39 制圧戦
救出作戦 ― 竜騎兵団の出撃
夜の帳が下りるころ、竜騎兵団は一斉に動き出した。
ジークリート団長の号令が飛ぶ。
「全隊、突撃準備! 今宵は竜騎兵団の名に恥じぬ戦いを見せるぞ!」
黒い外套を翻し、槍と剣を構えた騎士たちが月明かりにきらめく。
エミール副官は扇を片手に、しなやかな所作で号令を繰り返す。その姿は優雅ですらあった。
「第二中隊、回り込みますわ! 第三は援護の準備を――さあ、皆様、華麗にまいりましょう!」
その声音は柔らかいのに、命令は寸分の狂いもなく実行される。侯国の精鋭が誇る統率力が光った。
◇◇◇
標的は街外れの古い修道院。帝国兵たちは待ち伏せの構えを取っていたが、竜騎兵団の戦術は一枚上手だった。
第一中隊 が正面から突入し、敵の注意を引く。
第二中隊 が側面から火矢を放ち、逃走経路を封じる。
第三・第四中隊 が背後から一気に雪崩れ込んだ。
ジークリート団長は真っ先に槍を手に突撃し、敵兵を次々となぎ倒す。その背中は伝説の竜騎士を思わせるほどに堂々としていた。
エミール副官は敵兵を扇で指し示しながら的確に指示を出し、華やかな所作の中に鋭い殺気を宿らせていた。
「そこの二人、逃がしませんわよ!」
扇を一振りするたび、騎士たちが敵兵を捕縛していく。
わずか一刻のうちに修道院は完全制圧された。
しかし――。
敵兵たちを縛り上げたところで、誰もが言葉を失った。
オクタヴィア王女の姿が、どこにもないのだ。
捕虜となった帝国兵の一人が、怯えたように呟いた。
「し……知らない……あの女は、ここにはいなかった……!
俺たちにも、別の部隊が連れ去ったとしか……!」
兵士たちは本当に混乱している様子で、どうやら帝国側の連携すら取れていないらしい。
ジークリート団長は槍を握りしめ、低い声で言った。
「……逃げられた、ということか。」
その場の空気が一気に凍り付いた。




