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19 告げる

 旧ローゼンタール邸の一室。窓の外では夕陽が沈みかけ、橙色の光が長い影を作っていた。

 エドワードは机の上に置かれた書類に目を通していたが、ノックの音に顔を上げる。

 

 入ってきたのはアウレリウスだった。いつもは飄々とした彼の表情に、言いようのない緊張が走っている。


「アウル、どうした?」


 エドワードが問いかけると、アウレリウスは一瞬口を閉ざし、深く息を吐いた。


「……エド。イザベラ嬢の件なんだけど」


 その名が出た瞬間、エドワードの胸に小さな痛みが走る。何かが崩れる予感がした。


◇◇◇


「彼女は──ヴァルハラ帝国の間者だった」


 静かな声が部屋に落ちる。まるで刃のように。


「……間者?」


 エドワードの声は掠れていた。アウレリウスは淡々と続ける。


「我々が正体を掴む前に、彼女はすでに侯国内から姿を消してしまった。手の者がいくつか足取りを追ってるけど……おそらくもう、捕らえるのは難しいだろう」


「姿を消した……?」


 思わず繰り返すエドワードの瞳は揺れていた。   

 彼女の知的な笑み、少ない言葉のやり取りだったが、確かな温かみを感じていたというのに。すべてが薄氷の上に築かれた偽りだったというのか。


◇◇◇


 アウレリウスは躊躇わなかった。いや、躊躇えばエドワードに余計な期待を抱かせると分かっていたのだろう。


「エド、彼女は目的のためなら手段を選ばない女性みたいだ。接触は偶然じゃなかった。エドの警護をかいくぐり、心を許させるための接近だったんだ」


 エドワードは椅子の肘掛けを強く握った。


「……僕は……彼女を信じていた」


 言葉が震えていた。アウレリウスは目を伏せ、深々と頭を下げる。


「申し訳ない、エド。でも、エドの安全が第一だ。──彼女の目的までは掴めなかったよ。でも、必ずや真実を突き止める」


 夕陽はすでに沈み、部屋は淡い闇に包まれつつあった。

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