43 限界
旧ローゼンタール邸・執務室。
エドワードの前にアウレリウスが跪いた。いつも通りの穏やかな表情はそこにはなく、押し殺した感情が声の端々に滲んでいた。
「殿下……どうか、私を、オクタヴィア殿下の捜索に加えてください」
床に額がつくほど深々と頭を下げる。
その姿に部屋にいた全員が息を呑んだ。
「アウル……」エドワードは椅子から立ち上がり、困惑したように眉を寄せる。「君がそんな顔をするのは初めてだ」
アウレリウスは顔を上げない。
「殿下、私の立場は理解しています。命令に背けば、殿下の侍従としても、第三者監察院の人間としても、あるまじき行為です。それでも――」
声が震えた。
「彼女を危険に晒したまま、ただ待っているなど、もう私には耐えられません」
沈黙が落ちた。
やがてエドワードが大きく息を吐くと、ギルベルトとカールを振り返った。
「……お前たち、アウルを守れ。彼を絶対に死なせるな」
ギルベルトは爽やかに笑い、胸に手を当てた。
「任せてください。殿下も、オクタヴィア殿下も、アウレリウス殿も――俺たちが守ります」
カールも無言で頷き、剣の柄に手をかけた。
その仕草だけで、この任務にかける覚悟が伝わってきた。




