40 急報
作戦本部 ― 急報
リューネブルク侯国の作戦本部。
夜半の緊張はさらに増していた。
制圧完了の知らせが届くやいなや、エドワードは立ち上がりかけた。だが次の報告が彼を凍りつかせた。
「……姉上がいない……?」
伝令の兵士は鎧の肩で息を切らし、顔色を真っ青にして頷いた。
「敵兵は完全に制圧しました。しかし、殿下は……現場にいらっしゃいませんでした。帝国兵たちですら、連れ去られた経緯を知らぬようです!」
部屋の空気が一瞬にして重くなった。
◇◇◇
ジークリート団長は静かに地図の上に手を置き、低い声で言った。
「殿下を連れ去ったのは……別の部隊か。帝国の中でも、何か食い違いが起きているのかもしれん」
エミール副官は扇をひらりと開き、沈痛な面持ちで言った。
「帝国の連中も混乱していましたわ。指揮系統が分裂している可能性が高いですわね」
エドワードは地図を見据えながら唇を噛んだ。
その肩にアウレリウスが手を置く。
「殿下、今は感情ではなく理性で動かねばなりません」
エドワードは頷き、声を震わせながらも命じた。
「……残りの帝国兵を徹底的に洗え。手がかりは必ずあるはずだ」
◇◇◇
ジークリートは部下に向かい、力強く命令を下した。
「竜騎兵団全隊、捜索網を広げろ! 街の隅から隅までだ! 一匹たりとも逃すな!」
エミールも扇を閉じ、表情を引き締める。
「わたくしも出ますわ。必ず殿下を取り戻します」
エドワードは無言のまま、拳を強く握りしめた。
アウレリウスの胸には焦りと恐怖が渦巻いていたが、彼は必死にそれを押し殺し、冷静さを保とうとしていた。




