42 第三者監察院の調査員
旧ローゼンタール邸、深夜。
アウレリウスの部屋の扉が、ためらいがちな三度のノックで叩かれた。
「……入れ」
現れたのは第三者監察院のレオン、ハンナ、グスタフ。昼間の調査班だ。
「アウレリウス様、夜分恐れ入ります」
眼鏡のレオンが、どこか申し訳なさそうに口を開いた。
「構わない。何か進展があったのか」
レオンは一度、言葉を選ぶように唇を結び、それから続けた。
「……いえ、進展といえるほどのものかどうか。 正直、自信はありません。ただ――侯国の森の奥に、打ち捨てられた古い建物を見つけました」
「廃墟なら珍しくないだろう」
グスタフが頷く。「ええ。実際、何もなかったんです。物も、人も、痕跡すら。我々だけでなく竜騎兵団の方々も調査し、何もないと判断されました」
「でもね」ハンナが少し声を潜めた。「魔術の気配が、ほんの少し。気のせいかもしれないくらい薄いの。だからすぐには報告しなかったのよ。無関係かもしれないし」
アウレリウスは腕を組んだまま黙って三人を見た。
「でも……これ以上手がかりがない今、もしかしたら役に立つかもって」ハンナが言葉を探すように続けた。「きっと無駄足になると思うけど、念のため、ね」
レオンが小さく頷き、地図を広げる。指で印をつけながら、「本当に……本当に大した情報ではないんです。ですが、見落としが許されない状況でもありますし……」と、歯切れの悪い声で言った。
アウレリウスは地図を覗き込み、しばし黙考した。
手がかりが欲しいのは誰よりも彼自身だった。
「……わかった。指揮官に伝える」
その声には、わずかな希望と、深い焦燥が滲んでいた。




