20 守りたい物
エドワードの部屋を辞したアウレリウスは、深呼吸を一度してからクレメンス、カール、フランツの三人を集めた。
「イザベラ嬢は──敵国ヴァルハラ帝国の間者だった」
淡々と告げる声に、三人はそれぞれに顔色を変えた。クレメンスは目を見開き、カールは低く唸り、フランツだけがぽやんとした表情のままだった。
アウレリウスは続けた。
「殿下のお心が彼女に傾いていること、僕は気づいていた。……気づいていながら止められなかった。そして暴いたのは僕だ。殿下を守ったつもりで、一番傷つけたのも僕だ」
そう言って深く頭を下げた。
「だから……僕の代わりに、殿下の心を守ってほしい」
小侯爵が頭を下げるという異様な光景に、クレメンスとカールはそろってギョッとし、しどろもどろに手を振った。
「あ、いや、でも……そんな──」
そこへフランツが、いつも通りのんびりとした調子で口を挟んだ。
「無理ですよぉ。エドワード殿下の心をお支えできるのは、アウレリウス様だけですもん〜」
妙に的を射た言葉に、アウレリウスは一瞬だけ顔を歪め、何も言わずに部屋を後にした。
◇◇◇
しばらく時間を置き、アウレリウスは再びエドワードの部屋を訪れた。
「入れ」
扉を開けると、エドワードは机の上に両肘をつき、深い影を落とした瞳で書類を見つめていた。
「エド」
アウレリウスは膝をつき、低い声で言った。
「……守れず、申し訳ありません。私にとって殿下の御身が何よりも大切です」
エドワードはしばらく沈黙していたが、やがてゆっくりと顔を上げた。
「わかってる。うん、よく知ってるよ。アウルが僕を大切にしてくれていること。……大丈夫」
悲しげに微笑むその顔に、アウレリウスは言葉を失った。




