21 侯国の人々は温かい
翌朝。
いつもの長い朝食のテーブルに、エドワードとアウレリウスは静かに座っていた。パンをちぎる手もぎこちなく、会話もなく、二人ともどこか気落ちした様子だった。
事情を知っているクラウスは、仏頂面のままパン皿を置きながらぼそりと言った。
「……殿下。人生、良いことばかりではございませんが、悪いことばかりでもございません」
一見すると説教だが、その声色には妙な温かみがあった。
マルタが豪快に笑いながら、ソーセージをどんどんエドワードの皿に盛っていく。
「食べなきゃ元気も出ませんよ! ほらほら、食べなさいってば!」
エドワードはさみしげに微笑んだが、その顔にまだ影が落ちているのを見て、オットーがふいに立ち上がった。
「殿下ァ〜! 元気がないなら……歌うしかありませんなッ!!」
そう言うなり、オットーは椅子を蹴って立ち上がり、鍋の蓋を叩きながら陽気な歌を歌い出した。
マルタが「待ってました!」とばかりに腰に手を当て、豪快にステップを踏む。
クラウスまでが、なぜかキレッキレのダンスを踊り始め、侯国の使用人たちは手拍子を打ちながら歌に加わった。
「殿下のご機嫌を〜 太陽みたいに〜 輝かせましょう〜♪」
フランツまでがどこで覚えたのか奇妙なダンスを披露し、クレメンスは呆れながらも器用に侯国流のダンスを踊り、カールはぎこちないながらも参加する。
王国から連れてきた使用人たちもついに覚悟を決めて頷き合い、輪の中へ加わった。
最初は唖然としていたエドワードだったが、みんなの温かさと、必死なまでの明るさに胸がいっぱいになり、ついに泣き笑いの顔になった。
「……みんな……ありがとう……っ」
エドワードの肩が震えた瞬間、隣のアウレリウスがぐしぐしと顔を拭い始めた。
「うわぁぁぁん……エドが笑ってくれたぁ!! よかったぁぁぁぁぁ……!」
「本当にアウルは泣き虫だなぁ」
エドワードが苦笑し、みんなの笑い声が食堂いっぱいに広がった。




