4 王女からの手紙
夕食を終え、自室に戻ったアウレリウスは、旅の疲れがどっと押し寄せるのを感じていた。窓の外ではアルトフェンの夜の街灯がぼんやりと光り、遠くで港の喧騒がまだ続いている。
ベッドに腰を下ろした瞬間、扉がノックされた。
「アウレリウス様、手紙が届いております」
現地の給仕が一礼しながら、封蝋された手紙を差し出す。
「……手紙? 誰からだ?」
封蝋を見た瞬間、アウレリウスの目が点になる。王家の紋章、しかも――
オクタヴィア王女殿下の私印。
馬車の中でエドワード殿下から手紙を受け取ったばかりで、まだ返事は書いていない。郵便事情も鑑みると、我らが出発してすぐ2通目が出されたのだろうか。……早くない?
まるで自分の行動を逐一把握しているかのような速さに、背筋がぞわりとした。
封を切る手が、わずかに震える。
『親愛なるアウレリウスへ
新しい土地はいかがかしら? 海の匂いはきっと王都より濃いでしょうね。
あなたがどんな顔で初めての夕食を終えたのか、想像すると愉快でなりません。
こちらは相変わらず退屈です。あなたが留学している間に、この退屈がどれほど増すのか……考えるだけで憂鬱になりますわ。
ところで、アルトフェンの市門の時計台はまだ古いままかしら? もしそうなら、きっとあなたはもう一度そこを通ることになるでしょう。
――オクタヴィア』
「……ひっ」
アウレリウスは手紙を持ったまま固まった。いや、きっと偶然だ、偶然に違いない。だが彼女の手紙はいつもこうだ。遠回しで、意味深で、答えのない謎かけのようで――
「怖い……」
ベッドに倒れ込み、額を押さえるアウレリウスを、窓辺の風だけが慰めていた。




