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24 日常への回帰と小さな違和感

 その後は、まるで何事もなかったかのように業務が続いた。

 エドワードとアウレリウスは法務庁舎の小部屋で、マティアスに与えられた書類を黙々と処理し、昼にはオットー特製のランチボックスを囲み、夕方には旧ローゼンタール邸に戻る。


 だが、ある日。

 市場視察の途中、アウレリウスの目がふと鋭くなった。


「……今の人、妙じゃなかったか?」

 通りすぎた商人のやり取りを見て、小さな違和感を覚えたのだ。


 同じ頃、法務庁舎で書類を読み込んでいたエドワードもまた、数字の端に不自然な改ざんの痕跡を見つける。

「これ……計算が合わない。単純な間違いじゃない気がする」


 二人の胸に、同じ予感が芽生えた。

——また、何かが起ころうとしている。


◇◇◇


 それから数日が経ち、リューネブルク侯国での生活は、完全に落ち着きを取り戻していた。

 法務庁舎での業務は順調に進み、エドワードは毎日マティアスの指導を受けながら新しい法律体系や行政の仕組みを学び、アウレリウスは周囲の人々の言葉や立ち振る舞いから、この国特有の空気や気質を掴もうと努めていた。


 けれど――その穏やかな日々の中で、再び小さな違和感が顔を覗かせる。


 市場調査のために閲覧した商会の帳簿。

 それは法務庁舎に正式に提出された記録だったが、どこかおかしい。数字が不自然に丸められ、しかも複数の商会が同じ形式で記入している。


「……これ、まただな」

 エドワードが書類を机に置き、アウレリウスに目を向ける。


「前に見た記録と似ている。偶然とは思えない」


◇◇◇


 すぐに人払いがなされ、小さな執務室に静寂が戻る。

 エドワードとアウレリウスは机を挟んで向かい合った。


「アウル。これ、やっぱりただの会計ミスじゃないよな」


「うん。偶然にしては手口が似すぎている。意図的に帳簿をごまかしているとしか思えない」


 エドワードは指で机をとんとんと叩きながら、険しい表情をした。


「……もしこれが、もっと大きな話に繋がっていたら?」


 言葉が途切れる。アウレリウスの表情も険しくなった。


「エド、これは僕たちだけで抱えるべき話では無さそうだ。ウルバヌス猊下に相談しよう。猊下なら、王国の調査隊を適切に動かしてくださる」


 エドワードはしばらく沈黙したのち、静かに頷いた。


「わかった。……猊下に報告しよう」


 こうして二人は、初めてこの国の“影”に本格的に目を向ける決意を固めたのだった。

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