30 オクタヴィアの決意
朝食を終えたエドワードとアウレリウスは、オクタヴィアに呼ばれてテラスへ向かった。
白いテーブルの上には、まだ温かい紅茶の香りだけが残っている。
オクタヴィアは窓辺に立ち、空を見上げながら振り返ると、艶やかな声で告げた。
「お兄様から伺ったわ。エド、あなたハニートラップに引っかかるなんて……甘いのね」
エドワードの耳まで一瞬で赤くなる。
アウレリウスが一歩前に出て、庇うように声を上げた。
「そ、それは! 私の失態です! 殿下、どうか……」
だがオクタヴィアはすっと手を上げてアウレリウスの言葉を遮る。
「いいのよ。攻めてはいないわ。事実、何も起きなかったのでしょう?」
彼女は椅子に腰をかけ、指先でカップを軽くなぞりながら淡々と続けた。
「結果としてエドの警護はより強化された。帝国ももうあなたを狙わないでしょう。王国の要人に何かあれば、侯国の失態。侯国は小さな国だけれど、背後にいる王国は厄介だもの。……まだ帝国には、大きな一手が足りない」
そして、すっと立ち上がり、艶然と微笑んだ。
「次にことを起こすとしたら──インパクトのある人物は……そう、わたくしね」
「な! 何をおっしゃるのですか!」アウレリウスの声が裏返る。
「もう事務次官殿や竜騎兵団とも話は通してあるわ。さぁ、法務庁舎に行くわよ」
オクタヴィアは颯爽と歩き出し、エドワードとアウレリウスは慌てて後を追った。
メイドたちが静かに食器を片付け、護衛たちが整列する。
「姉上!」
「お待ちください、オクタヴィア殿下!」
だが彼女は振り返らず、軽やかな足取りでテラスを後にした。




