47 森の奥へ
アウレリウスは息を呑んだ。
ローブの人物が一歩、廃墟の影に足を踏み入れる――その瞬間、空気がぐにゃりと歪んだ。
まるで世界そのものが捻じ曲がったかのような感覚に、アウレリウスは吐き気を堪えながら歯を食いしばる。
「お待ちを……!」
必死で声を張る。
だが、ローブの人物は悠然と歩いているようにしか見えないのに、全力で走らなければ置いていかれそうだった。
木々の影がねじれ、地平線が崩れ、森が異様な静寂に沈んでいく。
汗が首筋を伝い落ちても、アウレリウスは止まらなかった。
「オクタヴィア殿下……!」
彼の胸にあるのは恐怖ではない。必死の祈りだった。
◇◇◇
一方で、彼が突然森から消えたことで、騎士たちは騒然となった。
「アウレリウス様が……いない!?」
斥候が必死に周囲を駆け回る。ギルベルトとカールもすぐさま捜索に乗り出したが、影も形もない。
夕日が森を赤く染め、ついに夜が迫る頃――ギルベルトは歯を食いしばり、撤退の判断を下す。
「旧ローゼンタール邸に戻る。報告だ」
その声には、彼自身の焦りと悔しさが滲んでいた。
◇◇◇
旧ローゼンタール邸。
緊張した面持ちのギルベルトが、跪いて報告する。
「――申し訳ございません。アウレリウス殿を……見失いました」
エドワードの瞳が大きく見開かれ、次の瞬間、彼の手がギルベルトの頬を打った。
「僕も捜索に出る!!」
「それはなりません! 殿下!」
「誰か、鎧を持て! 僕は行くと言っている!!」
「殿下!! おやめください殿下!!」
邸内は大混乱に陥り、使用人たちも次々と駆け回る。
エドワードの目は怒りと焦燥で真っ赤に燃えていた。




