28 オクタヴィア来訪
旧ローゼンタール邸 正門前
晴れ渡る青空の下、馬車がゆるやかに止まり、扉が開いた。
現れたのは、流れるようなプラチナブロンドの髪と、透き通る空色の瞳を持つ女神のごとき女性──王女オクタヴィアであった。
侯国の使用人たちの間から、抑えきれないため息がもれた。
クラウスがすぐに前に進み、見事なボウアンドスクレープとともに深々と頭を下げる。
「殿下をお迎えできる栄誉に、旧ローゼンタール邸一同、心より感謝申し上げます」
一応はいつもの厳格な調子だが、声がわずかに裏返っていた。
クラウスが下がると、控えていたマルタが小声で言う。
「眩しくて目が開けられないよ!」
オットーも腕を組みながら「今日が人生で一番幸運な日かもしれん」とぼそり。
クラウス本人も「噂には聞いておりましたが……これほどまでお美しいとは! 私の命は今日までかもしれません」などと真顔で言い出すものだから、後ろでクレメンスが呆れて笑っていた。
だが当のオクタヴィアは、褒められ慣れているのか、まるで白鳥のような余裕を崩さない。
「お世話になるわね。皆の者、よろしく頼むわ」
優雅に微笑むその姿は、誰が見ても完璧だった。
◇◇◇
エドワードが一歩前に出て、恭しく挨拶を済ませると、後ろを振り返り、
「アウル、こちらへ」
呼ばれたアウレリウスは──およそ一年ぶりに見るオクタヴィアの姿に一瞬、呆けてしまった。
はっとして、慌てて駆け寄り、跪く。
「久方ぶりにお目にかかれて……。
…………我が姫よ。
長き日々、あなたの御声を恋い焦がれ、ようやくその御姿を仰げる今、
私の心は凍える冬を越え、春を迎えたかのように震えております」
見上げた瞬間、オクタヴィアの首元に、かつて自ら贈ったつけ襟が輝いているのを見て、アウレリウスの瞳が潤んだ。
オクタヴィアはさらりと、しかしわずかに耳を赤くして答えた。
「わたくしも、お前に会いたかったわ」
涼やかな声にほんの少しだけ混じる照れ。
エドワードはニッコニコで二人を見守りながら、後ろではマルタとオットーが「ほぅ……」と深いため息をもらしていた。




