33 戦闘
法務庁舎・正面玄関
朝、オクタヴィアが法務庁舎に姿を現した時には、すでに竜騎兵団が厳重に配置されていた。
その中心に立つのは、リーダーのジークリート。端正な顔に鋭い視線を宿し、腰の長剣に手を添えていた。
「殿下が建物に入られるまで、十歩以内に誰一人近づけるな。」
ジークリートの低い声に、兵たちは一斉に頷いた。
その隣で、漆黒の軍服に身を包んだエミールが、しなやかな手つきで金色の扇を広げ、まるで舞台に立つ役者のように笑った。
「了解よん。殿下には傷一つつけさせないわぁ。あたしの剣にかけてねぇ。」
豪快なジークリートと、美しくも毒のあるエミール。竜騎兵団の顔とも言える二人は、この日も息がぴったりだった。
◇◇◇
オクタヴィアが法務庁舎敷地内の石畳を踏んで間もなく、遠くから怒号が響いた。
「敵襲だッ!」
次の瞬間、屋根の上から黒ずくめの影が十数人、一斉に飛び降りてきた。
弓矢が放たれ、法務庁舎の外壁に突き刺さる。
「下がれ、殿下を守れ!」
ジークリートの指示が飛び、竜騎兵団が盾を構えてオクタヴィアの退路を確保する。
エミールは、扇を畳むとしなやかに抜刀した。
「まったく、女神を狙うなんて趣味が悪いのねぇ。お仕置きしてあげるわぁ!」
彼の剣は舞のように美しく、しかし正確に敵の急所を突き、瞬く間に三人を斬り伏せる。
◇◇◇
ジークリートは長剣を一閃し、敵兵をまとめて薙ぎ払う。
「殿下を庁舎二階へ! エミール、残りは俺が相手だ!」
「りょーかい♡ 殿下はこちらよ、さぁ早く早くぅ!」
オクタヴィアは一瞬だけ振り返り、剣を構える二人の背中を見た。
竜の名を冠する騎士たち――古の伝説の生き残りのように、彼らは法務庁舎を血に染めることなく守り抜こうとしていた。
◇◇◇
数分後、敵は撤退した。
屋根の上から指笛が鳴り、黒ずくめの兵たちは煙幕を張って姿を消す。
ジークリートは血のついた剣を払い、低く吐き捨てた。
「ちっ……囮だったか。」
エミールは扇を広げ、白い息を吐きながら笑った。
「オクタヴィア殿下は無事。けどこれは……始まりねぇ。」




