エドワードはその場に膝をつき、両手で顔を覆った。


「……良かった……良かった……」


 震える声が広間に響く。


◇◇◇


 マルタが目頭を押さえながら「まったく、この子たちは……!」と叫び、オットーはいつもの調子で「今夜は祝いの宴だな!」と厨房へ駆けていった。クラウスは深い息を吐き、しかしその口元にはわずかに安堵の笑みが浮かんでいた。


 アウレリウスはそんな彼らの声を背に、そっとオクタヴィアに目をやった。彼女は優雅な微笑みを浮かべたまま、だがその耳はほんのり赤い。


◇◇◇



 広間の片隅、急ごしらえの作戦室に地図が広げられ、エドワード、アウレリウス、オクタヴィア、ジークフリート、エミール、バルタザール、マティアス、そしてヨハンが揃った。


 ジークフリートは軍服の袖を軽くまくり、険しい表情で侯国全土の地図を指差した。

「帝国は侯国の北端に軍を集結させている。兵站線も整備されつつある。開戦は時間の問題だ」


 エミールは涼しい顔で扇を広げ、落ち着いた声で続ける。

「でも、オクタヴィア様を害そうとしたことで侯国も王国も黙っていられないわ。帝国はやり方を間違えたのよ」

 まるで舞台役者のような所作だったが、彼の目は鋭く光っていた。



 バルタザールが低い声で告げる。

「王国軍はすでに国境付近に展開を開始しました。侯国軍も竜騎兵団を中心に帝国側へ牽制を行います」


 マティアスは眼鏡を押し上げ、報告書を手渡す。

「法務庁舎も全面的に協力体制に入ります。補給路の確保、民間避難計画も同時に進めています」


 ヨハンが白いローブの袖を払って進み出た。

「白き契約の会は、これまで争いに関与することを避けてきました。しかし、帝国が王国と侯国を脅かすならば、もはや黙ってはいられません。かつて王国にあった魔術の叡智は、我らにとっても聖域です。帝国の手には絶対に渡させない」


 彼の瞳は炎のように燃えており、場にいた誰もがその熱量に圧倒された。


 オクタヴィアが小さく頷き、議論を引き取る。

「では、侯国と王国、そして白き契約の会の三者で帝国を迎え撃ちます。ここにいる全員で」


 地図の上に置かれたコマが、一つずつ帝国に向けて動かされていった。

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